蛮族な結月ゆかりと弦巻マキがルビコン3で暴れるやつ 作:その辺の残骸
イスニアの国営アリーナはオーソドックスなドーム型屋内試合会場や、様々な戦場を再現した屋外試合会場を有する大規模なものだ。
登録ランカーは傭兵よりも民間人が多く、安全性を最重視した厳格なルールと相まって健全なモータースポーツとしてのアーマードコア・バトルが繰り広げられている。
上位ランカー同士の試合となれば観戦チケットの値は張るが、自由解放されている試合会場を使った野良試合なら安価で終日観戦できる。
観戦ハードルが低いうえに、野良試合での利用者に対しても、整備や武器弾薬のサービスが施される手厚さが相まって、アリーナはイスニアにおいて高い人気を博しているのだ。
というわけで、結月ゆかりと弦巻マキもこれからイスニア国営アリーナの手厚さのお世話になるわけだ。既にレンタルガレージからエインセルとキルドレは運び込まれ、パイロットを待っている。
紫髪と金髪の美少女蛮族は身支度を整えているところだ。
更衣室で衣服を全て脱ぎ、一纏わぬ姿で極薄の被膜と装甲で造られたスーツを手に取っている。
「よいしょっ…と」
ナノスキンスーツの首穴に足先から通して、マキは首元まで引っ張り上げた。
背中合わせになっているゆかりが首元のスイッチを押して、素肌にナノスキンスーツを完全に密着させる。
空気が抜け、引き締まったヒップラインがぴったりと縁取られた。筋肉で上向きになった豊満なお尻が、ナノスキンの紫色に艶光る。
ACの戦闘機動によってかかる、10G以上の荷重から装着者を保護し、なおかつ着脱がこれほど簡単なパイロットスーツはごく限られている。
その上、着用中の衛生を半永久的に保証し、ナノマシンの浄化作用により飲料水の確保さえ行う耐環境スーツとなれば全宇宙を探してもこのナノスキンスーツくらいなものだ。
魅惑的なラインを赤と白で彩ったマキは目の前で拳を握って気合を入れる。
それから、豊満な胸を揺らしながらくるりとターン、軽くストレッチしている最中のゆかりの背中を見つめた。
その視線から迸る、相棒の闘志に反応したゆかりはぴたりと静止。お尻がきゅっと力強く引き締まって、激しい闘志を雄弁に物語った。
「それじゃ行こっかゆかりん」
振り向いたゆかりと目を合わせながら、普段のように声を掛ける。
「ええ」と穏やかに応じるゆかり。
ブーツ状に硬化したナノマシンの靴音が二人分、通路に響く。
更衣室を出て格納庫に向かい、ゆかり達はACのコクピットの高さに合わせたキャットウォークに上がった。並んだ二機の人型機動兵器の傍に水色の長い髪をした可愛らしい少女の姿がある。
葵は二人に向かって歩み寄った。作業着として白いナノスキンスーツを着ている。たった独りで二機のACの整備をこなす、ぴったりとしたスキンタイトスーツ姿の美少女の姿は他のACに取り付いてる整備員の注目を集めていた。
「エインセル、キルドレとも準備は完了しています。オーダー通り、キルドレのアセンブルは変更してありますよ、マキさん」
「ありがと、葵ちゃん」
二機の整備を担当する葵は先にガレージに入って、試合前のチェックを一通り行っていたのだ。
キルドレは脚部を逆関節タイプ『RC-2000 SPRING CHICKEN』に交換してある。ルビコンにて開発された、この脚部は葵からしても興味深く、優れた性能を備えていた。
フルカスタムされたトリコロールカラーの中量二脚エインセルに乗り込んだゆかりは、高出力ジェネレーターの出力を引き上げる。
隣では単独ミッション用に重レーザーライフルとレーザーライフルのダブルトリガーに手持ち兵装を変えた、深紅のACキルドレが準備を完了。
なお、KARASAWAとMOONLIGHTは別の武装に変更している。
葵に見送られながら、二機はリフトに乗り込み、会場への移動を開始した。
コクピットの中で、ゆかりは目を閉じて集中していた。対してマキは鼻歌を歌い、楽し気だ。
リフトが停止した。前方のシャッターが開き、戦闘区画への侵入許可がモニターに表示される。
エインセルとキルドレは同時に闘技場に進み出て、睨み合う。
続いて、試合開始の合図が表示される。
Ready――――リニアライフルとバーストライフルを構えるエインセル。同じく二丁のレーザーライフルを構え、背部キャノン二門の砲身を担ぐキルドレ。
Go!――――クイックブーストにより前方に跳び、さらに互いが抱える火砲をぶっ放し合いながら縦横無尽に飛び回る!
