蛮族な結月ゆかりと弦巻マキがルビコン3で暴れるやつ   作:その辺の残骸

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イスニアの嵐Ⅱ

 背部に追加装備された六基のブースターが燃焼し、音速の五倍の巡航速度を叩き出す。地上の景色は都市の灰色から豊かな自然の緑へと移り変わっていた。

 

 トリコロールカラー、ヒロイックなエインセルが深紅の逆関節ACキルドレに先行している。

 

 十八メートルの機体が、猛烈な速度で大気を切り裂いて起こる気流に煽られないように距離を取り、キルドレは右舷後方に位置していた。

 

『守備隊は依然として押されています。最寄りの基地から出撃した援軍のETA(到着予定時刻)は私たちの到着から約二分後。こちらも妨害工作を受けたようですね』

 

「間に合うのが一番だけど、内部に入り込んだ敵を追いかけるのも考えたほうがいいか」

 

 体にかかる慣性荷重を物ともせず、紫髪と金髪の蛮族美少女は会話する。

 イスニア軍からデータリンクを回してもらい、発電所で起きている戦闘の推移をリアルタイムで把握していた。

 

「――――あっ! またやられた!」

 

 マキは緑の輝点が二つ消えるのを見た。イスニア軍のMTを撃破した敵の動きを目で追う。高速で動き回る三つの赤い輝点は一撃離脱戦法で守備隊を翻弄していた。

 

 さらに防衛ラインの内側に入り込んだ同じ赤の輝点が二つ。こちらは対空ミサイルやレーザー砲塔を中心に破壊している。

 

 前者は空中機動に特化したAC、後者はタンク型の重装ACだ。

 

『発電所に敵機が侵入した場合、お任せしてもいいですか?』

「もっちろん!」

 

「そのために同乗させてもらったんです。任せてくださいゆかりさん」

 

 後部の非常用シートから葵が答えた。呼吸が少し乱れていて苦しそうだ。葵はメカニックである。パイロットではないし、出鱈目な身体能力の蛮族二人に比べれば常識の範囲の体力しかない。

 

 重労働慣れしてはいるが、それでもマッハ5の加速がもたらす荷重は大きな負担になる。加速に耐えて会話に加われているのは、白い被膜のナノスキンスーツのおかげだ。

 

 清楚な顔立ちに華奢な少女らしい体付き。そんな可憐な水色髪の美少女が大股を開いて、シートに座って踏ん張っている。両手は空間投影コンソールを素早く叩いていた。葵はゆかりとマキに報告する。

 

「敵ACのフレームを照合しておきました。シュナイダー社とベイラム・グループの純正品ですね」

 

「すごっ! もう調べたの!?」

 

「はい。カメラ映像ももらっているので簡単でした」

 

『どちらも相当数がブラックマーケットに出回っていますから、機体構成だけではどこの所属か見当が付きませんね』 

 

「ですね」

 

 これには葵も同意する。実際、琴葉姉妹の船であるコトノハ丸も"ルビコンの解放"の恩恵を受けてベイラムとアーキバスのACパーツの在庫を充実させていた。

 

「てっことはとっちめて誰が黒幕か吐かせるのがいいってことだね!」

 

「そういうことです!」

 

 意気揚々とマキが叫び、ゆかりが肯定する。二人ともやる気満々である。

 筋肉が女性的なボディラインを引き立てる肢体にも力が漲っていた。

 

 

 イスニア中部の山岳地帯にある発電所。その各所では黒煙が立ち昇り、火災が起こっていた。

 

 配備された固定火器や機動性重視の汎用MT――ACに近いフォルムのヒト型の残骸が幾つも転がり炎上している。

 

 たった今も守備隊の対空砲火を掻い潜り、上空から銃弾の雨を降らせてMTを撃破したACが急旋回。ヴェイパートレイルを曳きながら飛び去り、再攻撃軌道に入る。

 

 パイロットは辛うじて脱出レバーを引き、コクピットブロックごと機外に排出されていた。打ち付けて痛む体で外に這い出て、空を我が物顔で飛ぶ三機編成のACを睨んだ。

 

 別方向で轟音。襲撃者の別動隊であるタンク型のACがその火力を解き放っている。応援の到着までとても持ちこたえられそうにない。

 

 背後からも耳を劈くような轟きが聞こえ、思わずパイロットは振り返った。凄まじい噴射炎が二つ見えた。黒い点のようだった姿が瞬く間に近づき、はっきりしてくる。

 イスニア軍の所属ではないことはカラーリングで分かった。

 

