何ページか破られた大学ノートをめくっていく。
「ダヴィンチ・ノートってか」
自由な発想で描かれた飛行機械のデッサン達は、見ている分には楽しい。
完成形を知っている俺だからこそ、それらのデッサンが間違いだとわかる。
けど、俺の知っている『完成形』だって、どうしてそうなったのかを俺にはちゃんと説明はできない。
「ちょい、ペン貸してペン」
だから、俺は自分が知っている飛行機や飛行船の絵を色々と描いてみた。
「これは……ふむ? なるほど、これは……」
俺の絵に思うところがあったのか、ふむふむと頷くバクダ。
「ルビス様のお告げで見た、未来の航空機です」
ルビス様万能説。
地球温暖化も少子高齢化もきのこたけのこ戦争が終わらないのも、全部ルビス様の思し召しなのだ。
「この翼が上下にずれているのは……ああ、仰角の時に……内部骨格を持つ風船? それはたしかに、いやトラス構造かこれは、なるほど……」
俺のイラストから俺以上に色々と読み取っていくバクダ。
餅は餅屋、技術は技術者ということなんだろう。
「……よし! 次の実験機を作るぞい!」
そういって両手で握りこぶしを作り、製図板に取り付くバクダ。
俺たちへの接待は終わりらしい。
「奴は奇妙な研究をしているようだな」
研究室から出ると、壁に寄りかかったアンヤが話しかけてきた。
イケメンだからサマになっててウザい。死なねえかなこいつ。
「空を飛ぶ研究はお気に召さないか?」
「好きも嫌いもない。だが、あんな原始的な航空機に興味は持てん」
「そうかいそうかい」
俺はアンヤにそっけなく相槌をうつ。
人の研究にケチを付けるこいつは嫌な奴だ。
「……いやいや待て待て、お前たち魔族には原始的じゃない航空機があるのか?」
「あるぞ。機械仕掛けの高性能な空飛ぶ船が」
「おいおい、ドラクエじゃなくてFFに鞍替えかよ」
ドラクエにもFFにも空飛ぶ乗り物は登場するけど、魔法機械的なFFに対してドラクエの乗り物はファンタジー要素が強かったと記憶している。
確か1作品だけ、銀河鉄道みたいな空飛ぶ蒸気機関車が登場するシリーズがあった気がするけど。
きっとマホカンタみたいなシールドを空中に展開していって、その上を疾走しているんだろう(妄想)。
「じゃあ教えてやれよ、目の前で賢者仲間が困ってるだろ」
「お前、船で来たようだが船を作れるのか?」
「作れんけどさ。意地悪言うなよ」
ついさっき俺のふわっとした知識を伝授してしまったが、確かに良くなかったのかもしれない。
中途半端な知識はかえって毒になってしまうのかも。
「そういえばアンヤ、お前に訊きたいことがあったんだった。お前、キューレを生き返らせようとしてるのか?」
「……そうだが、それがどうした」
「具体的にどうすんの? なんか方法あるの? 他意はないけど教えてけろ?」
「…………。」
「けろー? けろけろ?」
アンヤが胡乱な目を向けてくる。いかん、疑われてるぞ。
ちょっくら死者蘇生についてそれとなく探りを入れようとしたんだけど、俺の名演を見破るとは大したものだ。
「せか……せかい……せかじゅ……せかちゅー……瞳を閉じて……」
それとなく自然な流れで単語を出して、様子を見る。
「貴様―――っ」
アンヤの表情が一変する。ふふん、俺の推理力をもってすればこれくらいの探りを入れるのは楽勝だ。
しばし俺を睨みつけていたアンヤだが、やがて息をつく。
「いいだろう。話してやる」
「ほう?」
「俺の……俺たちの種族の命は例外だ。そういう種族、なのだ」
「吸血鬼ってのはやっぱ特殊なんだな」
「吸血鬼と人とでは死の概念が違う。まだ可能性はある。―――世界樹の力さえあれば」
「まだ」らしい。
キューレが死亡したのは数年前だけど、随分と長い猶予だ。
「そもそも吸血鬼ってのはなんなんだ、血を吸う鬼なのか」
「ふん。吸血など我等の能力の一端でしかない。我等の真の力は、生と死の境界が曖昧であることだ」
人間の中にも白人や黒人がいるけど、魔族の中で卑弥呼やキューレといった存在は生物として違いすぎる。
だとすれば、魔族と呼ばれる存在には何かしら明確な共通点があるのだろうか。
吸血鬼の特徴としてよく聞くのは、コウモリになれるとか、霧になるとか、人の血を吸うとか、イギリスの機関で飼われてるとか。
コウモリとかヒルの擬人化キャラっぽいけど、ひょっとしたらドラゴンが人間+トカゲみたいなミュータントで、吸血鬼は人間+コウモリのミュータントなのかもしれない。
卑弥呼は魔族が元々人間だったと言っていたし。
「……いや待て、霧になる能力?」
そういえばあの時点では深く考えてなかったが、あの時爆散したキューレはまさに血霧というべき状況じゃなかろうか。
しめやかに爆発四散したわけだが、ひょっとしたら……あの爆発の中でこっそりと霧になっていたとか、小さなコウモリに姿を変えて生き延びていたら?
いやアンヤが「生き返らせる」と言っているのだから間違いなく死んでいるのだろうけど、ひょっとしたらギリギリ仮死とか、そういう状態だったのかもしれない。
なんにせよ、俺がすべきことは一つ。
「まあなんだ、頑張れよ! 俺は関係ないけど妹の死者蘇生頑張れよ!」
こいつの事情に関わるだけ面倒事だ、適当に誤魔化したろっと!
「はぐらかすな。勇者、お前も死んだ仲間を生き返らせるためにこの地に来たのだろう?」
「違うよ? 俺たちはただの物見遊山だよ?」
「ええい、はぐらかすなと言っているだろう! 俺からは提案したいのだ!」
そう言って、アンヤは俺にだけ聞こえるように耳元で囁く。
「妹の仇に提案するのは業腹だが……目的が同じならば、共同研究したい。死者蘇生の法、ほしいのだろう?」
「……なるほど」
どうやら、アンヤは死者蘇生のアイテムが一つしか得られないことを知らないようだ。
いや、俺だってこの知識はゲームのもの。本当に世界樹の葉が一つしか入手不可能かはわからない。
だとして、仮に世界樹の葉が複数入手可能だったとして。
「死者蘇生の手段を仲良く二等分するっていうのか? 勇者と魔族が?」
「ふん」
アンヤがそっと視線を逸らす。図星かい。
まあ、そりゃそうだろう。こんな大陸の奥地まで入り込むなんて、2度も3度もやりたくはない。
入手できるのなら、あるだけありったけかっぱらう。俺だってそうする。
とはいえこの地に先に来ていたアンヤの情報はほしい。俺としてはメリットが大きいのも確かなのだ。
「よし」
俺は力強く宣言する。
「妹のことは忘れて一緒に頑張ろう! 俺たちズッ友だよな!」
「くたばれ」
アンヤは握手を求める俺の手をはたいて、スタスタと歩いていく。
「時間がある時でいい、俺の研究室に来い」
やだ、付き合ってない男の人に家に誘われちゃった……///