死屍累々とした惨状を前に、拉致被害者達がゲーゲー吐いていた。
とりあえず人一倍吐いている女性に話しかけてみる。
「あー、大丈夫ですか?」
「ひいっ!?」
声をかけると、女性は悲鳴を上げた。
「あ、あなた、な、なんてことをするのよ……!」
「いや、その、本当に申し訳ない」
俺はとりあえず謝る。
カタギの女性の前で殺し回るのは軽率だったか。
「人殺し……!」
「え、でも、人さらいなんて百害あって一利なしだろう。殺しちゃって問題なくない?」
そう答えると、女性は絶句した。
「人さらい? あなた達こそ、人さらいじゃない!」
怒鳴る彼女に、俺は冷静に返す。
「どういうことだ? 説明してくれ」
俺の言葉に、彼女もややあって落ち着いて思案し、説明を行ってくれた。
「私達は誘拐されて、バハラタの町に連れてこられたのよ。この人達はそこから、助けてくれた」
「ま、まったまった。バハラタ出身じゃないのかあんた? 人さらいに遭って連れてこられた? じゃあこいつらは……」
俺は皆殺しにした連中を指差して青ざめた。
「私達、誘拐された被害者を取り戻しにきた冒険者よ」
「お、おい。それってつまり……」
「助けてくれた人たちを殺すんなんて! 最低! 人殺し!」
「あ、ああっ、やっちまった……」
俺は崩れ落ちた。
なんということだ。話の流れでなんとなく悪者だと思い込んで皆殺しにしてしまったが、こいつらは救助隊だった。
しかもバハラタの町の人こそが、人さらい、ないしその協力者だという。
これは、とんでもないことをしでかしてしまったぞ。
俺は頭を抱えて蹲った。
「お、俺はなんてことをしでかしたんだ! 無実の人殺しをしてしまった! 逃げよう!」
「勇者様、自首しましょう」
「勇者様っ、責任とってくださぁい!」
ルナリアとソニアが提案してきた。
仲間たちが戦いに参加しなかったのは不幸中の幸いだった。彼女たちに責任が及んでいない、と言い張れる状況だろう。殺したのは俺だけだ。
「あとは俺がどう誤魔化すか、だな」
「勇者様……」
「わ、わかってる。ちゃんと責任は取る」
俺は誘拐された人々を、とりあえず彼らの主張する故郷につれていくことにした。
もしかしたら彼らの狂言である可能性もある。とにかく行ってみよう。
「……確かに彼らは登録されている冒険者です」
「……そうですか」
「……やっちゃいましたか」
「殺っちゃいました……」
二重遭難ならぬ二重救助した女性……タニアの故郷だという村に向かい、現地の統治機構が派遣した駐在員のもとを尋ねると、タニアの言葉が事実であることがはっきりした。
酒場の一画を間借りしたこじんまりとした事務所にて、村でたった一人の駐在員は深くため息をついた。
「人さらいからの救助作戦中、救助隊を人さらいと誤認しての殺害……誰にも悪意がないのが悲劇ですね」
「不幸な事故でした」
「事故だとしても責任は追求しますからね」
「この地方の法に照らし合わせると、どんな責任のとり方になりますか?」
「死罪です」
ですよねー。
中世の刑罰なんて罰金、鞭打ち、死刑の三択くらいだ。
三権分立なにそれおいしいの、って感じのガバガバ司法だ。
いや現代だって、非がない人間を数十人殺したらだいたい死罪だ。
誤解でしたで情状酌量される範囲ではない。
「あのぉ。こういってはなんですけど、勇者様は王様ですよ? どうとでもできますって!」
ソニアが人間失格なアドバイスをしてくれた。
そりゃあ俺は他国とはいえ王様だ、民間人を殺してしまったとしてもどうとでもできるかもしれない。
だが、俺自身そこまで恥知らずは生き方はできない。
責任を認めれば勇者の評判は地に落ちるだろう。俺は民衆から嫌悪の対象として見られるはずだ。
それはきっと俺が考えるよりずっと重く、俺の人生にのしかかってくるに違いない。
「とりあえず、逮捕してください」
俺は、それでも法律に従うことにした。
「俺は司法の決定を受け入れる」
「……貴方の意思はわかりました。ですがまずは、救助部隊を派遣した冒険者ギルドの担当者を呼んできます」
「担当者?」
「お互い立場があります、何かしらの示談が向こうから提示されるかもしれません」
なるほど、確かに向こうから「お前の命なんていらんから金払え」と言ってくるかもしれない。
俺も、ちょっと冷静じゃなかったかもしれない。
「わかりました。まずは話し合います」
ギルド職員は、この面倒な案件が自分の手から離れる可能性に安堵した様子を見せつつ頷いた。
本編と全く関係ないんですけど、親知らずを抜きました。
アレやばいですね。頭蓋骨を工事されてる感じでした。
とはいえ歯医者で抜いたタイミングでは麻酔してますし、まあ我慢できるんです。
その後の食事ができない問題と隣の歯がグラグラする問題がひたすらしんどい…