「新手か?」

 

 そう口にした時、二機から銃火が迸り、襲撃者を撃った。統制の取れた動きで散開する三機のACのうち一機が爆ぜた。黒煙を吹きながら高度を墜としていく。

 

 二機が頭上を通り過ぎる。白、青、赤の派手なトリコロールと深紅のAC。あれは援軍で、恐らく傭兵のACだ。それも凄腕の。

 パイロットは我知らず歓声を上げていた。

 

 

「レーダーコンタクトから五秒経たないうちに一機を中破! さっすがゆかりさんです! 凄腕過ぎて自分が怖い!」

 

 コクピットで自画自賛しながら紫髪の蛮族ゆかりはエインセルを操り、ベイラム製の火力型リニアライフル"LR-037 HARRIS"とバーストライフルBAWS製"MA-J-200 RANSETSU-RF"を撃ちまくる。

 マッハ5の速度が加わった実弾の銃撃は威力、衝撃ともに大きく増大しており、ゆかりは狙い通り敵機にダメージを与えていた。

 

 シュナイダー社の代表的なAC"NACHTREIHER"フレームの三機は黒一色で統一されたカラーリング。地上にいるタンク型も同じく。黒尽くめのテロリストどもである。

 

「空の敵は私が殺りますのでタンクはお願いします!」

『OK!』

 

 素早くマキと言葉を交わすゆかり。既にキルドレは大型ブースターをパージして、急降下している。

 

 一方、エインセルはブースターを付けたまま戦域をかっ飛ぶ。

 

 ほぼ直進しかできない状態のゆかりの射線から逸れた敵ACが反撃してきた。ミサイルが迫ってくる。

 

「三機で一斉攻撃して私を片付けマキさんを全員で囲んで仕留める! そういう作戦なのでしょうけども!」

 

 エインセルを上昇させながらゆかりが吼える。

 

「ですが、それは甘いとしか言いようがありません!」

 

 大型ブースターをパージしてバレルロール。追いかけてきたミサイルは散らばったブースターの部品に命中し、プラペラントタンクが派手なオレンジ色の爆発を起こす。

 

「さーて、稼ぎますよ!」

 

 各部に追加されたブースターを猛然と吹かし、自由になったエインセルが空を駆ける。易々と敵ACの攻撃を避け、機動で圧倒。

 

 追い込むような動きをしながら、まず一機――――先に手負いにしたNACHTREIHERのコアを電磁加速された砲弾が射抜いた。爆発が起こり、黒色の装甲が深い緑を湛える地表に四散する。

 

「このエインセルを仕上げてくれた葵さんの前で戦っているんですから下手は打てないというものです!」

 

 イスニアが送り込んできた援軍が腕利きと判り、狼狽える敵機をさらに追い詰めていく。

 

「おお、やってるねえゆかりん! それじゃあこっちも!」

 

 歯を剥き出しにして、狂暴な笑みを見せながらマキは頭上で起こった爆発を見上げる。

 

「まずはこいつから仕留める!」

 

 既にタンクのうち一機をロックオンして真正面に捉えている。

 

 当然、十字砲火を浴びせられている。

 しかし、マキはブースト噴射で左右に揺れる最低限の回避運動で強引に最高速で突っ切っていく。

 

 押し込んだトリガーを解放。右手のX000 KARASAWAの強力なエネルギー弾を側面のタンクACに喰らわせる。

 炸裂した光弾の青い輝きと熱量は強烈で、瞬間的に敵機は動きを止める。

 

 キルドレは右背部に背負った"DF-GA-09 SHAO-WEI"ガトリングキャノンと併せて左手のVE-66LRAを連射してもいる。これで正面のACを抑え込んでいる。

 

 流石に全身重装甲のタンクACだけあり、ベイラム・大豊系列が不得手とするエネルギー兵器による攻撃であっても致命傷には至っていない。

 

 ガトリングガン、バズーカ、ミサイルと定番の実弾兵器が高密度でマキに襲い掛かる。

 だが砲弾以外はガトリングキャノンで殆ど迎撃。ガトリングのマニュアルに切り替えた姿勢制御で丁寧に受け流していた。

 

「大きく揺れるから葵ちゃんは対ショック姿勢でいてね!」

「はい!」

 

 敵機との距離が縮まったその時、マキは後ろの葵に呼びかけた。クイックブーストを連打し、瞬間的に相手の左側面に回り込んだ。かと思うと急加速。

 

「必殺、マキマキキィィィック!!」

 

