蛮族な結月ゆかりと弦巻マキがルビコン3で暴れるやつ 作:その辺の残骸
解放の火は瞬く間にルビコン全土に広がった。
遥か高空、恒星間入植船ザイレムにて発された独立傭兵レイヴンの声明に応え、ルビコン解放戦線の闘士達はアーキバスとの戦いに臨んでいる。
結月ゆかりと弦巻マキは、独立研究都市での依頼の後、解放戦線と長期契約を結び、用心棒の立場にあった。
その流れで一つの任務を果たすことになった。
二人はルビコン3における空の恐怖であった「AH12 HC HELICOPTER」に吊るされたACのコクピットにいる。
ゆかりは紫と黒、マキは赤と白のナノスキンスーツを素肌に纏い、戦闘態勢は万端だ。
以前との違いはエンブレムを背中に描いたフライトジャケットを羽織っていることだ。
裸体に色を塗ったようなナノスキンスーツで過ごしていたら、解放戦線の面々に目のやり場に困ると言われ、胸だけは隠すことになった。
上着を羽織ると、ナノスキンの極薄さからくる感覚的な肌寒さがなくなるし、見た目も気に入ったのでそのままACに乗っていた。
だが、ジャケットとぴっちりスーツとのギャップで余計に煽情的になっている気がした。
下を見れば、雪に覆われた山々が高速で流れていく。ゆかりとマキには、その景色を眺める余裕があった。
「間もなく降下予定地点だ。機体に問題はないか?」
大型ヘリから聞こえる緊張した声はアルカディウス姉妹の姉、シエルのものだ。
相変わらず、惑星封鎖機構のスキンタイトなパイロットスーツを身に着けている。ガンナーシートには妹エセルの姿もある。
特務機体として部品一つ一つが厳選され、お尻を預けるシートも選りすぐりのものが使われていたカタフラクトとは違う。
ヘリのシートは硬く、銀髪美少女姉妹の可憐なお尻は長時間の飛行で痛くなっていた。
そんな事はおくびにも出さず、姉妹は真剣な表情を浮かべていた。
ヘリの周囲にHCを隊長機とする三機のLCが伴い、護衛していた。
全ての機体に細かい傷が残っており、塗装も剥がれている箇所がある。
戦闘には支障がないが、封鎖機構の統制された整然さが損なわれてる。
「こちらは良好です」
「問題ないよ! これならアーキバスの連中をたくさん倒せそう!」
ゆかりとマキは笑顔でシエルに応えた。
尊敬する上官や同僚の命を奪った悪辣な独立傭兵コンビであるが、味方にすればこれほど頼もしい奴らはいないとシエルは痛感せざるを得なかった。
独立研究都市から大型ヘリに乗って脱出した後、姉妹はルビコン解放戦線に身を寄せていた。
惑星封鎖機構から離れ、その大儀について、システムについて考えたかった。
何より、理不尽に戦火に晒されるルビコンの人々に強いシンパシーを抱いていたのが大きな理由だった。
強力な大型ヘリと特務少尉という高い地位にある自分達の身柄を手土産にして、解放戦線に受け入れてもらったのだ。
「目標施設の防衛網は極めて強固です。どうかお気を付けて」
「ありがとエセルちゃん!」
「ふふん、ゆかりさんにかかればアーキバスの部隊など赤子の手を捻るようなもんですよ! やっでも赤ちゃんの手を捻るのは流石のゆかりさんも気が引けるかも……」
今回の作戦は解放戦線立案もので、アーキバスの再教育センターへの襲撃作戦だ。
友軍を救い出すべく、ベイラムと封鎖機構の残党が有志連合として作戦に加わっている。
今、ヘリを護衛しているのもそうした連中だ。
上層部やシステムの命令ではなく、ルビコンに残った、あるいは取り残された彼ら自身の意志だった。
ルビコン解放戦線、その実質的な指導者であるミドル・フラットウェルは、同胞だけでなくベイラムと惑星封鎖機構の関係者を救出することの政治的な利益は大きいと考えていた。
さらにルビコンからの安全な退去を望む彼らを支援してやるのは双方にとっても得であった。
まあ、そんなことはゆかりとマキにとってはどうでもいいことである。
とりあえず、ルビコン解放戦線はベイラム・グループと惑星封鎖機構に恩を売りたいとだけ理解している。
仕事は再教育センターのアーキバス部隊の排除だ。
先鋒として敵を引き付けつつ殲滅、第二陣として解放戦線及び有志連合の部隊が攻め込む。
白兵戦の中心はプロフェッショナルさと決して仲間を見捨てないことで知られるベイラムの特殊部隊だ。
今回の二人の乗機はベイラム残党から提供された新品のACとなった。
元々はレッドガン部隊に配備される予定だったものだが、諸事情で埃を被っていた。
それを譲ってもらい、手持ちのパーツでアセンブルしてカスタマイズを施した。
