偽物のままでも本物を成し遂げられる
付いていくからこそ信じて往ける
恐怖が人を勝利へ導く
運の良さが世界を平和にする
これはこの世で最もいらない物語だ
「もう行くのかい?」
「マジかよ…」
動揺せずにはいられなかった。考慮していなかったかと言われればそんなことはない。しかし、限りなく低いと思っていたから。
「……いつ気付いた」
「うーん、クヴァールもそうだけど……確信したのは雪山かな」
何とも無さげに答える勇者。それにしても雪山か……。この旅の途中、何回か手助けに入る機会があった。その一つが雪山。寒さに凍えそうなところを魔物に襲われるとかいう可哀想なことがあった時のことだろう。
「それで、君はもう行くのかい?」
「ああ、もう行くさ。すまなかったな。ストーカーみたいなことして」
「いや、そんなところで謝らなくても良いさ。それにしても、君はそういう性格なんだね」
「………あんたと話すことがあるとは思わなかったんだけどな。他の奴らも気付いてるのか?」
「いや、僕だけだよ。みんな気付く素振りすらない」
良かったぁ。まじでフリーレンに気付かれてたらそれこそオワコン。これならどうにかなるだろうな。
「何で僕らについて来たんだい?」
そうか、それが気になるのか。けど、それは早々答えられる物じゃなくて、答えて良い物でもなかった。
「どこから話せば良いんだろうな。一言で言えば面白そうだったから、かな」
「そうか。それだけでこの旅に着いてきたのか。……もしかして、フリーレンと知り合いかい?」
ええ……。何でそこら辺当ててくるん?おかしいやろこいつ。
「知り合いではないかな。俺が一方的に知ってただけ」
「えぇ……ちょっと気持ち悪い」
「ふふっ、だよなあ」
少し、楽しかった。まるで旧知の友人と話しているかのようだった。しかし本来これは許されない行為だろう。これによって大きく未来が代わる可能性もあるのだ。それ程までに重要な存在が目の前の男なのだ。
「勇者ヒンメル」
「なんだい?」
「あんたはきっと魔王討伐を果たす。そしてその後、この旅の終わりで何がしたいんだ?」
***
僕らは勇者一行だ。数ある勇者パーティーの中の一つ。人々からは四人だと思われている。しかしそれは違う。恐らくパーティー内でも僕だけしか気付いていないだろう。
いつも斜め後ろから気配を感じる。微弱で極限まで消された、微かな気配。明確な何かが無ければ気付けない。気付いても居るのか居ないのか分からなくなってしまうような存在。それがいつも僕らを付いてきていた。
でも危険な存在じゃなくて、いつも僕らの味方をしている、と思う。普段は何もしない。どんな死戦だとしても基本は手を出さない。けど、時々、本当に時々だけど助けてくれる時がある。
今日は何故かそんな存在がいなくなる。そんな気がした。起きていた方が良いと、そう感じた。
それはきっと正解だったんだと思う。
現れたのは灰色の服に身を包んだ仮面の男。おおよそ魔法使いと言われる風貌をしているにも関わらずその雰囲気は戦士のようだった。その仮面のセンスだけは良く分からないけど……。
気配が一気に濃くなった。いつも感じていたものとは違う。しかし同じ存在ではあるのだろう。いつもと似た消え入ってしまいそうなその雰囲気は、まるで生物ではないように感じられた。
「いつ気付いた」
最初に聞かれたのはどうしようもなく事務的な一言。
自身が思っているように返し、話を紡ぐ。
「ああ、もう行くさ。すまなかったな。ストーカーみたいなことして」
やはり、行ってしまうらしい。このままどこまで付いてくるのかとは思っていた。もしかしたら魔王との戦いでは一緒に戦うかもしれないとどこか期待していた。しかしそうはならないらしい。
何故僕らに付いてきたのか、と問えば、面白そうだから、と返された。本当にそれだけなんだろうか?けど思い当たるものも、……魔法使い繋がりでフリーレン?そう言えばフリーレンが危なくなった時少し気配が強まっていた気がする。
ああ、やはりそういうことらしい。けどそれが全てでもない。そんな感じだった。
どうやら僕が魔王を倒すことを確信しているらしい。そしてその質問は僕にとって当たり前のものだった。
***
南の勇者ならばどう言うだろうか?フランメならばどう言っただろうか?考えても答えなど出ない。しかし考えることは止めない。それもまた、忘れないという行為だから。
「僕は世界を平和にする。それだけさ」
ああ、なんて馬鹿げた夢だろう。それは本来成し遂げられるものではない。この世の英雄達がこぞってそれに挑み、失敗した最高の難題。けど、それでも挑もうと言うのだ。そしてその行動は確かに世界を平和にした。
やはりその行動を無駄にするわけにはいかないよな。
「ははっ、やっぱあんたは勇者だな」
「当たり前さ」
あの時の南の勇者と同じように、とは出来ない。俺は何も託さない。彼の道はもう出来ているから
