かつて人は時を支配していた。しかし時計が発明され、人は時に支配されるようになった。
あるいは、それは貨幣でも同じなのかもしれない。人は貨幣を生み出したことで、貨幣に支配されるようになったのだ。
そしてここにも、貨幣に支配された奴隷たちがいる。
「勇者パーティーの目的が金稼ぎになってる」
アミーラちゃんの提案で、俺たちは黒胡椒を買い付けにバハラタまで行くことなった。
お金は使命より重い。
人は日々を生きるのに必死で、使命だの運命だの言ってられるのは金が余ってるヤツだけなのだ。
えてして苦労を知らない奴だけが理想を語る資格を持つ。
故に、理想論は多くが上っ面の、机上の空論なのだ。
―――だが、それでも。
それでも、俺は―――
「俺は、俺は……!」
「おいていきますよ勇者様」
「はーい」
バハラタといえば、ゲームでは黒胡椒の名産地。
多けりゃ美味しいってもんじゃないけど、ここは素直に楽しみにしておこう。
俺たちは船乗り達とアリア号を地中海側に残し、ペルシア湾内の船で運行する船に乗ってバハラタに向かった。
地中海では幽霊船が大暴れしているせいで海運がしっちゃかめっちゃかになっているが、陸地を挟んで南側のペルシア湾では騒動もなく、普通に船が行き来している。
そんな状況下であるならば、素直にお金を払って移動したほうが楽だったのだ。
アリア号はどうしたか? 置いてきたに決まってる。
かつて地球の歴史において、オスマン帝国は艦隊で山を登った。
だけどそんなことができるのは本当にごく短距離だけ。アリア号をこっち側に運び込むことなんて出来ないので、今は船長たちは長期休暇となっている。
アリア号は砂船ベースの水陸両用船だけど、ほんとうに平坦な土地しか陸上は走れないのだ。
そういうわけでペルシア湾までの陸路に2ヶ月、湾内からバハラタまで船上で1ヶ月。
トータル3ヶ月かけて辿り着いたバハラタは、今……
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町の状況をサイコロで決定します。
発展度合 6
治安の良さ 2
教育レベル 8
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「おらおらーっ! どけどけー!」
「ヒャッハー! 汚物は焼却だー!」
「パラリラパラリラー!」
「ざぁーこ♡ ざぁーこ♡ よわよわ♡ なっさけなぁーい♡」
暴走族がいた。
いやバイクじゃなくて馬なんだけど、いかにもヤバめな人たちが騎乗して町中を走り回っていた。
バハラタの町はそれなりに小綺麗で発展した大河に寄り添う町だったが、中央通りを駆け回る愚連隊のせいで景観が台無しだ。
「なんじゃ、ありゃ」
原作ゲームでは人さらいが現れて治安が悪化しているバハラタだけど、俺の予想ではバハラタ地方に人さらいは出現していないのではないかと考えていた。
だって、「あの人」を倒してないし。
現実であるこの世界でこういうことを言うのもなんだが、バハラタの治安が悪化するフラグが立ってないのだ。
「とにかく現状を確認しよう」
「そうですね……っと」
ルナリアが暴走族を裏拳で殴り倒して落馬させていた。
美人と見てお触りしようとしたらしい。
「馬鹿な奴だ、狙うならソニアを狙えばいいものを」
「そいやあっ!」
見れば、ソニアも普通に暴走族を殴り倒していた。
ここに至るまでのレベル上げと強力な装備により、彼女もまたそこらの荒くれより強くなっているのだ。
まあ勇者の仲間の武道家であれば、これくらい出来なきゃ間違いだろう。
「…………。」
無言でブーメランを放ち暴走族を一網打尽にするアミーラちゃん。
何だろうねこの子は。
「勇者様、この方々は何者なのでしょう?」
「あー……何者くんなんだろうね」
目の前には死屍累々と山積みとなった暴走族。
よく考えたら原作ゲームと少し違うこの世界、こいつらが人さらいだという確認はいまだ取っていない。
もしかしたら町の祭りのパレードだった可能性も……いやそれはないか、女性陣を襲ってたし。
倒した暴走族たちをどうしたものかと悩んでいたら、慌てた様子の男性が走ってきた。
「そ、そこのお人! 冒険者の方ですかっ!?」
その男性……老人はそう叫びつつ俺の前に跪いた。
俺はゲーム知識により老人の正体にピンときたが、一応本人から聞いておくことにした。
「どちら様ですか?」
「わ、わしはこの町で店を構えるアルジュという者じゃ。わしのかわいいタニアが……悪党どもに攫われてしまったのじゃ!」
「悪党ならぶちのめしましたが」
「こいつらは一部じゃ、それなりの人数が外に逃げてしもうた! あんたらは強そうじゃな、どうかタニアを助け……!」
「僕がいきます!」
若者がアルジュ老人の後ろから現れた。
「見ず知らずの旅の人に頼むなんて……待っててください。きっとタニアを助け出してきます!」
そういって駆け出してしまう若者、たぶんグプタ。
原作でも恋人のタニアを追いかけて、二次被害で捕まってしまう青年だ。
俺は素早くグプタ青年を追いかけ、首根っこ掴んで連れ戻した。
「は、離してください! タニアが、タニアがいないと僕は……!」
「いや救助する人数わざわざ増やす気はないから」
どうせ失敗するとわかっているのだ、サクッと原作展開を破壊である。
俺はグプタ青年を適当な木にロープで縛り付ける。
「いや、そこまでせんでも……」
引き気味なアルジュ老人。
「そうはいっても御老体。この若者は縛りでもしないと、ほとばしるリビドーのままに悪党を追ってしまいますよ?」
「それはまあ、そうじゃのう」
「俺たちは人さらいを追うので、彼は適当な頃合いに開放したってください」
それだけ言って、俺達は走り出す。
「すまん、勝手に依頼を受けて」
「それはもちろん構いませんが、どうされるので?」
「俺の情報によると、人さらいは川の向こうにアジトを構えている。つまり、川を渡るのに必ず橋を通過するんだ」
「なるほど、橋を渡ろうとする悪党を待ち伏せするのですね」
「そういうことだ。人さらいは攫った人間を運ぶから、間違いなく俺たちより移動が遅い。追いつける算段は高いだろう」
「わかりました! では急ぎましょう!」
俺たちはバハラタの町を出て、この地方において「聖なる川」と呼ばれる大河の岸へと走ったのだった。
ロードバイクの新しいパーツを注文した時のワクワク感は異常。
そのお値段、5万円。
安い!(感覚麻痺)