MELANDER C3をベースにアーキバスが鹵獲した特務機体との交戦を前提に高火力化してある。
カラーリングは完全な黒で、右肩だけが血のように赤い。吸血鬼(ブラッドサッカー)とも呼べる、見る者に恐怖を抱かせるカラーリングだ。
アーキバスの兵士はレッドガンの亡霊が蘇り、報復を始めたと錯覚するかもしれない。
そうした非科学的なオカルティズムは、陣営を問わず、ある程度信じられていた。
今回の任務では目立つことが重要なので、ベイラムの整備兵達と相談し、このカラーに決めたのだ。
ヘリが高度を下げ始める。ACの投下が間近に迫っている。
「さあ今日も一杯稼ぎますよ! キルゼムオールです!」
ゆかりは操縦桿を握った。戦意(やる気)は満々だ。
「捕まってる人達がいる建物には当てないようにね、ゆかりん」
マキも深呼吸してから操縦桿を握り、相棒に一言。
「十秒後に切り離し!」
集中してヘリを操りながらシエルが告げ、ゆかりとマキは体を強張らせた。
機体が僅かに揺れ、重力に従って雪の大地へと降りていく。
ヘリと封鎖機構の部隊は旋回し飛び去って行く。別れの言葉は不要だった。
ここからは二人だけの任務だ。
漆黒の機体を鮮血で飾った二機のACは着地寸前でABを起動。
「いい加速です」
「うんうん、この機体も気に入ったよ!」
加速のGに上機嫌になりながら、蛮族美少女達は敵地に突き進む。
ACの本領である高速強襲で、第一防衛ラインに飛び込み、火力を解き放った。
アーキバス部隊は既に厳戒態勢にあり、すぐさま漆黒のACを迎撃する。
白昼では迷彩効果は欠片もなく、砲撃を集中させるのは簡単だった。
だが、その姿が強烈なブースト噴射と共に掻き消える。死角からの反撃で次々に鹵獲LCやMT、砲台が撃破されていく。
三機編成の四脚MT小隊が瞬く間に葬られる。
その隊長であった男は漆黒のACが地獄から戻ってきたベイラムの亡霊であると迷信を抱きながら絶命していた。
黒いACにはFCSの捕捉が追い付かない。あまりにも速いのだ。
遠距離から放たれたハイレーザーキャノンを飛び退いて、ゆかりとマキは同時に攻撃者に機体を向ける。
「うわっ! あれがアーキバス・エンフォーサーってやつ!?」
「シエルさんから改修前のデータを貰っていますが、あまり役に立ちそうにありませんね」
惑星封鎖機構の試作大型機エンフォーサーのうち一機が鹵獲され、アーキバスの手によってさらなる高出力化を施されたのだ。
エンフォーサーは高速で接近し、増援と共にゆかりとマキに激しい攻撃を加えてくる。
だが、無意味だった。二人はエンフォーサーの砲撃を回避しながら、片手間の射撃で他の敵機を片付けていく。
「舐めるな、独立傭兵如きが!」
エンフォーサーは有人仕様に改造されており、苛立ったパイロットが突っ込んできたところで、ゆかりは脚部への攻撃を集中させた。
重ショットガン、プラズマミサイル、チャージしたリニアライフルを叩き込み、膝の関節を破壊する。
擱座したエンフォーサーだがそれでも諦めず、パルスエネルギーを全周に放射しつつ、レーザーの散弾をバラまく。
「ルビコンから戦火が引けば貴様らとて食い詰めるだけだろうに!」
アーキバス・エンフォーサーのパイロットはゆかり達に向けて叫んだ。アラート音が後ろで鳴り響ているのが聞こえた。
「企業(あなたたち)が蒔いた火種のおかげで他に仕事は山ほどあります。私達はこの惑星を引き払って、新しい戦場に向かうまでですよ。幸いにも足は解放戦線の方々が用意してくださるようですしね」
レーザーの散弾を軽やかに躱しながら、ゆかりはリニアライフルでレーザーキャノンを撃ち抜いた。パイロットの悲鳴が無線を通して聞こえた。
「そういうこと! 揺さぶりをかけたいなら言葉はもっと選ばなきゃダメだよ!」
笑顔で忠告しながらマキは背後からパイルバンカーでコクピットブロックを打ち抜く。
すぐさま飛び立つ。止まれば集中砲火を浴びてしまう。
無情にも機能停止したエンフォーサーに友軍の攻撃が降り注いでいた。
「意外と楽に片付いたね!」
「ええ。ですが、私達の任務はこれからです!」
アーキバスの部隊を蹴散らしながら二機の吸血機が跳ぶ。
救出作戦が円滑に進むよう、歩兵部隊の脅威も適時排除しなければならないのだ。
視野を広く取りながら、ゆかりとマキは獲物を選んだ。
灰と火が織り成す縁に導かれ、くべられた薪によりルビコン解放の火は激しさを増していく。
その先にあるものが何か、それは誰にも分からない。
この戦場に立つ人々に義務があるとすればただ一つ。生き抜き、結末を識ることだけだ。