「なら、勇者として役目を果たせ」
「ああ」
言わなくても分かるのだろう。俺に気付いていたのなら恐らく伝わっている。
「俺としては、フリーレンに伝えても良いと思うけどなあ……」
「けど、それはいずれ重りになるだろう?」
「…ああ、そうだよなあ」
もうそろそろ行かなくてはいけない。楽しい時間にも終わりは来る。誰よりもその事は理解している。
「俺のことは誰にも話すなよ」
「誰も知らない五人目なんて悲しくないのかい?」
少しだけ悲しそうにそう言った。けど否定しなきゃいけない言葉だった。
「俺は五人目じゃない。ヒンメル、それだけは間違えちゃいけない。俺はただのストーカーだ」
「……そっか。君がそう言うなら。代わりに君の顔を見してくれないかい?」
えぇ………。それはちょっと……と言いたい処ではある
あまり、見せたい顔では無かった。けどヒンメルになら良いだろう。彼になら恐らく何も起こらない。
「それは……」
「酷いもんだろ?こうでもしないと色々大変なんだ」
長らく人に見せることの無かった顔。俺は今、笑えているだろうか。
「それじゃあさようなら。ヒンメル」
ああ、本当に似ているな。あの蒼い髪の彼と。ツァルトと戦ったときの彼と。うん、これなら笑えているだろう。
「ああ、さようなら」
その蒼い瞳は最後まで輝いていた。
***
魔王城のあるエンデとは違う、しかし大陸の最北端である地に俺が死ぬ原因は有った。
「絶望的だな」
ワラワラと群れる魔物の大群。そしてその先に見える木の幹と思わしき何か。それを丘の上から眺めつつ溢れた一言だった。
俺が死ぬ原因。それは果てしない程の魔物の大群だ。この世の光景とは思えない程の大群だ。これは死ぬ。当たり前だ。これを周りに被害を出さず処理するなど無理だ。命懸けでやるしかなくなる。
極めつけはあの木だ。
何だあれは?全く聞いたことの無い代物だ。少なくとも自然界にあるような物じゃない。明らかに作為的な何がが働いている。そしてその膨大な魔力量。明らかに俺以上だ。ゼーリエも怪しいだろうなこれじゃ。
天まで越えんとして聳え立つそれに最早俺では対処不可能に思える。まず木なのかどうかすら怪しい。デカすぎて全貌が伺えないのだ。
これは確かに、俺がやるべきことだろう。今現在これに対処できる人員が思い当たらない。ゼーリエならワンチャン、と言ったところだった。しかも魔物の大群は明らかに魔王軍よりも強いぞ。魔王討伐よりもキツイだろこれ。
「やってくれたなあの野郎……!」
今は亡き南の勇者を恨む。こうなったのは結局奴の行動故だ。全く、嫌な役回りだ。
「?…………ははっ!」
背後から何かが近づいて来てるな。こんなところに来るようなのは録な奴じゃないんだがなあ………。
けど、今回は当たりを引いたらしい。こんな大物が来たんだから。
「まさかこんなところに来るとは思わなかったな」
「こんな馬鹿でかい魔力反応があれば誰でも見に来るだろう」
「そうかもな。じゃあまずは自己紹介だ。俺の名は森田。あんたの弟子の知り合いだ。宜しくゼーリエ」
そこに居たのは後の大陸魔法協会創始者、天上の女神に最も近い魔法使いゼーリエその人だった。
***
最初にそれを知覚したのはいつだったか。興味本位で魔王城近くを彷徨いた時だったろうか。しかし魔力量は特筆すべきところもなく、只の人間。そういう認識で居た。
そして今、その認識は大きく覆された。魔法の世界では天地が引っくり返ることもある。しかしこれはそうではない。最初からそうであったと見るべきなのだろう。天地は元のまま。ただ世界の広さを知っただけだった。
「俺の名は森田。あんたの弟子の知り合いだ」
どうやら私のことは知っていたらしい。モリタ、変な名前だ。聞いたことがない。しかし邪魔な物を使っているな。
「その邪魔な魔法は消したらどうだ?」
「ああ、流石にあんたにゃバレるか」
モリタの見た目が変わる。現れたのは灰色の魔法使い。その変な仮面は何なんだ………。仮面はどうやら外すらしい。魔物かとも思ったが同族のようだな。醜い顔だ。
それにしてもだ。私を出し抜こう等と片腹痛い、と言いたいところだが本来の魔力見破れなかった手前何も言うことは出来ない。
「というかそれならあんたもそうだろう?俺もあんたも魔力は隠してる」
「!」
まさか見破って来るとは思わなかった。そこまでの実力があるのか?いや、そうは思えないのだが……。
「それで、まだ何かあるのか?もしかして魔法でもくれるのか?」
そこまで知っているか。しかし何故そんなことを知られている?いや、私の弟子と知り合いならありえるな。
「いいや、お前には才能を感じない。それどころか魔法に適正がない。論外だ」
しかし才の無さにも関わらず私を出し抜くとはな。……興味が湧いてきた。少し覗いてみるか。
ッ!?精神に干渉できない!どうなっている!?
