「おこめ、おこめ、おこめ……」
「おい、なんでこの勇者は泣きながら米を食べておるのじゃ?」
「こういう人なんですぅ」
「あーあ、勇者が魔族と馴れ合ってやがる。世界終わったな」
カンダタ、じゃなくてサイモンが悲観論者になっている。
それとソニアにとって、俺はどういう人ってイメージなんだ。
俺が米という単語にフィーバーしたことで、卑弥呼は戸惑いつつも歓迎の宴席を開くことにした。
「白米をたらふく食いたいとは、贅沢な奴じゃ」
そういう卑弥呼もまた、大盛りの白米をガツガツと食している。
庶民では未だ雑穀米や玄米が主流の中、気兼ねなく白飯を食べられるのは王侯だけだ。
ジパングの貴族階級であるブシでも白米を食べるのは難しいらしい。一人二役で権力を集中させた卑弥呼だからこその贅沢だ。
おかずも豪勢だ。特に真っ赤な塩鮭が最高に美味い。これほどご飯に合う魚は他にあるまい。
この時代でご法度なはずの肉料理もある。いやここは異世界だから日本の食の歴史とは違うか。
「ゴハン……ゴハン……」
美味すぎて涙が止まらない。
「頭大丈夫か、こいつ?」
「駄目かもしれません」
卑弥呼が俺の頭をコツコツ叩いてきたが無視だ。
たぶん俺が食べ慣れた現代の米と比べれば、かなり質は低いのだろう。
けど6年ぶりの白米は、本当に美味であった。
「卑弥呼」
「なんじゃ?」
「俺、ここに住む」
「それは構わんが。他国の要人が滞在するのはたまにあるしの」
「俺はお前と仲良くしたい」
俺は卑弥呼を抱きしめた。
「な、なんじゃっ。勇者が魔族と仲良くしようというのか?」
「目当ては米だ」
「いけずな奴じゃ」
俺は卑弥呼と盟約を結んだ。
俺はついに旅を終えたのだ。
〜FIN〜
なわきゃーない。
大量の米俵を魔法の袋に詰め込んで、俺たちがジパングを旅立った。
俵の中身は玄米だ。精米すると保存性が悪いらしい。
魔法の袋に入れると動物、つまり虫がはじき出されるので大丈夫なんじゃないかと思ったんだけど、そういうわけでもないらしい。
空気に触れてる時点で駄目なんだとか。
随分と前の検証だけど、魔法の袋の中には空気もあるし時間も経過する。袋の中では食べ物は劣化する。
虫ははじき出されるけど、腐敗に関する微生物、菌は袋の中でも活動してしまうらしいし。
わけがわからない。そもそも生物が入れないのは空間格納魔法の定番だけど、じゃあなんで生物を入れられないか、という部分を説明したファンタジー作品をあまり聞かない。
生物が駄目なら単細胞生物は? ウイルスは? 乾燥状態のクマムシは? 人工知能は?
疑問は尽きない。
不思議だから卑弥呼にもらったおにぎり食べちゃおうっと。
「さてはて、大陸はどんな場所かねえ」
俺は船の舳先に立ち、遣唐使よろしく大陸へ渡る。
ゲーム上の地図ではジパングから北上することとなるが、俺は思い切って西へ向かった。
かなり憶測が混ざる推理だが、死者蘇生アイテムとなる世界樹の葉は中国にあるんじゃないか、と思う。
中世ヨーロッパにおいて、中華大陸は東洋の神秘の象徴だった。
なまじ中国が多くの時代において大帝国だっただけに、ヨーロッパが常に小競り合いを続ける烏合の衆だっただけに。
ヨーロッパの人間は、おぼろげに「東にやべー国がある」と感じ取っていたわけだ。
ドラクエ3世界は現実世界をモデルとしているが、同時に世界各地のステレオタイプなイメージを反映させている。
スー族はテンプレなインディアンでウホウホ言ってるし、エジンベアは栄光あるボッチを貫いている。
ならば、中国もやはりステレオタイプな神秘の国なのではないか―――そう思うのだ。
そもそも、ゲームではあの地域は異様に「なにもない」。
俺がゲーム制作者なら、なにかしら町や村を配置したり、イベントを用意したいところだ。
ただドラクエ3は容量不足により少なからず町やイベントを削ったらしく、あるいはこの辺に中華をモデルにした町や国があったのかもしれないとも考えられる。
「すべては推測、妄想だけどな」
とにかく海岸線を辿れば、どこかで港町と出くわすはずだ。
現代人の感覚だと人間は赤道から南極までどこでも住める生物と思いがちだけど、じつのところ本来の生息域は狭い。
中世ヨーロッパ的世界観においては、水が豊かなで海運の都合がよく農耕に適した肥沃で平らな土地がある場所が望ましい。
つまり、大河があれば人間がいる。
中国にだって幾つか大河がある。ならば多くの人間が住んでいないはずがない。
「卑弥呼様には何もお訊ねしていないのですか?」
「ジパングが実質的に鎖国状態だからな。大陸に文明がある、程度の情報しかないんだってさ」
現実の日本では当時から意外と海外の情報収集をしていたらしいし、なんなら鎖国という表現が不適切って考えもある。
対してこの世界のジパングはかなり強く鎖国してる。卑弥呼が独裁体制を形成するために、あえて箱庭化しているらしい。
ヤマタノオロチ、という一丸とならざるをえない敵を用意することで。
卑弥呼、とんでもねー奴だ。
イシスから出奔した俺が可愛いレベルじゃなかろうか。
卑弥呼は完全に私利私欲で一国を牛耳っている。
でも彼女のおかげで、本来まだ普及していない白米の大量調達が可能となった。
だから俺は卑弥呼を許容し、討伐を差し控えた。
俺には俺の望みがあるのだから―――
「自己正当化は終わりましたか?」
「いいんでない?」
「期間を定めるべきだと思います。地図で見ても、あまりにこの大陸は広い。諦める理由が必要です」
「うーん、じゃあ1年」
俺はあっけからんと答えた。
中国大陸は広いが、大河を遡ればそれなりに広範囲を移動できる。
幾つか主要都市を巡って情報収集すれば、特徴的な十字の山の地形について情報が得られる……といいな。