今回もよろしければ読んでくださると嬉しいです。
ちなみに補足ですが。
気づいてくださった方がいらっしゃるかわかりかねますが。
ヤバイ仮面さんのアーマーは新フォームの方にボタンの隠しコマンドを入力する事で換装すると言う解釈で書きました。
⬜︎北見市某所-モール エントランス前-⬜︎
普段であれば市民が足を運び、行き交うモールのエントランスは。
虎型のキメラの亡骸が辺り一面に転がり、血と肉が散乱する光景が広がっていた。
その中で、向かってくるキメラを、剣で斬り伏せて行くヤバイ仮面。
「いきなり出てきてなんだよお前!」
あまりの勢いに気圧され、キメラを次々と畳み掛けるエレ。
「いちいち名乗るとでも思ってるのか!?」
四方にバラけていたキメラは、エレが指示を出し、ヤバイ仮面へと集まり飛びかかっていく。
数で追い詰められているはずのヤバイ仮面だが
怯む事なく
力強く振るわれる剣、鋭い爪の様に尖ったガントレットの指先、それらを活かす腕力を駆使してキメラを叩きのめしていく。
元来獣とは、己が生存本能と闘争本能の狭間で身体を動かし、獲物を狩る。
キメラ達は、指揮命令を完全に操者であるエレに依存しているため、動きが単調。
対処するのは容易かった。
それが
ヤバイ仮面には気に入らなかった。
一体のキメラの首根っこを掴み、エレに投げつけるヤバイ仮面。
それを太い腕ではたく様にいなす。
「おい小僧」
改めてエレに向かって切先を向けるヤバイ仮面。
「そこにいろよ、すぐそこに行ってやる」
悪寒を感じずにはいられないエレは、再度キメラ達を消しかける。
一方、ゲートから押し寄せる大群をヴィークが対処し
何匹か撃ち漏らしてはいるが
着々と敵戦力を減らして行く。
辛くもヴィークの攻撃を掻い潜ったキメラは、すぐさま標的のヤバイ仮面を見つけ、襲いかかる。
しかし、それでもヤバイ仮面の足を止めるには至らず。
独特な吊り目が鈍く光りを放ち、敵を屠りながら、じわじわとエレに近づく。
「なんでも思い通りになると思ってる節だろ、お前」
ついに2mほどの距離まで詰め寄ったヤバイ仮面。
「社会はなぁ、そんなに甘くねぇんだよ!!」
ついにエレ本体へと刃を振り下ろした。
それを肥大化した腕と爪で防ぎ、火花を散らして鍔迫り合いの様に肉薄する。
「ほんとなんなんだよおまえ!おかしいだろ!!」
想定外の戦闘力に対し、無様に狼狽するエレ。
「獣にもなれん“もどき”なんかがなぁ、俺に敵うわきゃねぇんだよ!!」
「おまえ!口調まで変わって!なんなんだ!!」
渾身の力で押すエレだったが、逆に押し返され、そのまま後方に飛ばされる。
驚きのあまり膝をついたエレ。
「なんなんだ?さっきからそれしか言えんのか?語彙力のない奴だ…お前なんざ落第だ!!」
心底落胆するヤバイ仮面。
イライラをさらに募らせ、通用しない事への取捨選択がままならないエレは、再びキメラを消しかける。
それらを気怠げに、しかし確実に屠るヤバイ仮面。
左右で飛びかかってきた2体を
右手の剣で頭部を一突き
左手で殴打
正面から来たキメラが2体
前蹴り2発で打ち飛ばす。
一瞬にして4対のキメラを屠ってみせた事は効果覿面であり
エレはその猛攻に圧倒されていた。
ゆっくりと歩みを進め
剣を振り上げるヤバイ仮面
「虎は虎らしく」
エレに剣を振り下ろしたヤバイ仮面。
わかりきっていた攻撃だが、防ぐしか出来なかったエレ。
必死で押さえている相手に対し、更に力を入れて押し込む。
硬い体毛の先にある表皮に刃が触れた事を確認し。
「屏風にでも入ってろ!」
刃を一気に勢いよく引く
血飛沫が噴き出し、エレの白い体毛を朱色に染めていく。
状況の理解がコンマ数秒遅れたエレは、なんとか体制を立て直し、傷を手で押さえて3回に分けて後方に跳躍しながら距離をとる。
「これくらいのボキャブラリーがないとなぁ、“名言”も生まれなければ“迷言”も生まれないんだよ」
ヤバイ仮面の皮肉たっぷりなセリフに憤りを露わにし、獣のごとき唸り声をあげるエレ。
傷を凝視し、神経を集中させ、眉間にある宝珠の様な赤い石が光った途端、傷が塞がっていく。
一息つき怒りが引いた一瞬の時、以前危機的状況に変わり無いことに焦りを感じ始めた。
「チッ…浅いか」
まだピンピンしている相手を見て舌打ちするヤバイ仮面。
その間エレは思った
(なんなんだコイツ?なんでこんな強い?)
