黒川あかねはただの女優   作:釜飯喰らい

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本当の私

「〇〇と××付き合ったらしいよ」

「えっお似合いジャーン」

放課後クラスの女子グループが教室で恋バナを繰り広げる中、私は一人教室の隅で次の演劇の台本を読み込んでいた。

「(やっぱりよく分からないなぁ)」

次の演劇は恋愛系だ。そこのメインヒロインをやらせてもらえることになったのだが。。。

生憎私は人を好きになったことがない。もちろんイケメンの俳優を見てカッコいいと思ったりすることはあるし、お母さんのことを好きだと思うことはある。

でも多分違う感情なのだと思う。

よく演技では自身の感情を繋ぎ合わせてそれっぽい感情を作り出すことが求められる。その素材が多ければ多いほどピッタリな演技が出来るようになるし、なければ似たような感情から深く考察してなんとかしなければならない。

ただ一度もカエルを食べたことがない人がカエルみたいな味の料理を作ってとか言われて作れるだろうか?やれ鶏肉の味だ。やれほんのり草の香りがするなど言われたとしても、出来るのはカエルとは若干違うであろう味。

やはり本当の感情を知っておいて損はない。

「あかね恋愛リアリティーショーに出てみないか?」

昨日の稽古のあとマネージャーが声をかけてきたことを思い出す。

正直人前に出るのは未だに緊張するし、周りの人と馴染める気もせず最初は断ってしまったが、青春といえるものを経験した事がない私にとっていい機会なのかもしれない。

「(恋愛かぁ)」

私にとって謎の感情を考察しながら教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒川あかねです。よろしくお願いします。」

放課後の教室で高校生の男女がガチの恋愛をする。そんなことがモチーフの番組「今からガチ恋始めます」

を日曜日の昼に集まって撮影している。こういうのって大丈夫なのかな。

続々と他メンバーの自己紹介も入る。

 

熊野ノブユキ君-ダンサーをしているらしい。もうクラスの中心になりけている。やっぱりこういう人の恋愛をみんな見たがっているんだろうなぁと考えてしまう。

 

森本ケンゴ君-バンドマンをしているっぽい。バンドマンってもっとチャラそうな人だと思ってたから意外。この人なら好きになれるのかも?

 

星野アクア君-かなちゃんが出てた「今日は甘口で」に出てたストーカー役の人。あの演技を見たけど私には彼のことがよく分からなかった。何かを隠している感じでちょっと怖いかも。

 

MEMちょさん-有名なインフルエンサーらしい。多分彼女は年齢を詐称してる。ただ彼女のその演技からは優しさを感じられる。困った時は頼れそう。

 

鷲見ゆきさん-ちょっと小悪魔的存在。彼女もまた少し演技をしている気がする。でも芯は優しさで出来ていそう。きっとノブユキ君と相性が良いんだろうな。

 

そんなメンバーでこの番組は始まった。

結局私は番組の端役になってしまった。私は正解を見つけるのは得意だけど、正解を作るのが苦手だ。生来の性格が内向的なのもあって男の子たちとあんまり仲良くなれずにいる。

「ケンゴ君!曲ってどんな風に作ってるの?」

「あー最初はおおまかなコンセプトを作ってそこにメインのメロディを載せる。あと歌詞作って、コード進行考えたりして作ったりするかな。俺の場合は」

「へぇー凄いね・・・

 

「ケンゴ君はどんな曲作ったりしてるのかなぁ。一曲聞かせてよ!!」

こんな感じで会話がすぐ途切れてしまう私をMEMちょはいつもサポートしてくれる。やはり私には恋愛リアリティーショーは向いてなかったのかもしれない。

ユキちゃんとMEMちょは自分の良いところを伸ばして、嫌なところを上手く隠すようにして動いてる。いわゆる見せたい私が彼女たちにはある。

だけど自分には未だにそれがない。今まで物語上のキャラクターの感情については何度も考えてきたけど肝心の自分のことについてはよく分からないのだ。

「(真面目?不器用?内向的?)」

どれもそれっぽいものではあるが、ピッタリ当てはまるものかと言われると違う気がする。

「(結局自分ってなんなんだろなぁ)」

そんなことを考えていたら今日の撮影は終わってしまった。

 

