神秘の中華大陸、その奥地。
大陸の叡智が集まる学術都市カサン。
進化は進化を誘発する。新たな知識は相乗効果によってより高みへと昇華され、カサンの文明レベルは既に中世とは言い難い領域に達していた。
蒸気機関車が人を運び、高収量品種の稲が穂を垂れる。
来るもの拒まず、出るもの追わず。
ただひたすらに次の次の知識を求める町。それがカサンだった。
―――そのカサンに君臨せし、4人の賢者達。
魔法使い オババ。
脳筋騎士 キラマ。
吸血鬼 アンヤ。
猫 猫。
「いや面子」
俺は思わずツッコんだ。
バクダ引退は決定事項なのか。
議長は猫氏の賢者就任を認めるのか。
なぜ彼(彼女?)は部屋の隅、何もいない場所をじっと見つめているのか。
「まさかキューレ、そこにいるのか……?」
お兄さんが怖いこと言い出した。
学園の会議室にて、賢者たちと対面した俺達。
しかし困ったことに、賢者のうち一人にとって、俺は妹の敵(かたき)だった。
彼には彼の言い分があるのだろう。俺にだって俺の言い分がある。
だから、俺は必死に言葉を紡ぐ。
「やんのかコラ。すっぞオラ。ザッケンナコラー!」
「勇者さまぁ、喧嘩を爆買しないでくださぁい」
「貴様はもう少し器用に生きられんのか……」
アンヤは苦々しく俺を睨みつけ、新たなる賢者の猫を抱き上げてゴロゴロしはじめた。
自分を落ち着けるためにアニマルセラピーを試みている……
「むしろこれは、敵対するつもりはないという意思表明なのでしょう」
ルナリアがそう言った。
確かに、敵対するつもりなら妹についてここで言及する必要はない。
「その通りだ。俺に、貴様ら勇者パーティーと敵対する意思はない。死ね」
「……敵対する気はないんだよな?」
「俺からは何もしない。事故死しろ」
ヤツからどんよりとした呪いのオーラが伝わってくる。
兄心は複雑らしい。
「これこれ、若い者同士で盛り上がるのはいいが今は会議じゃ。イチャイチャするでないぞ」
ズッキュンと俺達にウインクする魔法オババ。
俺たちの闘争心は浄化された。
「勇者よ。すまんな、急に突っかかって」
「いや、俺達のほうこそ。妹さん……キューレのことは残念だった」
「わしのウインク一つで冷めすぎじゃろ、最近の若者かお主らは」
魔法オババは若干傷ついた様子で俺たちのことを睨んだ。
オババの中で、ズッキュンの自己評価が高すぎる。
「……繰り返すようだが、俺はお前とやり合うつもりはない。一文の益もない」
キューレの兄アンヤは存外に思慮深く、感情より利益を優先する男のようだ。
あるいは、そんな性格だからこそ学術都市にいるのかもしれない。
「よしよし、自己紹介は終わった。わしの魅了(チャーム)もふりまけた。よーし、では会議の議題をあげることとしよう。心して聞くが良い」
俺たちは手元の察冊子をめくる。
そこには、彼女の筆跡による議題が書かれていた。
「うむ……今日の議題は、『なんかアポイントもなく急に来た勇者の取り扱い方について』じゃ」
「本人の前で議論するの!?」
思わずもう一度ツッコむ俺。
会議はいよいよ、混迷を極めてきた。