そして気づいてしまった
(え…今…こいつを強いって思った?この僕が?ボクが?)
目の前にいる男に
自分は完全に格上と無意識に断じている
脅威と感じている
恐れている
それに対し
焦り、不安、恐怖の順番に感情が巡るエレ。
「ボクガ…ボクガボクガボクガ」
結果、感情の行き着く先は
「ボクガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
癇癪を起こした子供の様な投げやりな“怒り”だった
130cm程の小柄だった体躯のエレが、一瞬にして約2mの巨大な虎の獣人に変貌を遂げる。
全身の毛を逆立たせ、両肩の後ろから
ボコボコと筋繊維が肥大化し
新しい腕が生えて来る。
「オマエハヨワイ!ボグハヅヨイ!!」
事実を受けられないと言わんがばかり
まるで駄々をこねる子供の様な主張に、辟易するヤバイ仮面。
先刻と同じ勢いで飛びかかってくるエレ。
4本となった拳を一振り一振り不規則的に振るって来る
しかし
それを振り払い、はたき落とすがの如く対処するヤバイ仮面。
いくら繰り出す拳が不規則であっても、届けられる拳は1発ずつと単調、退かせる事は容易であった。
しかし鋼の様な硬さの毛並みに阻まれた拳、ヤバイ仮面の剣の刃が届かないでいる状況。
決して剣がなまくらだからではない。
ただ切れ味に特化した剣ではないだけに、届く前に弾いてしまう。
「これは流石に鬱陶しいな」
一方ひたすら黒い穴から出てくるキメラの首を切り捨てていたヴィーク。
無尽蔵の様に湧き出てくるキメラだったが、やがてその勢いは止んだ。
「もう出てこなくなった」
ヴィークは刀を鞘に納め、一先ず辺りを見渡すが、凄惨な光景が広がっている街の風景を目にして、やり場のない怒りに拳を震わせる。
何気ない平和な一時
それをモノの一瞬で汚し壊された事
密かに気に入っていた店の近くで巻き起こっている現状
元はカラスであり鳥類種のヴィークからすれば、テリトリーを荒らされたも同然。
今の彼は、人の形を得た事により、この地で接して来た人々の思いやりと気持ちを少なからず、自らが“大切にしていきたい”と言う想っている。
下手をすればお気に入りの店の店主、顔見知りの職員や市民、付近に住まう鴉の仲間達。
それらに被害が及んだ可能性も大いにあるなど。
様々な想いと感情が入り混じっているヴィークだった。
「どいつもこいつも…めんどくさい」
戦闘中のヤバイ仮面達を見て、再度刀を抜き構え直すヴィーク。
刀身は紫色にゆらめくオーラを纏わせて、組み合っている2人へと一瞬で近づき、エレ目掛けて振り下ろす。
ヤバイ仮面はその攻撃に対し、微動だにしない。
狙いが自分ではない事を認識していたため、躱す選択肢をとらなかった。
エレは気づくのが遅れた。
コンマ数秒の刹那の時間
突き出した拳を引こうとする。
鋼のように硬く幾重にも重なり草原の様に生い茂る白い体毛があるにも関わらず
本能的に引いてしまった。
2人の対応の差は、戦闘経験の差からなる事でしかなかった。
片や略奪を尽くし、弱者から搾取して積み重ねて来た、戦闘と呼ぶには烏滸がましい経験。
片や泥臭くも必死に生き。
自らの目的と目標のため、数多くヒーロー達と言う強敵達と正面切って戦い、それをエンターテイメントとした。
戦闘を経験し、熟知しているからこそ出来る事。
この差が2人の行動に大きく影響を及ぼし、その結果エレが大きな代償を払う事になった。
ヴィークの一振りは見事にエレの拳を、腕から斬り落とした。
「あっぶね!」
