ポケミクさんがタイプ相性でわちゃわちゃする話 作:kasyopa
いつかあの彗星みたいに、どこまでも行けたなら。それが私の願いだった。
体の弱い私は、幼い頃にこの土地へやってきた。見慣れない景色に初めて口にする食べ物。そして何より、見たこともないポケモン達。何もかもが新鮮だったけど、全部を受け止めるには体がもたなくてすぐに調子を崩してしまった。
それからはずっと寝たきりの生活。村のお医者さんもお薬を出してくれるだけで良くなる気が全然しない。最初は友達がお見舞いに来てくれたけど、遊べないからと仲間外れにされてしまった。お父さんとお母さんはお薬の為に働き詰め。当然ポケモンもゲットできないから、ずっとひとりぼっちだった。
今日はお祭りがあるみたいで、夜なのに村の皆とポケモンがはしゃいでいる。なんでも大きな流れ星(大人の人は彗星って言ってた)が降ってくる特別な日なんだとか。
「いいなぁ、私も見てみたいな」
窓から見える景色は狭すぎてここからじゃお星様も見えない。いつもなら仕方ない、って諦められるのに特別な日って聞かされたらいてもたってもいられなくなった。
「少しくらいなら、いいよね」
今日は調子がいいから外に出かけてみよう。ただ村の人に見つかったら帰されちゃうから、こっそりと。流れ星が降る日なら大目に見てもらえるかもしれないし。あ、でもゴーストポケモンは嫌かな。
上着を羽織って部屋から抜け出す。人の目を盗んで広場から遠ざかり、喧噪も祭囃子も聞こえない静かな場所で岩場に腰を下ろした。
「わぁ……! すごい!」
空を見上げればすごく大きな星が光の帯を作っていた。思わず息をするのも忘れてしまうくらい素敵な光景に、心が浮かれ出す。
「──♪ ───♪」
気づけば歌を口ずさんでいた。古くから伝わる願いの歌。昔はよくお母さんが歌ってくれてたから、寂しさを紛らわすのにはちょうどいい。思い出の中のあの頃を思い出しながら、あの空に向けて。
そんな時、座っていた岩が急に光り出した。なんだか浮かんできてるみたいだし……もしかしてポケモンの技!?
「あ、わわわっ!」
バランスを崩しながらもなんとか降りて光る岩を眺める。座りやすいお手頃サイズだったんだけど……
気を落としてるのも束の間、光が落ち着いてふんわり宙に浮かぶ何かが現れた。黄色い三つの棘みたいなところに短冊の付いた……ポケモン? そのままゆっくり降りてきたから思わずキャッチしてしまう。赤ちゃんみたいでかわいいな。
「でも、こんなポケモン見たことないし……」
頭を傾げているとその子の目がゆっくり開かれる。私の目の色とそっくりの碧色でとっても印象的だった。
「おはよう。あなたはだあれ?」
初めましては夜に合わない目覚めの挨拶。そのポケモンもよくわかってないみたいで周りをキョロキョロした後、飛び上がった。背中にある黄色の羽衣が解けてすごく綺麗。
見惚れてたらこっちを誘うように回ったり跳ねたりしている。もしかして遊びたいのかな?
「お医者さんからは走っちゃダメって言われてるけど、まいっか! 待てー!」
そこから始まった二人きりの鬼ごっこは思いの他白熱した。向こうもこっちに合わせてくれるし、たまにはポケモンらしくテレポートして捕まえてきたりなんかもあった。
見た目こそ天女様だけど中身は子供みたいで、私にとっては初めての遊び相手だった。
「♪」
「はぁ、はぁ、待って……」
それでも楽しい時間は続かず、息が上がって崩れ落ちてしまう。無茶、しすぎたかも。誰か呼ばなきゃ、って思ってもここは村から遠すぎる。
「?」
「ごめ、んね。私、体弱く、って」
なんとか仰向けになっても息は戻らない。そのポケモンも心配そうに覗き込んでくれたけど、何が起こったのかわかってなかった。
見上げる夜空には、流れ星みたいな大きな彗星が今も帯を引いていた。
「あの彗星みたいに、どこまでも行けたらな」
流れ星じゃないのに願い事をしてしまう。叶わないって分かっていても、願わずにはいられなかった。
「!」
そんな時、傍にいた子がキラリと光る。優しい光が私を包んで、息が自然と楽になっていった。光が消える頃にはいつも以上に調子がいい。こんなに調子がいいのは小さい時以来かも。
「もしかして、あなたが叶えてくれたの?」
「♪」
「……! ありがとう!」
ニッコリ笑って答えるポケモンを思いっきり抱きしめる。向こうも嬉しいみたいで羽衣がふわふわ私の体を撫でていた。
お礼に遊んであげたいけど、そろそろ帰らないとお父さんとお母さんが帰ってくるかも。外に行ってたのがバレちゃったら大変だ。
「遊びたいけど、もう帰らなきゃ。あなたのお家はどこ?」
「?」
聞いてみても首を傾げるだけ。さっき岩があったところ……でもなさそうだし、もしかして家がないのかも?