 

 

 

 

「私 もう今ガチ辞めたい。。。。」

夕日の照らす中ユキちゃんが口に出す。

私は直感で彼女の言葉が演技であることに気づいた。ユキちゃんは演技をするとき小指と薬指をクロスする癖がある。どこまで演技かは分からないけど彼女の言葉には誇張が含まれている。

「なんでそんなこと言うんだよ!」

「こんな途中で!!」

みんなはユキちゃんを心配して声をかける。みんな優しいなぁ。私もユキちゃんのそういうところは好きだけど、嘘だと分かってしまえば本気で心配することは出来ない。

「俺がいつでも話聞くからさ!ゆきが辞めるなら俺も辞めるからな!」

「ノブくん・・・」

さながら恋愛ドラマの見せ場のようだった。ユキちゃんはうまいなぁこういうこと。私には少しも出来ないや。

そんな感動的なシーンで今日の収録は終わった。

彼女の引退宣言でネット記事まで作られたらしい。本当にユキちゃんは上手いと思う。

 

「メっさんが焼肉奢ってくれるって!!」

そんな一声で私たちは収録後焼肉に行くことになった。

「思う存分食えや餓鬼ども!!」

MEMちょが声を張り上げる。MEMちょって結局何歳なんだろ?23ぐらい?5歳上だと思って仕舞えば彼女の言葉の見方も変わってくる。

 

「アクアさんカイノミ焼けましたよ。どーぞ」

そう言いながら彼に肉を渡す。結局私は彼のことがよく分からない。彼も演技で自分を取り繕っているはずなのに肝心の中身が見えてこないのだ。

「(アクアくんって何考えてるんだろうなぁ)」

次の肉を焼きながらちょっと考えてしまう。

「黒川さんさっきから全然食べてないだろ。」

アクアくんが私を心配して声をかける。意外と人のことは見てるんだなぁ。

私はこういう場ではトングを離さない。精進の身であるからなのも理由であるが食事の場ではある程度その人の演技なしの姿が見える。その姿と演技をしている姿を比較することでその人の人生が見えてくる。

「(だけどアクアくんについてはなんにも分からないんだよなぁ)」

彼はまるで玉ねぎのように幾十にも演技重ねているし、その演技を剥がしていってもそれもまた演技である。まるで本質が見えない彼に私は興味を抱いていた。

「(これが好きってことなのかな?いや違うだろうな)」

カルビを返しながら彼の手元を見る。彼の手の動きはまるでマネキンのようで何も分からなかった。

カルビを皿にあげていると横から騒がしい声が聞こえてくる。

「今求められてるのは過激なものなんだよ!!」

MEMちょがそう熱弁している。

「(過激なものかぁ)」

私はその言葉をメモしながら、次の肉を焼いた。

 

 

 

 

 

 

 

その後番組はユキちゃんとノブユキ君を中心に進んでいった。

当然目立たない私のシーンは殆どカットされるようになってきた。

「(もっと頑張らないと)」

私はスタッフさんにどんなシーンが求められているのか?どんな私が求められているのか聞いて回った。

しかし帰ってくる言葉は

「ありのままの黒川さんを映してくれれば良いよ」

というありきたりな言葉ばかりであった。私は正解の姿を求めているのに。。。誰かが正解を教えてくれれば。。。

 

「求められてるもの?そりゃ悪女ムーブだよ。」

そんな中一人のスタッフが私に正解を提示してくれた。

「(悪女か。。。それなら役で何度かやったことがある)」

正解を知った私はそれから積極的に動く様になった。

「(目立たなきゃ。私も爪痕残さなきゃ。)」

そんな焦りとともに。

 

だけどそれからも私は話題に上がることはなかった。ネットで「今ガチ」と検索しても出てくるのはユキちゃんのことばかり。

「(なんで私はユキちゃんみたいに上手くやれないんだろう)」

そんな焦りばかりが募っていく。

 