ヤバイ仮面は咄嗟に後方へ跳ぶ。
少し遅れてエレも数歩摺り足で後方に下がる。
エレが歩いた跡には
夥しい量の血が流れ
アスファルトに血溜まりを作る。
情けなく惚けるエレ。
そんな彼に構わず、ヴィークは睨みを効かせて牽制、刃に着いた血糊を一振りで払い飛ばす。
「逃げるなよ、そこの化け猫」
刀を構え直してエレに切先を向けるヴィーク。
「危ない危ない、せっかく隠しコマンドのアーマーが汚れるとこだった」
アーマーに血がついていないか確認するヤバイ仮面。
問題ない事を確認し、ヴィークへと近づく。
「おいそこの黒いのっ!」
ヴィークの肩に手を置くヤバイ仮面。
「え?なにアンタ、オイラ忙しんだよ、これからあいつ斬るから」
「お前みたいな坊主にアイツが斬れるのかって言いたかったが、斬ってたなぁ…」
事実を目の当たりにしていた事を途中思い出し、最初は勢いよく声を発するも後半にかけて尻窄むヤバイ仮面。
「おい小坊主!」
「黒いのとか坊主とか小坊主とか失礼じゃない?オイラはヴィークって立派な名前があるんだけど」
「そんなん知っとるわい!立派な名前がある事知っとるわい!いいから耳貸せ!」
狼狽えてみせるヤバイ仮面。
しかしすぐに切り替える。
「お前の刀で、あの腕と足と尻尾、全部斬り落とせるか?」
痛みからなのか、必死にもんどり打ち、切断面から煙を吹かせているエレを刺し示してヤバイ仮面はヴィークに聞いた。
「え…足と尻尾?なんで?」
「出来るんだろう?おじさんなんだってお見通しなんだゾォ??」
「なんだよアンタ…」
お互い存在自体は知っているが初対面。
ヤバイ仮面の馴れ馴れしい態度に馴染みないヴィークは、なんとも言えない気持ちでいた。
「出来るけど、めんどくさいからヤダ」
いかにも嫌そうに答えるヴィーク。
「めぇんどくさいぃいいいい?????」
いかにもわざとらしく驚いてみせ、いかにもわかりやすく失望して見せた。
「はぁ〜ん?お前ビビってんだろ??出来なそうだからってビビってんだろぉ〜??かぁ〜〜〜〜情けない!そんな子に育てた覚えなくってよ!!」
「ハァ??オイラ別にオマエなんかー」
「期待したんだがなぁ?なんだ役立たずだったかぁ。あぁ、悪かったなぁ、もぉいいぞ、帰れ帰れ」
ヴィークの言葉に被せる様に遮るヤバイ仮面。
しっしっと追い払う仕草をする。
「ほんとめんどくさい……」
深く息を吐き、納めていた刀の柄に手を掛けた途端、堪忍袋の尾が切れる。
「斬ってみせたらいいんだよねぇ!!」
ニヤリと笑うヤバイ仮面。
「おうよ!出来るならやってみせてみれや!」
その最中、エレはなんとか再生能力で傷を塞ぎ、なんとか耐性を整えていた。
知らぬ間に
エレの前で低い姿勢になり
紫色のオーラを漂わせて
居合の姿勢に入っていたヴィークの事に気づけていなかった。
何かをする
止めなくては
そうエレが直感した次の瞬間。
ヴィークの姿が霞の様に消える。
後に、霞が晴れる様に再び姿を現した。
エレの目には、そう見えていた。
ヴィークはエレに背中を向け、膝立ちの姿勢になり。
カチャリと愛刀の【刀牙-とうが-】を鞘に納める。
エレの体感にしておよそ5秒間、しかしその実、かかった時間は約1秒も満たなかった。
状況理解のため脳をフル回転させるエレは、ふと違和感に気づく。
視界が下がっていく。
上から下へと
それはまるで、テレビ画面越しに、カメラアングルが下がっていく様に
エレは気づく。
自分が膝をついている事に。
理解に遅れるも、そこから立とうとするエレ。
