ポケミクさんがタイプ相性でわちゃわちゃする話   作:kasyopa

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二人のショーマン。
バトルはありません。


みずミク×でんきミク

 

 歯の浮きそうな賞賛を受けてわたしは水面に飛び込んだ。しっかりした人に見えて口下手なのが見え見え。それでも嬉しかったし、少しだけサービスしちゃった。

 

 アシレーヌと夜の川を遡って街の中心へ。黄色い歓声が飛び交う会場へこっそり顔を浮かばせれば、煌めく閃光が私の瞳を貫いた。

 

『レディース&ジェントルメン! 今宵の街を彩るは、皆様ご存じスーパースター! その名は──』

 

 ホテルを丸々一つ使ったスクリーンに映るのは、稲妻模様のツインテール。アナウンスすら掻き消す歓声に()()()()()()()が舞い降りた。

 

『今日もみんな元気だね! さあ、痺れるショーを始めよう!』

 

 彼女が眠らない街を築いたと言っても過言じゃない。手品やでんきポケモンから繰り出される演出の数々で人々を魅了する一流ショーマン。あの人は知らないみたいだったけど、それじゃあ人生の半分くらい損してると思うわぁ。

 

「凛々しい目付きに声、ファンサなんてされたらもう眠れないわねぇ……」

 

 私達ショーマンすら魅了してしまう閃光の輝きを遠くからしか見つめられない。

 

「わたしもいつか共演できないかしらぁ」

 

 だからこそ同じ舞台に立つ者として、肩を並べることに思い焦がれてしまう。そんな憧れの目を向けていると不意に視線がぶつかった。

 

「(いけない!)」

 

 思わず水の中に潜る。夜の川でこっそり練習するようなわたしは彼女に見てもらう資格がない。それに何より恥ずかしかった。

 

「(あああ! いけない、いけないわ、勘違いかもしれないのに……)」

 

 厄介オタクもびっくりなくらい想像が捗ってしまう。わたしを見てくれたっていう嬉しさで頬が緩んで、わたしはしばらく顔を出せなかった。

 

 落ち着いた頃にはショーも終わって観客はいつもの日常に戻っていく。舞台の上に彼女の姿はなかった。

 

「はぁ……わたしたちも帰りましょうか、アシレーヌ」

 

 ほとんどを見逃してしまったことに落胆しながら、今日は帰ることにする。でも脳裏には彼女の顔が浮かんで消えなかった。

 

 

 

 昼間のショーはわたしの時間。それでも寝不足な人達には退屈であんまり拍手はもらえない。

 

「(夜ならもっと素敵なのに)」

 

 夜ならアシレーヌのバルーンも、ムーンフォースだってもっと輝ける。でも夜のショーは会場を押さえるのにも一苦労。()()()クラスにならなきゃ街でやらせてもくれない。

 

 わたしみたいな新参者は夜のショーに向けた前座みたいなもの。会場を空けないための賑やかし。それでも、この街であの人のショーが見られるなら安いわねぇ。

 

「あの人に見つけてもらうためにも、もう少し頑張りましょうか」

「♪」

 

 のどスプレーで疲れた喉を癒しながら、街の小川をゆらゆらり。この後は軽くランチでも食べて、ライフセーバーのアルバイトに行かないと。ショーのお金じゃ全然足りないわぁ。

 

「そこのお嬢さん!」

「えっ?」

 

 橋の下を通りかかった時上から不意に声をかけられる。太陽と重なってその顔は誰かわからない。

 

「今少し追われていてね、一つ助けてくれないかい!?」

「え、ええ、わたしなんかでよければぁ……」

 

 どこかで聞いた声だと思いながらも、勢いに負けて返事をしてしまう。その瞬間影は橋から飛び降りた。

 

「きゃあっ! ちょっと、強引よぉ?」

「おっと、急でごめんね。それよりも……」

「あっちだ、追え!」

 

 黒服にサングラスの人達が橋の上で騒いでいる。今にもこっちに飛びついてくるような勢いだ。

 

「な、なにあの人達ぃ?」

「言っただろう、追われているって。さあ、人助けの時間だよ!」

 

 わたしもアシレーヌも歓声と違う騒がしさは苦手。とにかく『アクアジェット』で振り切るしかない。

 

