数日後、俺はアンヤの研究室を訪ねる。
「きったねえ」
アンヤの研究室は、それはひどい有様だった。
あちこちに本が積み上げられ、畳の上は足を置くスペースもないほど。
その有様は部屋の主の頭の中を写し取ったようで、どうにも俺とこいつは上手くやれないだろうなという予感がある。
「ところで、大陸でも畳ってあるんだな」
「何を言っている?」
「なんでもない。っつーか人招くんだったら掃除しとけよ」
「自分の為の研究室だ。片付けるつもりはない」
「あっそ」
そうは言いつつも荒れた部屋を見られて気まずいのか、アンヤは顔を逸らす。
そんな雰囲気の中、俺たちは情報交換を開始した。
「まずはこの地図を見ろ。この周辺の地図だが……」
「お前、部屋だけじゃなくて字も絵も汚いな……」
「お前の顔も汚くしてやろうか」
「遠回しに美形って褒めるなよ、照れるだろ」
アンヤが指さした箇所には、この大陸の大まかな形が記されていた。
「そもそも論だが、なぜ死者の魂は肉体から離れると思う?」
地図はなんの為に開いたんだ。
「知らん。魂を収める器が壊れて穴が開いて外に漏れる、みたいなイメージだったけど」
「間違いではないが、足りない。そうだな、お前が大好きな気球で例えるとしよう」
「好きじゃねえよ。誰がフリーフォール好きになるよ」
「気球が膨らむのは内部の気圧が外気より高いからだ。そして気球に穴が開けば、その気圧差で中の空気が外に抜けてしまうわけだ」
「つまりなんだ、死体から魂が肉体から抜けるのは、外の気圧が低いから外部に引っ張られるってことか?」
まあ、精神というか生体エネルギー的なものが、空気中より生物の中の方が濃いってのはイメージに合うかもしれない。
「魂の場合は気圧ではなく魔力濃度だが、つまりはそういうことだ。すなわち適切な魔力濃度でさえあれば、死者の魂が器に逆戻りする。……はずだ」
つまりなんだ、あれか。
出しすぎてしまった歯磨き粉のチューブを、こううまい具合にグッとやると引っ込んでセーフ! みたいな話か。
違う気がする。
「そ、そんな上手くいくかぁ?」
「上手くいかせる為の何かがこの地にはあるのだ。例えば死者蘇生に適した魔力密度の秘境とか、そういうやつだ」
「お前は死者蘇生の鍵は『物』ではなく『場所』だと思ってるのか?」
「ほう、お前は『物』だと思っていたのだな」
アンヤの視線が「お前も情報提供しろ」と訴えてくる。
前々から気になってたけど、コイツは世界樹というワードは知っているっぽいけど、それが『葉』であることは把握してないっぽいんだよな。
なるほど『世界樹』であれば『場所』だし、『世界樹の葉』であれば『物』だ。
じっとりとした眼差しで俺を見つめてくるアンヤ。
……仕方がない。俺の知っている世界樹の葉についての情報を話すか。
「話半分に聞いてほしいんだが……」