『はっ! いまいち調子が出ていませんねマキさん! これなら私が勝ちますよ!』
『それはどうかな! 側面、貰ったよゆかりん!』
下を噛みそうなほどの高速戦闘を演じながら、二人は通信で煽り合う。
アリーナの観戦フロアの一つでピンク髪の海賊商人、茜はゆかりとマキの対戦を見守っていた。
終日観戦可能、出入り自由というだけある。フリー対戦を映すハコの座席数は、ランカーの公式戦より遥かに少なく、客もまばら。茜の後ろの中年男など前の試合が退屈過ぎて寝ていた。
過去形なのは見た事もない洗練されたパーツで構成されたACとアーキバス製のパーツが多数アセンブルされたACによる激しい戦闘の音で目を覚ましたからだ。
壁を蹴って跳び跳ねるだけでなく、天井さえ足場にする。深紅の逆関節機による順逆自在の戦闘に目を剥く隅の席の観客に思わず、茜は微笑んだ。
回避困難な角度からの射撃を大推力のブーストで難なくいなす、白と青に赤でアクセントを加えたエインセル。
機動性重視の軽量機を遥かに上回る加速は増設された各部のブースターによるものだ。搭乗者にかかる凄まじい慣性荷重と引き換えに、凄まじい機動性を発揮することができる。
ゆかりとマキがルビコン3を離れる際、解放戦線から報酬として提供されたルビコン勢力の切り札、ALBAフレームの試作モデルに惚れ込んだ葵がインナーフレームから手を加えて仕上げた唯一無二のACがエインセルだ。
ファーロン・ダイナミクスの技術提供以前のフレームであるため、完成版のALBAとは異なる点が多い。増設されたブースターによる大推力を前提としているため、装甲は増量され脚部は中量二脚となっている。
インナーフレームまで弄っているためアセンブルに制限がある。
おまけに操縦性は極めてピーキーかつパイロットに殺人的な負担のかかる機体だが、ゆかりはこれを苦も無く乗りこなしていた。
フリー試合の様子はホールの小型モニターにも映っており、素性不明なパイロット同士の激闘を大画面で拝もうと続々と客が入ってくる。
あっという間に観客席に熱狂が渦巻いた。
『最後はキックで!』
『判定勝ち、です!』
三分というタイムリミットのある試合だ。互いに撃破は望めないので、少しでもダメージを与えて損傷度合いを数値化したAPの値で判定勝ちを狙っていた。
アサルトブーストを吹かし、互いに稼ぎ合った加速度からの行動選択は射撃で牽制してからのブーストキック。
惹かれ合うようにして相手に突っ込む二機。蹴り出した脚部がぶつかり合い、重い金属音が響いた。
同時に試合終了となる。試合結果は――――
『やっぱりこうなるかぁ』
『次こそは勝ってみせますよ!』
興奮で火照った体を休ませながら、ゆかりとマキは呟いた。ナノキンスーツの下では、すぐに処理できないほどの汗が裸体を覆っている。
APは同値であり、引き分けと判定されたのだ。
故郷での初めての交戦から今日まで。ゆかりとマキの戦いの結果は常に引き分けなのだった。
もう一戦するべく開始位置に戻ろうとしたが、茜から連絡が入った。
『何かありましたか、茜さん?』
緊急事態を疑うゆかりである。
『今、二人に依頼したいって連絡があったんや。このアリーナの支配人さんからやで』
席を後にして、廊下で携帯端末を使い茜は告げていた。ゆかり達のACのオーナーとして登録されているので、アリーナからの連絡はまず茜に届くのだ。
『アリーナの!? 何々、どんなお仕事!?』
『ほほーう、今の試合で私達の実力が認められたのでしょうか。詳しい話を聞かせて貰いましょう!』
二人の少女蛮族は興味津々で、茜にとって嬉しい反応だった。