しかしそれは実行できなかった。
何故なら彼は錯覚していたのだ。
先刻まで自分は膝をついていたと、すぐに自らの足で立てると。
両足の膝から下が、既になくなっていたとは、一切気づいていなかった。
やがて視線は、更に下へ下がり。
視界が地面に最も近くなった時に、更なる気づきを得る。
前のめりに倒れかかった自分は間違いなく、残りの3本の腕で支えようとしていた。
しかし
太く立派な腕は、肘から先がなくなっている。
信じられない状況に頭が追い付かず、ただただ唖然としてしまう。
「全部斬ったよ!文句ある!?」
文字通り斬って見せたヴィークは強く主張する。
「上出来だ!社員にしてやる!」
それに対してヴィークの背中を叩いて激励する。
「意味わかんないよ」
褒められた事はわかっているが、企業スカウトは冷ややかに躱す。
「よぉ景気はどうだ?混乱してるなぁ?しかしこれはとてもシンプルな状況だ」
四肢欠損したエレを見下ろし声をかけたヤバイ仮面。
その声で、やっと状況の理解が追いついたエレ。
首から上だけを必死に動かしてヤバイ仮面を睨み、声を荒げる。
「おまえら!僕になんてことを!こんなことして絶対に許さないぞ!」
斬られた傷口から出血は止まり、若干の熱気混じりに煙の様なモノが出ている。
地面にうつ伏せで倒れながら、的外れな言い分を聞かされたヤバイ仮面は、わざとらしく緩めていた表情を再度引き締めた。
「ハァ?」
「こんな仕打ち!許されるわけないだろ!」
引き続き被害者であると訴えるエレに対し、呆れながらも一応は応対するヤバイ仮面。
「昨日は破壊活動、今日は障害と連日迷惑行為に勤しんでる貴様に、言えた事か?」
ヤンキー座りの体制でエレを見下ろし、ヤバイ仮面は相手に対し説明を続ける。
「いいかガキ。お前あの化け物どもをけしかけたよな?まだ未確認だが、少なからず死傷者が出てる可能性だってあるんだ。それなのに」
「はぁ??それがどうしたっていうんだよ?」
言葉を遮られる
「意味わかんないこと言うな!お前らなんか僕らのおもちゃじゃんか!餌じゃんか!その程度の存在価値しかないダウナー共が!!愉しまれるだけ感謝すべきだろ!!そんなお前らが僕にこんな事していいと思ってるのか!?」
大凡通常の感覚では出てこない発言が飛び出し、唖然とするヤバイ仮面。
それと同時に察した。
(あぁ、こいつぁダメだ。価値基準が違いすぎる、対話は無理か)
「僕が何をしたって言うんだ!!こんな仕打ち許さなグッ!アガッ!?」
様子を見ていたヴィークだったが、宣告の発言に聞き捨てならないとばかりに怒気を纏い。
大きく開いた虎の顎目掛け、鞘の末端部分【鐺-こじり-】で殴りつけ、口の中に押し込み喋らせない様に栓をした。
「オマエッ、オマエエエッ!!!」
口は鞘で押さえたまま、刀を引き抜こうとした瞬間。
「よせ坊主っ!」
ヤバイ仮面が立ち上がりその手を押さえ、鞘にゆっくりと納め直す。
ヴィークも抵抗はするが、ヤバイ仮面の力の方が上だったため、押し負けていた。
「なんで止めるんだ!こいつは!生かしちゃ」
「その先はなああああ!!!!!!!!」
ヴィークの訴えを辺り一面に広がる程の大声で一蹴する。
合成音声を出力するスピーカーがハウリングを起こす程の、大きい声を上げたヤバイ仮面。
しかし一呼吸置いた後、1番穏やかなトーンで、ヴィークを諌める。
「お前が言っていい事じゃねぇだろ。わかるよな?」
その一言で、本能で従う姿勢に切り替えたヴィークは。
鞘を押さえ込んでいた顎から引き上げる。