 "RC-2000 SPRING CHICKEN"の堅牢な脚部を前方に突き出し、強力なブーストチャージをお見舞いする。その威力と衝撃は重量で勝るタンクが弾き飛ばされるほど。

 

 アサルトブーストのイグニショントリガーを引いており、蹴った直後にキルドレは空に向かって真っすぐ突き進んだ。もう一機のタンクの攻撃を空振りさせ、垂直プラズマミサイルを蹴ったほうに発射。紫色のプラズマが炸裂。

 降下による増速でキルドレは機敏に動いて、レーザーの雨を半ば融解したタンクに叩き込んで撃破。

 

 ちょうど遠方で二つの爆発。ゆかりのエインセルが敵機を片付けたのだ。

 

 

「はー良かった。中に入り込まれる前に撃破できたみたい」

 

 キルドレが着地して、その振動でコクピットが揺れる。後ろで葵の「うぅ」という呻くような声が聞こえた。

 

「葵ちゃん大丈夫だった?」

「ええ。少し頭がふらふらしますけど平気です」

「あーごめん。派手にぶん回しちゃった」

 

 敵機の反応はない。しかし、葵はマキと話しながら違和感を抱いた。

 

「マキさん、発電所の一番近いゲートのほうに向かってもらっていいですか? それとスキャンも」

「いいよ~」

 

 水色髪のメカニック少女の真剣な声にマキは理由を聞くこともなく、キルドレを発進させた。

 

「うーん何も反応はないみたいだけど」

「これならどうでしょう」

 

 後ろで空間投影コンソールを叩いてキルドレのセンサーに手を加える葵。再度、センサーが周辺を走査すると、熱源反応がヒット。森のなかに慎重に隠れていた四脚のACが姿を見せた。

 

「なんで!? 何をやったの葵ちゃん!?」

 

 突然現れた敵影がMDD(モニター・ディスプレイ欺瞞)型ジャマーで身を隠していたことはマキにもわかる。

 しかし、スキャンモードであれば電子的な迷彩を暴くことができるはずだ。

 

「スキャンのプロトコルを変更しました。あのACが装備しているジャマーは新型みたいです。データをゆかりさんとイスニア軍のほうにも回しておきます」

 

『こちらでも確認しました。アーキバスの新製品でしょうか?』

 

 先の五機と同じく黒いカラーの四脚はアーキバス製ACの特徴である流線形のパーツで組まれていた。

 

「多分ノイアーキス製だと思います。似ているけどほら、コアのセンサーポッドとか関節部の構造に独自の技術が使われていますから」

 

 葵が指摘する。なんとなく感じていた予感が確実なモノになったように思えてきた紫髪と金髪であった。

 

「ねえゆかりん、葵ちゃん。わたし思うんだけどやっぱこの件もあの会社が――――」

『とにかく、あの機体を無力化しましょう。貴重な証拠ですパイロットは殺さないように』

 

 真紅のACとトリコロールカラーのACの動きは素早い。

 察知されたことに気付いて慌てて発電所のゲートまで向かおうとするが、マキとゆかりは銃撃で四肢を素早く破壊。

 銃を突き付けて降伏を迫った。

 

 

「無事に終わったみたいやな」

 

 航宙駆逐艦のCICにて、一人ぴっちりとしたナノスキンスーツで瑞々しいハイティーンのボディラインを曝け出していた琴葉姉妹の姉の方、茜。ピンクのロングヘアの美少女である。

 

 茜は腕を組んで険しい表情で戦闘を見守っていたが、敵機の無力化を報せる宣言が出るとほっと胸を撫でおろした。

 覚悟はしていたのだが、妹である葵がACのコクピットで苦しむ姿を実際に見てしまうと気が気でならなかった。

 

 ここからが自分の仕事だと冷静になり、海賊商人(ローグトレーダー)としての感覚で頭を働かせる。

 

 葵の機転で電子迷彩を施した敵機が施設内部に侵入する事態も防ぐことができたのは大きな得点だ。

 イスニア軍が感知できず、放置すれば大惨事を招いていたかもしれないのだから、この点を詰めて報酬を増額してもらおう―――――

 などと算段を練っていると、新たな報告が。あまりにも強引かつ無謀な恐慌にピンク髪の少女は絶句した。

 

「それ本当なんですか!?  ノイアーキスが艦隊を動かして戦力をサフィーロに向かわせてるって!?」

 

 確かな情報であるとオペレーターが述べる。イスニアの嵐の最終局面、その始まりであった。

 

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