蛮族な結月ゆかりと弦巻マキがルビコン3で暴れるやつ 作:その辺の残骸
仕事の打ち合わせのためだけに、一流レストランでディナーとは。
(なんとも優雅なものですね)
結月ゆかりは窓の外を流れていく中心街の景色を眺めている。タダ飯にあり付けるので、悪い気はしない。
少女達は華やかな容姿に相応しいドレスに身を包んでいる。ちなみに提供者は茜である。
琴葉姉妹は可憐さを押し出したシックなフリルドレス。基調とする色は茜が白、葵が黒。普段着とは逆にしている。
一方、ゆかりとマキは身長の高さと肉体美を押し出した、タイトでスリットの深いデザインのドレスだ。
黒紫色のバックレスドレスを纏ったゆかりが琴葉姉妹に続いて車から降りた。
夜風は少し冷たく、後ろはお尻の割れ目が見える寸前まで肌を晒している。
だが、ゆかりくらいの健康優良蛮族美少女ともなると、この程度で寒さを感じないものだ。
「なんだか緊張してきちゃった。もっと地味なドレスにしたほうが良かったかな? 」
派手な赤色が金髪に映える、ミニ丈チャイナドレスを身に着けたマキが降り立つ。普段、ストレートにしている髪は後頭部で上品に纏めてある。
ぴったりとした立て襟のチャイナドレスは、突き出る巨乳の輪郭を縁取っていた。
股間と臀部を隠す、前後に垂れた布の横幅は、かなり際どい。
マキは引き締まった腰や豊かなお尻の形を惜しげもなく披露していた。
レストランの煌びやかな威容に気圧され、戦場では決して見せない弱気になる金髪の巨乳蛮族少女だった。
不意にゆかりがマキに近寄り、肩に触れながら美貌を寄せた。
「そのドレス、とても素敵ですよ、マキさん。胸を張って行きましょう」
ボリュームと形を両立したマキの胸部と並ぶと、哀れさを覚えるほど平坦なゆかりの胸部である。
だが、当人はまるで巨大な乳房を揺らしているのかように歩んでいた。
(ゆかりん――――カッコいいっ!)
ゆかりの言葉と立ち振る舞いに勇気を貰ったマキは堂々と突き進み、代表として先頭を歩む茜の背中を追いかける。
胸はともかく、二人のサイドスリットから露わになっている、太股や長い脚には、誰もが見惚れる魅力があった。
一同は個室に通され、イスニア国営アリーナ側の代表者、支配人その人と面会することになった。
アリーナで試合した昼間に接触を受け、その日の晩にレストランでの会食がセッティングされた。
(ははーん、やっぱ金のあるトコは違うなぁ)
ということは、このレストランの個室は、アリーナが常に確保しているのだろう。茜はそう推測した。
席についた一同はリラックスしたムードで、イスニア各地の名産を用いた料理を味わっている。
依頼者であるアリーナの支配人は仕事の話をいきなり切り出さず、ゆかりとマキの試合での戦いぶりを褒めそやした。
世辞ではなく、本心のようにゆかりには見えた。アリーナの運営に携わるだけあり、AC乗りの実力を見抜く、確かな目を持っているようだ。
ちなみに、テーブルマナーとは無縁の惑星に生まれた蛮族達であるが、宇宙を飛び回るなかで、人並みに学んでいた。
あからさまな不作法をすることなく、優雅にディナーを味わっている。
「むっこれは……!」
ゆかりはメインディッシュの魚料理を口にすると、目を見張った。
レモンをベースにしたソースと絡み合った白身魚がほぐれ、目の覚めるような美味が広がる。
マキをはじめとした仲間達の様子を窺うと、皆、似たような反応で感激していた。
デザートの賞味を終え、いよいよ仕事の話になった。
とはいっても、リラックスした雰囲気は変わらない。殺しや破壊活動の仕事ではないからだ。
「お二人に依頼したいのは、週末に催されるスペシャルマッチ、我がアリーナのトップ、ヴィクター・マーシャルとノイアーキス側のACとの試合での演出です。単刀直入に言えば、ヒール役を担っていただきたい」
