キャラ崩壊注意!
pixivで全く人気が出なかった駄文です。
私はかなちゃんに憧れて演劇を始めた。
同い年なのにテレビに出ていて太陽みたいに輝いていたかなちゃんは私にとってのアイドルだった。
そんなかなちゃんを目に焼き付けるようにテレビを眺めていた私にお母さんが児童劇団に入るのを勧めたのがきっかけだった。
無論人見知りの私にそんなことは出来ないと最初は跳ね除けたが、お父さんの「かなちゃんに会えるかもしれないよ?」という魅惑の言葉に私は惹きつけられてしまった。
はじめは緊張して台本をしっかり読むことすらままならなかった。みんなにみられてることが恥ずかしくて途中で泣き出してしまうこともあった。
だけど家に帰ったらテレビの前には大人の前でも堂々としているかなちゃんがいて。そんなかなちゃんに憧れて、今の自分が悔しくて毎日、毎日頑張った。
かなちゃんみたいに笑えるように。
かなちゃんみたいに泣けるように。
かなちゃんの出るドラマを何度も何度も見返しながら、かなちゃんがどんな気持ちで演技をしているのか考えた。
「(きっとかなちゃんはみんなに優しくて、友達もたくさんいるんだろうなぁ)」
私の中のかなちゃんは全てが完璧で私なんかずっとずっと遠くの存在だと思っていた。
あの雪の降る日までは。
「(今日のオーディションかなちゃんもいるみたい!!あえるかなぁ)」
かなちゃんみたいなボブカットで、かなちゃんみたいな可愛い服を着て、かなちゃんみたいなベレー帽をちょこんと被った私は期待と希望に包まれていた。
「お母さんどうかな。。。?」
「かなちゃんみたいで可愛いわよ!!」
お母さんは嬉しそうに私を撫でる。
オーディション会場に入ると私と同じ役をするであろう子たちが既に何人かいた。その中には見知った子も何人かいたが、かなちゃんはそこにはいなかった。
「あら笑美里ちゃんママ!」
お母さんは同じ劇団の子のお母さんの方に行ってしまった。お母さんは私と違って社交性が高い。誰とでもすぐに仲良くなれる。私はお父さん似だったのだろう。
オーディション会場に続々と人が入ってくる中で私は緊張に震えた。元々メンタルが強くない私は本番にそこまで強くない。平常心を取り戻すために私は自販機で飲み物を買った。かなちゃんがCMをしていたオレンジジュースだ。
だけどいつも飲んでいるはずなのに緊張で手が震えて思うように力が入らず、なかなかキャップを開けられない。
数分間格闘していると後ろから声がかけられる。
「貸して」
声をかけてきたのは審査員と思われる男の人だった。男の人はペットボトルを取り上げキャップを開ける。
「あっありがとうございます」
緊張で上手く声が出せない中感謝を述べる。
「かなちゃん緊張してる?」
どうやら男の人は私をかなちゃんだと思い込んでいるらしい。
無理もないことだと思う。大人から見れば幼少期の子供なんてどれも同じに見えるし、何しろ私はかなちゃんのトレードマークの可愛らしいベレー帽を被っていたのだから。
それに私はかなちゃんに間違えられて嬉しかった。だってかなちゃんは私のアイドルだったから。
「えっ・・・えっと・・・わたしはかなちゃんじゃ・・・」
緊張と喜びで思うように口から言葉が出ない。
私がこびりついた口を頑張って動かそうとするなか男の人が口を開く。
「安心して かなちゃんを選ぶことはもう決まってるしね。これは形だけのオーディションだから」
男の人はさも当たり前かのように言った。
もしかしたら本当に彼にとっては当たり前のことだったのだろう。しかし私にとってその言葉は理解出来ないものであった。
「私がどうかしたの?」
何百回も聞いてきた声、ずっと直接聞きたかった声が背後から聞こえてきた。
だけどその声は何処か冷淡で私の知っているかなちゃんの声ではなかった。
男の人は勘違いに気づいたようで気まずそうにそそくさとその場を立ち去る。
直接見る彼女は圧倒的なオーラに包まれていて慄きそうになる。しかしテレビで見る彼女と違って優しさに包まれたものではなかった。
「えっと・・・私かなちゃんのファンで・・・」
何百回、何千回と想像し練習した言葉を口に出す。彼女のトレードマークのベレー帽を触りアピールする。
「・・・みたいね」
しかし彼女から帰ってきた言葉は想像と全く違った。私の中のかなちゃんは「ありがとう」とか「嬉しい」とか暖かい言葉を言ってくれるはずだった。
実際に帰ってきたのは氷のつららのような冷たく尖った言葉であった。
「えっと・・・あはは」
なんと返せば良いのか分からず混乱する。人は何を言って良いのか分からない時愛想笑いを浮かべてしまうものだ。
目の前の彼女はそんな私を一瞥するだけ。彼女がかなちゃんのはずなのに、かなちゃんには思えなかった。宇宙人に中身が乗っ取られたんじゃないかなんて考えてしまう。
かなちゃんだと証明してもらいたくて、かなちゃんに否定してもらいたくて、本当は気づいているはずなのに。
先程まで氷のように固まっていた口が動いてしまう。
「あの人変なことを言うんだよ?このオーディションかなちゃんを選ぶことはもう決まってるって・・・」
目の前の彼女が発した答えは私のかなちゃんの言葉ではなかった。
その日のオーディションのことはよく覚えていない。演技が酷かったのか、はたまた辞退したからなのか。彼女の言うように出来レースだったからなのかは分からないがとにかくオーディションには落ちた。
その日から私は演技の練習をより頑張るようになった。私がかなちゃんみたいになれるように。
いや私がかなちゃんになれるように。