「なんだよ、今度は仲間割れか?劣等種族はこれだから」
「もういい、お前は喋るな」
再びヤンキー座りの体制に戻り、エレの頭頂部にある毛を無造作に掴む。
「ずっと気になってたんだ、どうにも俺はお前らが気に入らない。生理的に受け付けないってこういう時に使う言葉なんだろうなぁ、よぉ〜〜やくわかった」
掴んだ頭を引っ張り、自分の顔の前まで持ってくる。
「俺がお前たちを気に入らないのは“そういうとこ”だ」
黒く染まっていたバイザーに、再び独特に光る吊り目が浮かぶ。
「“悪を成す”のと“他者を傷つける”は“同意にあらず”」
目の光からは、ゆらゆらとゆらめく蜃気楼の様に。
それはまるで、淡く燃えているかの様に光を帯びている。
その光を数cmもない距離で目の当たりにするエレは、今までに経験した事ない悪寒を感じずにはいられなかった。
「それをわかった上で外道の道を進むんなら、俺は一向に構わんさ。個人としても会社としても、“社風”が合わない連中と関わらない事に徹するだけだ。だがお前らと来たら…やれ戦いがなんだの、楽しめそうだの、おもちゃがなんだの、餌がなんだの。目的と思想、そして信念や理念が感じられない。空っぽな分際のくせに、我が物顔で人様のシマを平気で荒らす」
掴んでいた頭頂部の掴み方を一瞬緩め、即座に掴み直し引き寄せ、互いの眉間を突き合わせたヤバイ仮面。
「舐めてんのか?“悪人家業”を」
エレは明確に感じていた。
目の前の相手に、恐怖を、畏怖を。
相手が悪すぎた。
そう思っていた。
圧をかけた相手の頭を無造作に離し、その場で立つヤバイ仮面。
「おおっと勘違いするなよ?お前らの考え方を否定してるわけじゃあない。それは本当だ、だがな」
手のひらをぶらぶらさせて違う違うと言った仕草を見せ、突然姿勢を正し、拳を胸に当て【宇宙戦艦ヤマト式の敬礼】をしてみせる。
「俺の、いや!私たち【株式会社 悪の秘密結社】とは信念!思想!理念!目標!全てがかけ離れている!故に!!」
正していた姿勢を崩し。
人差し指を下に向け、話を続ける。
「我々は貴様ら“蛮族”“野盗”どもを尊重しない。存在自体が我々の業務侵害に値するため、見つけ次第“殲滅”してやる」
今度は親指を立て、それを下に向ける。
「あくまでも“事務的”にな、覚悟しておけよ」
その場を数歩下がり、背中を向けて立ち去ろうとするヤバイ仮面。
エレはその姿を見て、完全に背中を向けた瞬間に奇襲をかけようと考えていた。
が
「そうだ!これだけはどうしてもお前個人に言いたかったんだ、いいか?いいよな?」
歩みをやめて、再び近づくヤバイ仮面は。
エレの頭にそっと右足を乗せる。
「虎みたいな姿しときながら貴様らが“小物な理由”を、折角だから教えてやる。それはな」
右足に力を徐々にこめていく。
「本物の獣はもっと気高く“本能”と“誇り”と“生物としての矜持”があるモノだ…後はどんな獣でもな、恩は返すもんなんだよ」
親指を立て、その先をヴィークに向けてエレを見下ろすヤバイ仮面。
「アイツの様にな」
エレの頭に乗せた足に更に力を込め、そこに体重も乗せる。
「跪いて、全ての生きとし生けるものに対し」
「よせ!やめろ!」
「詫びろ!!!」
グシャリと潰れる音と共に、エレが沈黙する。
それを見ていたヴィーク。
ヤバイ仮面はゆっくりと近づいて彼の肩を叩く。
「ヒーローのやる事じゃない、こう言うのは悪役のやる事だ」
「…アンタは…それでいいの?」
ヤバイ仮面はフフンと鼻で笑った。
その時、エレの頸辺りから、何か小さいモノが飛び出した。