依頼人の口から語られるのは、改めての確認であった。
「アリーナでの試合経験には自信があります。ですがヒール役は始めてですね」
マキはゆかりを真似た丁寧な口調で応じていた。
「ご存知かもしれませんが、現在我が国とノイアーキス社は微妙な関係にあります。マーシャルは生粋の愛国者としても知られる男で、かつては地球圏の木星戦争でも活躍した、イスニアの国民的英雄なのです。彼がノイアーキス社のエースと対戦して、はっきりとした勝敗が決まる。すると、それが呼び水となって近頃の反体制運動が激化して、暴動に発展するかもしれない」
支配人はイスニアのトップランカーがノイアーキスを完膚なきまでに叩きのめす未来を確信している口振りだった。
「我々の危惧は皆さんには馬鹿馬鹿しいと思えるでしょう。ですが、今は一部の国民とその背後にいるノイアーキスを刺激するのは避けたい時期なのです」
ノイアーキスがイスニアを騒がせる運動に噛んでいるのは、関係者にとって周知の事実だった。
最悪の事態を想定して、ローグトレーダーを頼ってまで兵器を輸入する一方、現在は関係改善のために妥協点を探っている段階なのだ。
ゆかりは内心では、星間企業を甘く見ているという感想を抱いたものだが、依頼人の不興を買わないよう己の内に留めておく。
「そこで私達が敵役を担い、両雄が力を合わせて撃退、という筋書きが必要なんですね」
「その通りです。イスニアの健やかな未来のためにも引き受けていただけませんか?」
報酬額は十分であり、引き受けない理由はなかった。
帰りの車の中、ゆかりは少し申し訳そうに葵に声をかけた。
「葵さんが仕立ててくれた機体は、しばらく寝かせることになりますね」
「いいんです、ゆかりさん、マキさん。それよりも明日からの試合の準備、精一杯手伝わせてもらいますね!」
琴葉姉妹を交えて、依頼人と意見交換して具体的なプランを煮詰めたのだが、結果として、買い手がつかずコトノハ丸に放置してあった旧式ACを用いることになった。
メカニック担当である葵がそのACの調整を行う。明日から早速だ。
「悪いけど、ウチは先にひと風呂浴びて寝るで」
「はーい」
帰ってくるなり茜は風呂に向かった。手早く身に着けている衣服を脱ぎ、最後に白いショーツを下ろす。
「よっしゃ」
入浴のためにピンク色の髪を纏め、腰に両手を当てたポーズになる全裸の茜。堅苦しい正装からの解放感を素っ裸に感じながら浴室のドアを開けた。
明日から忙しくなる。温かいお湯に浸かって、たっぷりと睡眠を取らなければ。
翌日。コトノハ丸から運び出された二機分のACパーツが、アリーナのハンガーで組み上げられた。
ゆかり達が割り当てられたハンガーは機密保持のために、部外者立ち入り禁止となっていて、整備も葵一人で担う。
それができてしまうのが琴葉葵というメカニックだった。
ナノスキンスーツを身に着けた少女達が見上げているのは、アンティークの極みといって良い二機だ。
曲線的な青い装甲を纏った『陽炎』は忍者を意識した意匠の通り、隠密行動と機動戦に長ける。
その隣に立つ、白い装甲のACは特徴的なブレードアンテナを備えた『ヴィクセン』。
腕部が異様に長い、異形のシルエットには洗練された造形美がある。
宇宙進出が本格化する以前の時代において対立していた二つの巨大企業が開発したアーマードコアであり、その存在を知る者は極めて少ない。
「この機体ならインパクト抜群ですね」
葵に機体の詳細を聞くマキの隣で、ゆかりは歴史の闇から蘇ったアーマードコアを見つめ、満足そうに呟いた。
少女達は、自分達が関わるアリーナでの試合が一企業の崩壊という結末を辿る動乱の前触れになるとは、この時知る由もなかった。