そんなことを考えてたら頭の上にちょこんと乗ってきた。
「良かったら私の家に来る?」
「♪」
羽衣をパタパタさせて返事をしてくれる。
「ならこれからも一緒だね!」
一緒、って言った時キラリとまた光った気がしたけど気のせいかも。
これが私の相棒、ジラーチとの出会いだった。
・
・
そして私は今、ジラーチを連れて色んなところを旅していた。
「あれから色んなことがあったね」
「?」
三度笠の上に座ったジラーチがこっちの顔を覗き込んでくる。なんでも幻のポケモンって言われるとっても珍しいポケモンらしい。
あの後家に帰ると両親がいてこっぴどく怒られた。でも一緒にいたポケモンを見るや慌て出していつしか村中で大騒ぎ。そこでジラーチのことを教えてもらった。
願いを叶えてくれるポケモン、とか1000年のうち7日間しか目覚めない、とか言われた。でもなんでか村の人の願いは叶えてくれなかったし、7日過ぎても起きていた。その理由は今でもわからないけど、お別れせずに済んだのは嬉しい。
もしかしたら、これからも一緒、っていうのを叶えてくれてるのかもしれない。
「私の相棒だからね。1000年もお別れなんて寂しいよ」
「♪」
ジラーチも嬉しいのか羽衣をヒラヒラ揺らしながら私の周りを飛び回っていた。そんな私の相棒に感謝を込めて、いつの日の歌を笛の音に乗せる。
「──♪ ──♪」
この子も思い出すみたいに頭の上に座ってくれた。懐かしい思い出に区切りをつけて前を向く。
「それじゃあ、今日も誰かのお願いを聞いちゃおっかな!」
今まで叶わなかった一歩を踏み出す。今度は、私が誰かの願いを叶える番だ!
・
・
そう思っていた時期が私にもありました。
「いやー! 風強いー! 口じゃりじゃりするー!」
色んな場所を旅するってことは、過酷なところにも行かなきゃいけないわけで。今は砂嵐が吹き荒れる荒野地帯を頑張って進んでいる。
前に訪れた村の人は嵐が来るから、って引き留めてくれた。けど次の困ってる人の願いを叶えてあげる為にも村を出た結果がこれ。こんなことなら私が助けてほしいくらい。
因みにジラーチは繭みたいになってリュックの中で丸くなってる。
「テレポートはどこ行くかわかんないし……」
一応ジラーチにお願いして瞬間移動することもできるけど、行き先はどこかわからない。緊急脱出用のお願いだから今は使いたくなかった。
笠を盾になんとか一歩ずつ踏み出す。こんなところで、負けてられない!
『──♪ ──♪』
「あれ……? これって、歌?」
砂嵐の中から歌が聞こえてくる。こんなところで誰かが歌っているんだろうか。でもこの歌声、空から聞こえてくるような……
「おや、こんな場所に人とは珍しい」
次に聞こえてきたのは、声。見上げれば太陽を背にした大きな影が空から降ってきた。
「うわわっ!?」
目の前に着地した瞬間砂嵐も止んで正体が見えてくる。大きな2枚の翼にゴーグルみたいな赤い目のカバー。がっしりとした竜のポケモンの上から、サボテンみたいな色のツインテールが揺れていた。
「誰かと思えば……君だったか」
「君って、私のこと知ってるんですか?」
「ああ、知っているとも。私はあまり好きではないがね」
しっかりと地面を踏み締める姿はどこか自信に満ち溢れていて、年季の違いを見せつけてくる。いかにも放浪者、みたいなボロボロのマントを羽織った女の子が私を見つめていた。
それより、あんまり好きじゃないってどういうことだろう。
「私、あなたに何かしましたか?」
「いや、思ったことを言ったまでだ。あまりお人好しがすぎると痛い目に遭うとね」
「………」
確かに今までもいいことばっかりじゃなかった。大抵の人はジラーチを見れば願いを叶えてくれるって集まってくるけど、それがないと分かれば冷たくなる。知らない人に襲われたこともあった。まあ、その時は全部私がやっつけたけど。
願いを叶えても絶対喜ばれるわけでもない。でもだからって、こんな見ず知らずの人から言われる筋合いはなかった。
「そういうなら、あなたは色んな人を見捨ててるっていうんですか」
「地に足のついているなら聞き入れるとも。しかしそうでないなら、無視するさ」
その言葉で確信した。この人は私と相性が悪い。いや、言わんとしてることはわかるけど、それをそうだと言いたくなかった。
私の想いに呼応して、ジラーチがリュックから飛び出す。見据えるのは一人のトレーナーと一匹のポケモン。
「なるほど、忠告がお気に召さなかったらしい。……フライゴン」
琥珀の瞳が私の姿を映した。
・
・
「フライゴン、ばくおんぱ」
「っ!」
先制はお相手のフライゴンから。いきなりこっちを押し潰そうととんでも無い声量を押し付けてくる。ただ砂も飛んできて痛いんだけど!? 笠ガードする!