それは小さいネズミの様な生物だった。
ネズミは2人と十分に距離を取って叫ぶ。
「ああもう!全部めちゃくちゃにするつもりが!」
悔しそうに地団駄を踏み
「あ!逃げた!」
追おうとしたヴィークを制止し、首を横に振るヤバイ仮面。
「安っぽいセリフだな、脚本のセンスがない。坊主が相手する価値もない」
ヤバイ仮面に頭をポンポンとされ、ヴィークはそれを振り払う。
「子供扱いすんな!あとオイラは」
「ヴィーク、お前にはやる事がまだあんだろ、いいから次に行け」
「………」
名前を呼ばれた事と、自分に敬意を払った対応に、言葉を失うヴィーク。
まさに大人の貫禄を見せつけられ、複雑な気分を感じていた。
そこに現れたのは戦闘形態になったシャベリーマン。
「社長おおおおおお!!」
「おおシャベリーマン!労働者諸君は無事か?」
「それは無事…なんですが…」
歯切れが悪く言葉を返すシャベリーマン。
その様子に焦りを見せるヤバイ仮面。
「なんだ!?どうした!?」
「社長…とりあえず…市長にお願いベースで交渉しなきゃですね」
「何かあったのか!?誰か怪我したのか!?」
シャベリーマンは黙って周辺を見渡しながら言う。
「流石にこの状況…仕方がないとは言え…せめて会社に報告を…ホウレンソウは大事かと…」
ゆっくり辺りを見渡すヤバイ仮面。
先程まで死屍累々と凄惨な状況だった道路周辺は、謎のヘドロと泡があちこちに点在している。
ところどころ肉片だったはずのモノもヘドロと化し、幾分か硬化までしている様子。
泡はアスファルトやコンクリートブロックを溶かし、謎の熱気を発し。
硫黄の様な異臭も、辺り一面に蔓延している。
修繕する前とは違うベクトルで、対処が必要な状況に陥っている事に、ヤバイ仮面は固まってしまう。
「あ?……あぁ……なんだ?これは」
黒いバイザーから、吊り目ではなく、小さな丸い点が点灯し、瞬きをする様に明滅している。
まさに字の如く“目が点”に
「おそらく…アレじゃないですか?」
「…なんだ」
「その…証拠隠滅で痕跡をなくす的な…よく特撮番組であるじゃないですか、戦闘員が泡になっちゃうアレですよ」
キョロキョロするヤバイ仮面。
「ガッツリ残ってこびりついてるけど?」
「技術がおざなりなのか、ただただ迷惑をかけるのが目的だったか」
「…………え?」
ヤバイ仮面は戦闘中であっても、周りの状況は見ていた。
陥没箇所や破損箇所。
肉片や血の汚れなど、おおまかな範囲も記憶。
戦闘終了後に、いかに効率よく清掃を済ませるかなど、一連の中でも頭をめぐらせていた。
しかしここに来て、思いもよらない事態を目の当たりにする。
全ては予定通りにいかない事に、理解が追いついたヤバイ仮面は、答えを絞り出して叫ぶ。
「あああああああ!!!!!全部やり直しだああああああああああ!!!!!バカヤロおおおおがあああああああアアアアアア!!!!!!!!」
「えっと…オイラもう行くからね」
居心地が悪くなったヴィークは、次の現場である“紋別”へ急ぎ向かうことにした。
読んでくださってありがとうございます。
私の中のヤバイ仮面さんは
何があろうと悪を演じ、必要な時に強大な障害として立ちはだかる
コミカルでも、閉める部分はしっかりメリハリをつけている。
そんな印象が私の中にはずっとあるため
今回の話のヤバイ仮面さんは、完全に私の勝手ながらイメージを押し付けて書いた様なモノですが
ヒーロー像とは違う
アンチヒーローなりの誇りと
尊敬される大人像を意識しました。
少しでも伝わることを祈ります。