「はははっ! なんだ君も乗り気じゃないか!」

「笑い事じゃないわよぉ〜!」

 

 わけもわからず吹っ飛ばしていたら街の端まで来てしまった。追っていた人達は影も形もない。

 

「ここまで来れば大丈夫かな? いやぁ、それにしてもいいスピード感だったね」

「もう、人をモノトカゲ扱いしてどういうつもりぃ……?」

 

 後ろに座る少女に文句の一つでも言おうと振り返れば、ボーイッシュな服装と丸いサングラスの少女が「たはは」と笑っていた。

 

 そしてなにより特徴的なのは、稲妻模様のツインテール。も、もしかしてこの人はぁ……!

 

「おや君は昨晩の……」

「どっ、どどどっ、どうしてあなたがぁ……!」

「おっと、そこから先は言わぬが吉だよお嬢さん」

「ひゃぅ……」

 

 人差し指を唇に当てられ軽くウィンク。サングラスから覗く緑の瞳にわたしは思わず()()してしまった。

 

「さて、私の逃避行に付き合ってくれたお礼をしないと」

 

 今ならサインも写真もいいよ、と言ってくれる中で、くぅ、とお腹が鳴る。そういえばランチを食べ損ねてたんだったわぁ……!

 

「ははっ! なるほどランチか。私もペコペコだったんだ。どこか適当なお店でも」

「そ、そんないけないわぁ! わたしみたいなのと一緒だなんて」

「そうかい? 私はそう思わないけれど……」

 

 ふと彼女がアシレーヌに視線を落とす。髪や鱗を見ているみたい。

 

「ここまで美しいアシレーヌは見たことない。君がちゃんと面倒を見ている証拠だ」

「そ、それはだってショーの為に……」

「それにあれだけの無礼を働いたなら、私を振り落としてもよかったんじゃないかな?」

「だって、スターであるあなたを振り落とすなんて……」

「ついさっきまで私だと知らなかったのにかい?」

「う、うう……!」

 

 とっても意地悪な人。ああ言えばこういう。逃げようとしてるのに回り込まれて、わたしの体力はもう持たない。

 

「このバトルは私の勝ちかな? じゃあお金の代わりに時間をいただこう」

 

 こうして適当なお店を見繕いテラス席に腰を下ろす。ありきたりのカフェだというのに、一流スターが向かいにいるだけでこうも輝いて見えるなんて。

 

「ご注文は……!?」

「そうだね、サンドイッチとコーヒーを2つ。食後にジェラートも貰おうか。それと……」

 

 彼女はウェイターの胸ポケットにチップを忍ばせる。しかしそれはチップというにはあまりにも高額だった。

 

「静かな時間が欲しいかな?」

「しょ、承知しました……!」

 

 これだけ目立つ彼女でも慣れた手つきで人の口を塞ぐ。こうしてようやく落ち着けるかと思いきや、今度はスマホが鳴り響いた。

 

「まったく落ち着けやしない。ロトム、プライベート以外は切っておいて」

「♪」

 

 ひとりでに現れたロトムが彼女のスマホに入り込むと、途端に静かになった。

 

「器用な子ねぇ」

「イタズラ好きだけど大切なパートナーだよ。さて、これでゆっくりできるかな」

 

 注文が出てくるまでの沈黙が辛くなって話題を探す。でも見つかるのは一つだけだった。

 

「ねぇ、どうして逃げていたの?」

 

 おそらく追いかけていたのはボディーガードの人達だろう。身柄を保護する存在から逃げ出す理由がわたしには分からなかった。

 

「今日は休暇でね。久々に羽を伸ばせると思ったところで急なリスケさ。スターは辛いね」

 

 苦笑を浮かべる彼女だが無理もない。この街、いや世界で見ても彼女はトップスター。わたしの想像もつかないところで生きている。

 

「あなたみたいな人でも苦労するのねぇ。もっと有意義な暮らしをしているものだと思ったわ」

「ははは、確かにショーの時間は有意義だけど。たまにはなにも無い日が欲しくなるのさ」

 

 スターにはスターの苦悩があるみたい。再び訪れる沈黙は料理が出てくるまで続き、ひとまず食事の時間となった。

 

「うん、やっぱりこういう物が一番美味しいね!」

 