「その程度じゃ突破出来ないさ。あまり舐めるなよ」
「まさかここまでとはな。才能の無い癖に、随分と研鑽を積んだな」
「ああ、あんたが嫌いなクチだろうな。魔法使いとしての資格が無いってか?」
ぐうの音も出ない。ここまでの魔法使いがこの世に存在するとは思わなかった。
「お前私の」
「弟子になれ、か?そりゃ無理だな」
………先を読まれた?思考を読まれた感じはしない。魔力反応もない。どういうことだ?
「本来なら、あんたの弟子に、なんて大歓迎だ。けどもうこんな状況だ。あんたはこれを対処する気は無いだろ?それに約束もあるからな」
モリタはどこか諦めたよう顔をしていた。確かにあれ程の物は驚異だ。こいつが死ぬ可能性もあるだろう。しかしこの顔は諦めないだろう。………もう興味もないな。
もう帰ろうか、と考えていた時だった。
「ッ!!これは……!」
「ゼーリエ、あんたに見せてやる。繰り返される歴史の中の世界救済。その一つを」
「なっ!?」
途端に溢れだした魔力はさっきまで感じていた物とはまるで比べ物にならず、同時に物凄い魔力反応が前方からした。
あれは魔法か!?
魔物共の方をみれば広大に広がった闇が魔物を飲み込んでいる。町一つ、いや国一つ飲み込めるだろう範囲で展開されていく。あの魔力を持った大樹でさえももう見えなくなっていた。
「化け物め…………!」
忽然と魔物共と奴が消え、全てが元通りになった世界を眺める。
最後の奴の魔力量は、確かに私を越えていた。私と同等か、それ以上の魔法使いが確かにそこに居たのだ。
笑顔が抑えられない。これ程まで興奮したのはいつぶりだろうか。本当に惜しいことをしてしまったことに気付いたのはそれから少し経った後だった。
***
偽物でも本物でも必用なのは信じる勇気だとヒンメルから学んだ。
信じられなかったら付いていけば良い。行動こそが最も信頼に繋がるから。ハイターの俗物さから教わった。
恐怖こそが人を人たらしめ、それを持ちながら進むことが重要だと、アイゼンの震えが物語っていた。
人との廻り合わせ、偶然や運の良さが世界を平和にすることをフリーレンの言葉が示した。
ヒンメルが、ハイターが、アイゼンが、フランメが、ゼーリエが、クラフトが、南の勇者が、フリーレンが、彼らが俺をここまで導いた。
さあ、クライマックスだ。最後まで踊ってみせようじゃないか。
だってきっと、その方が面白いだろ?
往こう、ラストバトルだ。
《異世界を創る魔法》
***
切って、撃って、千切って、殴る。いつまで続くのか。もうどれほど経ったのか。何処がイカれて、何処が無事か、自分は今何の為に何処にいるのか、まるで分からなかった。
最初に大方の魔物は処理した。広範囲を殲滅し大半を殺したとそう思った。しかし現実はそう甘くなかった。魔法無効化の魔物が居たのだ。既存の魔物の亜種や希少種、果ては新種の魔物まで。兎に角激戦を強いられた。
枯渇した魔力を貯めてあった魔力で回復させて永遠に戦い続ける。負った傷を端から治し延命を行う。それでも限界は来る。俺の体はもうボロボロだった。しかし、どうやら間に合ったらしい。
辺りにはもう魔物はおらず、残されたのは大木のみ。こいつは確かに内包する魔力量が途轍もなく、そこから放たれる攻撃は一撃で俺を消し去る驚異的な威力だった。だがそれも全部避けきった。もう一対一だ。
ここで死んで貰う……!