「ジラーチ、いける?」
「!」
技は貰っちゃったけど意外と硬い子、怯みもしてないからよかった。なら反撃のとっておきをくらえ!
「ジラーチ、コメットパンチ!」
小さい体と素早い動きを生かして相手を翻弄しながら、その顔に一発入れる。うまく攻撃が決まったからか、さっきよりも張り切っててパワーアップしてる気がした。
「なるほど、威勢がいいのは口だけではないようだ」
「当たり前です! ジラーチは私の相棒なんだから!」
お互いえっへんと胸を張る。小さい頃から一緒の相棒パワーを舐めるな!
「なら私達も相棒らしいところを見せるとしよう。かえんほうしゃ」
「ジラーチよけて!」
フライゴンの口から溜め込まれた炎が一直線にジラーチへ向けて放たれる。軌道は読みやすいから回避も余裕。このまま反撃しちゃえ!
「地面に向けてかえんほうしゃ」
「ええっ!?」
懐に向けて飛び込めたと思えば、熱線が地面に叩きつけられる。反動で生まれた炎の波が2匹とも飲み込んでしまった。
「ジラーチ!」
私の声に応えて飛び出してきたけど、かなり痛いのを貰っちゃった。こっちははがねタイプで効果抜群、対してフライゴンはじめんタイプだから今ひとつ。
自爆覚悟と見せかけて頭が回るのは向こうの方だった。
「大丈夫? 痛くない?」
「──!」
それでもまだジラーチは張り切っていた。こっちはうまく一撃入れたおかげで逆転の目はある。しかしそれにはまたあの炎か爆音を覚悟で突っ込む必要があった。
「……そうだ!」
炎を吐くにも音を出すにも全部おんなじところから出る。だったらそこを塞げばいい!
「ジラーチ、相手のお口にサイコキネシス!」
「!」
「なっ!」
普通なら相手を念力で吹き飛ばしたりする技だけど、相手は大きなドラゴン。全身なら振り払われるかもしれないけど一点集中ならいける!
「これでどっちの技も使えないよ! そのままじゃれつく!」
「♪」
お口が開かなくて戸惑ってるうちに畳み掛ける。遊ぶのが大好きでいつの間にか覚えてた技だけど、結構強いのは後で知った。
相手のフライゴンの体勢が崩れる。このままいっけー!
「フライゴン、そのまま地面に」
しかしあと一歩のところでじゃれるジラーチと一緒に地面に落ちる。倒れたわけじゃない、自分から落ちたんだ。
「いやなおと」
「っ!」
羽が擦れて辺りをつん裂くような音が響く。あまりの酷さにジラーチの動きが止まってしまい、すかさず前足が襲い掛かった。
「ジラーチ、逃げて!」
「そのままじしん」
押さえつけられたジラーチがひしめく大地に沈む。解放された時にはもう目が回っていた。
「思いの外やりすぎてしまった。これを使うといい」
「いりません!」
差し出された薬を跳ね除ける。私の持ってるのでも、十分回復はできるから。
「……そうか。なら、いい」
言葉に詰まってるみたいだったけど、私はその人の方を見ずにジラーチを庇っていた。きっと分かり合えない気がしたから。
「忠告はした。それではな」
そのままフライゴンに乗って飛んでいく。わかってはいるけど、分かりたくない。そんな我儘を私は貫くしかなかった。
・
・
げんきのかけらでなんとかなったけど、万全のためにポケモンセンターへ。ジョーイさんもびっくりしてたけど、怪我してる子だからってすぐに見てくれた。
「はい、どこも異常ありません。ゆっくり休めば大丈夫です」
「ありがとうございます!」
今日はそのままお泊まりすることになって、センターで食事を摂ることに。
「あーもー! 負けたー!」
「──! ──!」
口論でもバトルでも負けたからヤケになっていっぱい食べる。ジラーチもおんなじ気分みたい。
「もう、今度会ったらけちょんけちょんにしてやるんだから!」
相手がいないことをいいことに、騒ぎながらご飯をかき込む。
「んぐっ!? んーんー!」
「──!? ──!」
そうしたら当然喉に詰まるわけで……そんなことより水、水、水!
「どうぞ」
そっと横から差し出される水を慌てて飲み干した。
「んぐ、んっ、んっ、はぁー。ありがとうございます、助かりまし……た……」
「それは何より」
そこにいたのはさっき戦ったフライゴンの人。余裕綽々で手を振りながらその場を後にした。
「………」
やっぱりあの人、嫌いだ。
・おまけ ポケミクさんの技構成
じめんミク:フライゴン(剣盾基準)
ばくおんぱ・かえんほうしゃ・いやなおと・じしん
はがねミク:ジラーチ
コメットパンチ・サイコキネシス・じゃれつく・はめつのねがい
思いついたら続く。