「なあ船長」
カンダタが船長に訊ねる。
「今更だがよ、セキドーサイってなんだ?」
「赤道を通過する時の祭りだ」
それはわかるわい。
「赤道ってのは風が弱くて難所なんだ。だからそれを無事通過出来て、初めて外洋航海の船乗りとして一人前とされる。そんな感じの祭りだ」
「最後説明適当になってなかった?」
「なってねえ。つかテメー等だって、祭りの所以なんて興味ねえだろ。興味あるのは目の前の肉と酒だろ」
「確かに」
盆踊りだって本来は鎮魂の儀だけど、今じゃ若者がウェーイするアゲアゲ祭りだ。
まったく仏教の教えをなんだと思ってるんだろうなウェーイ。
「というわけだ、カンダタ。赤道祭はパリピがはしゃぐ口実にウェイウェイするための催し物だ」
「祭りなんてそんなもんだよな」
肩を竦めるカンダタ。納得しちゃったよ。
「お前さんの立てた今後のスケジュールはわかったが、若干変更を頼む」
「どした? どこか行きたい場所でもあるのか?」
「ああ。俺はこいつと旅に出る」
急にポケモンマスターを目指す少年みたいなことを言い出した。
「こいつって、シャキアと?」
カンダタが視線を向けた相手、女海賊のシャキアに視線が集まる。
「なんだい。ジロジロ見るんじゃないよ!」
ガルルルと威嚇してくる女海賊のカシラ。
なんでこの人、拘束もされずに肉食ってるんだろう。
「俺ぁ、こいつのことを引き取るつもりだ」
「はいよろしく! 肉もよろしく!」
ふてくされた様子で肉を食い漁るシャキア。
俺は追加の肉を解凍しつつ訊ねる。
「唐突にどうした。引き取るって、もともとそっちに引き渡す予定だろ?」
女海賊シャキアは俺たちに捕縛され、カンダタの拠点である冒険者ギルドへと連行されている最中だ。
海賊ともなるとやっぱ死罪だろうなー、年増だけど美人だしもったいないなー。
とか思っていたところに、カンダタの引き取って一緒に旅をする発言。
「そうじゃなくて、俺が個人的に身請けするつもりだ」
「えっ? こういうのが好み?」
「それは発想が人として駄目だと思わねえか、勇者よ」
別にいかがわしい目的で引き取ろうってわけではないらしい。
俺は信じてたぜ、カンダタ。
「でも引き取るって、これほどの犯罪者が奴隷落ちなんかしないだろ。即刻処刑だろ」
海賊の頭だ、影響力が強すぎる。
なにかしら権限を与えた結果、謀反される可能性も高い。
「そこはまあ、職権乱用だな。俺の裁量権で参考人として留めておく」
「ふうん?」
俺の趣味としては、あんまり超法規的措置ってのは好きじゃない。
それで殺人罪を帳消しにしておいてなんだけど。
「船旅で時間があったから、俺ぁ考えたんだ。俺たちの事情や、こいつらの事情ってやつをよ」
「忖度ってやつか」
本来は別にネガティブな意味合いの言葉じゃないのに、政治家が使ったせいで胡散臭い単語になった言葉だ。
「俺は俺の責任のもと、こいつを捕縛した。けどこいつにはこいつの言い分がある。そりゃそうだわな」
カンダタは頭をガシガシとかく。
「俺はちゃんと双方の問題を直視して考えたい。だから勇者、俺は一度ギルドから離れて新大陸へ渡りたい。だからよ」
頭を下げるカンダタ。
「手を貸してくれ、勇者」
「いいけど、具体的にどうしろと?」
「勇者様ぁ、即答しすぎですよー。具体的な話を聞く前に了承しないでくださいっ」
ソニアが苦言を呈してくる。
いいじゃん、カンダタは別に無茶言わんって。
「お前らの旅に同行したい。戦いでは役に立たないだろうから、完全に善意にすがろうって話だが」
「おっけー」
「勇者様ぁ、そんな気軽にオッケーしちゃだめですよぉ」
ソニアが苦言を呈してくる、テイク2。
いいじゃん、そのうち新大陸にも行くって。
「シャキア的にはどうなんだ、海賊の頭の立場とかあるだろう」
「はっ。アタシはどうせお飾りさ。親父の立場だけを引き継いだ2代目だよ」
「いてもいなくても海賊稼業は成り立つと?」
「はっきり言うんじゃないよ可愛くないね」
「は? これでもキャワキャワ系勇者として勇名を馳せてるんだが?」
「マジで? 世間じゃアンタみたいな顔が流行ってるのかい?」
きょとんと俺を見つめてくるシャキア。
信じられても困る。実は叙述トリックで俺が女の子だったって可能性が出てきたら大変だ。
「正直なところね、アタシもよくわからなくなってきた。だから、こいつのやることを見ていようと思う」
そう言って、シャキアはカンダタの肩をバシバシ叩く。
彼らの話し合いが済んでいるなら、俺から言うべきことはない。
「でもギルド職員的にはいいのか? アンタだって中間管理職だろ、指名手配犯を見逃していいのか?」
「よくねえよ。身分を隠して行動するつもりだ」
「偽名でも使うつもりか?」
「ああ。さて、何にしようかな……」
偽名に悩み始めるカンダタ。
「こういうのは悩んだらキリがないから、スッと決めた方がいいぞ」
「そうは言っても、今後そう呼ばれ続けるとなるとな」
あーあ、考えがドツボにはまってる。
視界の端で、シャキアが赤い物体を鉄板で焼いていた。
「……なんだそれ?」
「これかい? これは故郷の芋さ」
「ああ、サツマイモか」
急に焼き芋やりだしてびっくりだよ。
「サツマイモ? サツマイモ……よし、決めた」
カンダタはあっけからんと言った。
「俺はこれからはサイモンを名乗ろう。どうだ、かっこいいだろう?」
「由来の割にかっこいい名前にしやがって」
それならいっそサツマえモンとかにしろよ。
しかし、俺はカンダタを見習うべきなのかもしれない。他者の為に自分の立場を捨てられる人間がどれだけいようか。
「サイモン、サイモンね。アンタはきっと、誰かのための勇者になるよ」
「ははっ。勇者サイモンか? キャラじゃねえな」
苦笑いをするカンダタ、ないしサイモン。
……うん? 勇者サイモン? どこかで聞いたような……?
本当はここでカンダタ外すつもりだったんですけど、実機プレイで外し忘れたまま進んだので続投です。