光沢のある金属板を三つ取り出す。魔力留金と呼んでいるそれは魔力を貯め、自由に取り出すことのできる俺の作品だ。この戦いの最中何度もこれに助けられた。今までこれに魔力を貯め続けてきた。一つ一つに俺の全魔力を注いでいるのだ。一つだけで相当保つ。
そしてこれは最後の三つ。それを全て一つの魔法に注ぎ込む。
金属板が蒼く、蒼く輝く。もっと、もっとだ!最後の最後だ!全て寄越せ!
「……成る程」
どうやら彼方も最大級の攻撃を放つらしい。莫大な魔力反応を感じる。俺に有効打が無いからこそ、相手に有効打が無いからこそ、どちらも行動は同じだった。
「乗るぜ、その勝負」
強大な一撃による排除。負けた方が死ぬ。最後の生存競争だ。
命を燃やせ。思考を止めるな。イメージしろ。全て越えてみせる。この瞬間に、一瞬に賭ける。限界など無い。刹那に生きろ。
夢も希望も絶望も全てを魔法に乗せる。
想像するのは未来の彼ら。勇者の旅が、その後の旅が、その平和が、守れるようにと。
そして最後に浮かんだのは、会ったこともない少女の、しかしいつか見た光景。
少女が理想の魔法を撃つ姿だった。
「《
その世界がいつか叶いますように。
***
俺は成し遂げた。自身の命と引き換えに確かに成し遂げた。彼らの世界を守れたのだ。物語へバトンを繋ぐことが出来たのだ。
歩く、歩く。ボロボロの体を引きずって、折れた左足を気合いで保って。何処に向かおうと言うのだろうか。しかし何かが、誰かが呼んでいる気がした。
自身の構築した異世界から戻り、そのまま何処かへ進んでいた。もうすぐ夜が明けるだろう。そんな時、そこに辿り着いた。
「あ、ああ……あああ!」
そこに有ったのは石で作られた何か。それは石碑だった。墓とも言えるのだろう。その石碑には文字が書かれていた。俺の知るあの文字で。
『俺はやったぞ。次はお前らだ』
『あんたらはどうだった?』
『俺もやったさ』
『やあ、同郷』
『俺もやり遂げたよ』
「何だよ……!来てたのかよっ!」
涙がどうしようもなく溢れてしまった。
この世界にきて、果てしない時を生きて、その間に彼らは死んだ。
出会うことの無かった彼らを思うと少し寂しく思う。出会えていればどれだけ良かったか。
彼らはこの最北端に行き着き、死んだのだ。
そこには確かにいたんだろう。近代日本からの転生者。誰もがとにかく生きたんだろうなあ。生きるのに必死で、兎に角頑張って、その末に何かをした。じゃなきゃこんなところに来ない。何人もここで死んだんだろう。ここは少し、死の匂いが強い。
石碑に寄りかかって上を見ると、白む空に桜が咲いていた。桜だ。あの世界の花が確かに咲いていた。
「あんたらが持ち込んだのか………」
目が上手く見えなくて気付かなかったんだろう。実際片目は使い物にならなくなっている。俺の魔法じゃ、もうどうしようもなかった。
花びらが舞い散る中、思い、考える。ふと、あれからどれぐらい経ったのかと思った。なけなしの魔力で時間を確認する。
「五年………」
成る程、相当経ったらしい。ヒンメルは魔王を倒せたのかな。原作も始まる。俺の分まで見てきてくれ。
楽しかった。楽しい人生だった。面白可笑しく生き続けた。後悔が、無いわけじゃない。
「会いたかったなあ……」
死の感覚が迫る。あの時と同じだ。恐怖と焦りが迫ってくる。声が掠れ、視界が上手く保てなくなる。感覚なんて疾うに消え去って、残ったのはまだ生きてるという盲信だけ。
やっぱり、最後くらい笑顔が良いよな。
「最高だった……ありがとう……」
誰に言っているのか。世界へか、知り合いへか、魔法へか、女神へか。いや、それはないよなあ。
俺はオレオールへ逝けるのだろうか。死語の世界なんて本当に在るんだろうか。そんなの分からないけど。
取り敢えずは、中指立てて笑って逝こう。
いらないピースは紡がれて、歯車は元に戻っていく。
「ファッキュークソ女神……」
世界は回り、
これにてフリーレン編終了となります。
視聴、評価、感想、誤字報告等ありがとうございました!皆様のお陰でここまで書くことが出来ました。
次回まで間が空きますので暫くお待ちください。
次は何を書こうかな。
次の次の世界(東方は何れ絶対にやるので除外)
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