「あかね 最近焦ってる?」

彼女が声をかけてくれたのはそんな時だった。

今の心境を当てられ、震える私の手を彼女は優しく包み込みネイルをする。

「別にそんなんじゃ・・・

私はどうにか目立って爪痕残したいだけ・・・」

咄嗟に否定をするが彼女にはわかっているのだろう。

「そっ」

軽く私の言葉に返事をしネイルを終える。

彼女はどこまでも優しいのは分かっているはずなのに、その優しさに嫉妬してしまう。

 

 

その日の撮影のことだった。私が彼女を傷つけたのは。

 

ノブユキ君を諦めてケンゴ君に乗り換えたのに、彼女がケンゴ君すら奪ったから。

私が目立つのを彼女が拒むから。

私が作り上げた悪女の感情は嫉妬に満ちたものだったから。

 

「辞めてよ!!!」

彼女がしてくれたピンク色のネイルに真紅のペイントが乗る。

 

周囲のざわめき。そこでようやく自分が何をしてしまったのか気づく。

「わた・・・ちが・・・」

懺悔、言い訳、謝罪、色んな言葉が頭を駆け巡るが言葉には出来ない。カメラさんや音声さん、ディレクターさんが集まってくる。

だけどみんな私に近づこうとはせず、腫れ物を見るかの様に私を見つめる。

自分でも分かっている。これはれっきとした傷害罪だ。特にモデルをやっているユキちゃんにとって顔は大事な商品。それを傷つけた私が許されるはずがなかった。

 

「あかね!大丈夫だから・・・落ち着いて」

だけどユキちゃんは私を抱きしめた。優しく私を包み込むように。彼女のバニラのような匂いが私を包む。

「分かってる・・・焦っちゃったんだよね。知ってるよあかねが努力家なのは」

彼女の言葉はどれも優しく、柔らかく私を包み込んでくれた。

「あかねは私のこと嫌い?」

「・・・嫌いじゃない」

震える声で私は答える。こんなに優しいユキちゃんを嫌いになることなんてあるはずがない。

「私も努力家で一生懸命なあかねのことが好き

だから怒らないよ」

その後ユキちゃんと私は日が落ちるまで泣きあって、笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

でもあの日の出来事は他者からみたら許されるべきことではなかった。犯罪者が幾ら被害者に許されたとしても裁かれるのと同じように。

彼らは私たちの全てを知らない。だけど彼らがみた一部はどこまでも正しかった。

「ビッチ」「サイコパス」「友達いなそう」「性格悪い」「自己中」「隠キャ」「人格破綻者」「ヒステリー女」「犯罪者」

私はそれらの意見を全て飲み込もうとした。自分への客観的な他者の評価。自分とはなんなのか。今まで目を背け続けてきたものを彼らは否応無く叩きつけてくる。

「(私ってなんで生きてるんだろ)」

布団にくるまりながら考えた。結局その結論は何も出なかった。

謝れば許されると思ったけど許されることはなかった。

寝れば収まると思ったけど収まってはいなかった。

リアルでは大丈夫だと思ったけど学校でも話題になっていた。

でもそんな私をお母さんと今ガチメンバーは優しくしてくれた。

でもこんな私が許して貰って良いはずがない。彼らが庇ってくれれば庇ってくれるほど、どこまでも自分の不甲斐なさに申し訳なくなっていた。

 

コンビニでご飯を買った帰り道、私は歩道橋で転んだ。

「(自分ってどこまでもダメなんだな。私が生きていたらみんなに迷惑がかかっちゃう)」

私は強い罪悪感に包み込まれる。

この罪から逃れたくて、私が居なくなれば許して貰えると思って私は歩道橋の上に立ち

 

足を滑らせた。

 

だけど私はそれすらも失敗した。私は腰を掴まれ歩道橋に引き込まれていた。誰にも許して貰えるはずがないのに、ようやく楽になれると思ったのに、私は必死に喚き、もがくがその手は私を離してくれない。

「落ち着け!!俺は敵じゃない」

それは私が唯一理解出来なかった彼の声だった。

彼はどこまでも優しさに満ちていて、そして罪悪感に包み込まれていた。

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