「やっぱ魔族と仲良くとか無理だわ。マジ害獣。ゲジゲジのほうがまだ可愛げがある。米が食べたい」
俺は再び気球に吊り下げられていた。
なぜ俺は再び空の旅に挑まんとしているのか。アンヤは俺を不快害獣を見る目で観察しつつ、その意図するとこころを語った。
「死者蘇生の法がある場所が物理的に辿り着けないような場所だとして、それを見つけようとするならば、やはり空から探すべきだろう。百聞は一見に如かず、というやつだ」
「おいてめー、その吸血鬼の羽は飾りか。飛べないのかお前は。なんで俺がアドバルーンされなきゃいけないんだよ。お前がアドバれよ」
「これを使うのだ」
アンヤは大きな箱を俺に手渡した。
「なにこれ」
「写真機だ。空から見たところで、人間の目では見逃す可能性が高い」
「写真で見たってよくわからん気がするけど……」
「だからこそだ。ここに水平器があるだろう、写真は完全に水平にして真下を撮るのだ」
「するとどうなる?」
「完全に水平な写真が複数枚あれば、立体視で高低差を確認できる。森の中の違和感は木々に阻まれ直視できないが、土地の高低は段差として見えるはずだ」
ああ、左右にほぼ同じ画像が2枚並んでたりするアレか。
なんの役に立つんだって思ってたけど、こういう実用的な使い道もあるんだな。
「納得できたな? じゃあ行け」
「納得できねえよ。お前が行け」
「よし準備完了だ! バクダ、殺れ!」
「よしきた!」
アンヤがバクダに合図を送ると、バクダは魔法で熱を気球に送り込んだ。
「なにも完了してねああああいやだああぁぁぁ」
俺の了承もなく、ふわりと浮かび上がる熱気球。
みるみる遠ざかる地上。万歳三唱で見送る仲間たち。
急に吹いた風に、俺を吊り下げた気球は深い森の方向へと旅立った。
「おまえをころしておれもしぬ」
「落ち着けマイフレンド」
墜落して三日三晩森を彷徨った俺は、アンヤを殺すことにした。
あんなに簡単に風で流されて漂流するなんて、地球で軽航空機が廃れるわけだ。
気分は冷戦時代にソ連を偵察すべく飛んだ初期の使い捨て人工衛星だ。
聡明なる読者諸君は偵察衛星と聞いて電波で地上に画像を送るのをイメージするだろうが、本当の初期の人工衛星はフィルムカメラを搭載して地上にフィルムを帰還させての偵察活動をしていた。
「お前が楽しく遊覧飛行している間にこんなものを作った」
アンヤが取り出したのはメガネだ。
もちろんただのメガネではなく、テーブルに固定する奇妙なメガネ。
下に覗き込むように固定されていて、レンズの先は左右それぞれ別の……といってもほぼ同じ画像に向けられている。
覗き込んでみると、なるほど写真が立体的に見える。
「こうして見ると、森って結構起伏があるんだな」
見せて見せてとせがむサイモンに場所を譲る。
「これって、木の高さが場所によって違うとかじゃないのか?」
「それはないよ。森ってのは植物が光を奪い合った結果さ、同じ感じの森であれば木の高さはほぼ一定になる」
サイモンのつぶやきにシャキアが答える。
前々から思ってたけど、シャキアって野生児っぽい。
「おい、ここはなんだ?」
「どこだよメガネ覗いてるお前以外はわからねえよ」
「ここだよここ、大穴があるぞ」
サイモンにかわりメガネを覗くと、確かに森に大穴が空いていた。
南米にあるサリサリニャーン、みたいな名前の大穴のようだ。
「なんだこれは、こんなものは知らないぞ」
困惑した声を漏らすアンヤ。
一応賢者でありこの地に詳しいであろう彼が、こんな目立つものを知らないというのは不可思議だ。
「人払いの結界みたいのがあるとか?」
「魔力の反応がないと言っているだろう。だが……なんにせよ調査の必要があるな」
俺とアンヤは顔を見合わせた。
「これ、俺たちが行くの?」
「俺よりお前らのほうが冒険に慣れているだろう。それとも、他に適任がいるとでも?」
「いないかもだけどさあ」
アンヤは俺に丸投げしてきた。
こんな大穴、絶対何かいる気がする。
「まあ……やるけど……」
こうして俺たちは、人払いの結界(仮)がある大穴の調査をすることになったのだった。