 いわく豪華な料理も形式ばった作法ばかりで味わえた物じゃないらしい。無邪気にがっつくその姿は、わたしとあんまり変わらない少女に見えた。

 

「ん、いらないのかい?」

「あ、あぁうん、いただくわぁ」

 

 このままだと変な人に思われてしまうかもと慌ててサンドイッチを頬張る。

 

 スターというライトを外しても輝いて見える彼女に見惚れてしまった。オフの姿にときめきながらも、他のファンに見つかりでもしたらどうなることだろう。いや、わたしもファンの一人なんだけど。

 

「そういえばさっきショーの為、と言っていたけど……どんな演目をしているんだい?」

「はひゅ!?」

 

 アシレーヌを誉められた時の話を引っ張り出されて変な声が出る。

 

「そ、そんなわたしは……まだ素人で」

「何を言うんだい。同じショーを生業としてるんだ、同業者は押さえておかないと」

 

 まるで興味津々の子供みたいな目で見つめられる。思わず後ろに下がっても、アシレーヌがグイと背中を押してきた。

 

「アシレーヌ、押さないでぇ」

「ほら、君のポケモンも乗り気じゃないか」

「わ、わかったわぁ。でも一回だけよ?」

 

 またも逃げられなかったわたしは最寄りの川で演目を披露することになった。いつものように水のバルーンと歌い舞い、光に輝く優雅なショー。刺激的なこの人とはまるで違う演目に、さぞがっかりするだろう。

 

「いやあ、いいものを見せてもらったよ。素晴らしかった」

「お世辞はやめて。あなたのショーの方がよっぽど素晴らしいわぁ」

「はは、ショーに優劣はないよ。でもそうだね、君のショーがもっと輝くとしたら夜だと思う」

 

 わたしの思っていることをサラリと口に出されてしまう。しかしそれが叶わないことをわたしが一番知っていた。

 

「そんなの無理よぉ。夜のステージなんて夢のまた夢なんだから」

「そっか、君ならいい線行くと思ったんだけど……そうだ!」

 

 頭にロトムを浮かべながら彼女は明るい笑みを浮かべる。そんな彼女に私は首をかしげることしかできなかった。

 

「君、私の舞台に興味はない?」

 

 

 

 舞台袖から観客席を覗けば、こちらを覆い尽くさん限りの人の絨毯。一人一人の顔が見えないくらいの混雑に思わず隠れてしまう。

 

「ああ、どうしてこんなことにぃ……」

 

 あの時彼女が提案したのは共演だった。私ならステージを押さえられる、君をもっと輝かせられる、と。わたしも後先考えずに思わず首を縦に振ってしまった。

 

「いやー、今日はいつにも増して賑わってるね!」

「それはあなたがあんな宣伝を打ったからぁ……!」

 

 ステージのチラシには『あのトップスターが共演、奇跡の瞬間を見逃すな!』と白々しいまでの宣伝文句が書かれている。やることなすこと派手な人ねぇ。

 

 緊張で喉が渇く。いつもより多めにのどスプレーしておかなきゃ……

 

「それ、効くのかい?」

「ええ、喉はわたしとこの子の商売道具だから」

「なら私も使ってみようかな。貸してくれるかい?」

「だ、ダメよ! こんなわたしの使いかけなんてぇ」

 

 差し出された手を拒否していると、不意に道具から私の手を離れて彼女の手に収まる。

 

「あら、あらら?」

「ロトムってば、『トリック』を使ったね。ほんとイタズラ好きなんだから」

 

 隣で漂っていたロトムがキシシと笑い、止める間も無く彼女は私の道具で喉を潤した。

 

「確かにこれは良いね。次の宣伝はこれにしようかな」

「あ、あわわ……」

「ああごめん、もしかして本当にダメだったかな?」

「い、いえ、そんなことはぁ……」

 

 今度は手渡しで返してもらう。ど、どうしましょう、こんなの二度と使えないわぁ……

 

「さて、もうすぐ開演だ。っと、でもその前に……ロトム!」

 

 彼女の合図で照明が落ちる。どうやら彼女のロトムの仕業らしい。いつもは煌びやかに見える街も、今は月明かりだけが頼りだった。

 

「これは……」

「君のために用意した特別ステージだよ。さあ、素敵なショーを見せて」

 

 背中を押されて舞台の上に転がり出るも、スポットライトは当たらない。そこにあるのは月の光だけ。

 

 こんな機会二度と訪れない。ならここでわたしとアシレーヌの魅力を見せつける。この瞬間だけは二人だけの独壇場なのだから。

 

『──♪ ───♪』

「わぁ……」

 

 幻想的なショーに観客は息を呑む。いつものバルーンも淡い光を通して見れば、より一層輝いて見えた。

 

 いつもの泳ぎと『アクアジェット』の緩急ある動きを見せながら、観客の視線を奪っていく。

 

「──♪」

「(アシレーヌも楽しそうねぇ。わたしも楽しくなってきちゃった)」

 

 もっとお客さんに楽しんでもらいたいし、今ならなんでも出来そうな気がする。

 

「アシレーヌ、『うたかたのアリア』から『こごえるかぜ』」

「──!」

 

 作り出した無数のバルーンを氷技で瞬間冷凍。氷のシャボンを会場に漂わせる。

 

「とっておきの『ムーンフォース』!」

 

 最後に月光を通して一気に壊す。砕けた氷の粒がムーンフォースで宝石みたいにキラキラしていた。

 

「綺麗……」

「こんなの見た事ない……」

 

 魅了されたみたいにうっとりした視線を向ける観客に、ほっと胸を撫で下ろす。どうやら楽しんでもらえたみたい。

 

「流石だね。うかうかしてたら私の客まで取られそうだ」

 

 そんな満足するわたしの隣でステッキをくるりと回す彼女の姿。帽子を深く被って目元が見えなくても、その笑みは隠せていなかった。

 

「ロトム、『ほうでん』!」

「♪」

 

 辺り一面に走る電流が照明を全て復活させる。息を呑むような幻想の時間は瞬く間に終わりを告げた。

 

「そこから『ボルトチェンジ』!」

 

 ロトムの素早い動きが軌跡になって空中に文字を浮かび上がらせる。それはこのショーの題名だった。

 

「さあ、ここからは私も混ぜてもらおうか! みんな、まだまだ行けるよね!?」

 

 響く歓声、激る熱気。彼女に魅せられた人は一斉に浮足立つ。

 

 水と電気の美しくも痺れるショーに人々の声は鳴り止まなかった。

 

 

 

 それから数日後。共演の熱気も落ち着いて、いつもの日常が戻ってきたかと思いきや。

 

「あっ、前にあの方と共演されていた……」

「あの、良かったらサインください!」

「是非よろしければ当ホテルのステージにて……」

 

  外に出ればゆく先々で声をかけられる。界隈でもあの人のファンの中でも、初めて共演を果たしたショーマンとして話題の中心になっていた。

 

「もう、これじゃあ買い物にも行けないわぁ」

 

 ここしばらくは一人部屋の中でネットサーフィンする日々が続いている。苦情の一つでも入れたいけれど、連絡先なんて知らない。

 

『敏感喉にビビッと届く、シルフカンパニーののどスプレー! 私も使ってるよ!』

 

 それなのに彼女はネット広告で現れてスプレーの宣伝している。結果通販では即完売、近隣店舗からも蒸発した。

 

 このままじゃショーにも影響が出てしまう。そんな心配をしていると呼び鈴が鳴った。

 

「お届け物でーす」

「はーい」

 

 頼んだ覚えもないのに、大きな段ボールが運び込まれてくる。誰かのイタズラかしらと送り主を確認すると、あの人の名前が刻まれていた。

 

 中身は大量ののどスプレーと一枚の手紙が入っている。

 

『あの時はありがとう。ほんの気持ちだけど私から君にプレゼントだ。

 後、また共演したくなったら声をかけてくれ。君の頼みなら喜んで受けるとも!』

 

 直筆の手紙に添えられたサインは間違いなくトップスターのもの。裏には丁寧に電話番号まで書かれている。

 

「は、はぅ……」

 

 最高のファンサービスに、わたしは暫く痺れて動けなかった。




・おまけ ポケミクさんの技構成

みずミク:アシレーヌ 持ち物:のどスプレー
うたかたのアリア・ムーンフォース・アクアジェット・こごえるかぜ

でんきミク:ロトム(通常)
ほうでん・トリック・ボルトチェンジ・シャドーボール

次回
でんきミク×??? お楽しみに。
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