大穴の周辺は、不気味なほどに静まり返っていた。
森は静寂に包まれ、生き物の気配はない。
「慎重にここまで来ましたが……近くまで来たのに、まるで穴があるようには見えませんね」
ルナリアは大穴周辺を慎重に歩き、推論を語る。
「木々がカモフラージュとなって大穴を隠しています。もし偶然穴に辿り着いた者がいたとしても、落下して死亡してしまっていたのかもしれません」
「うへえ、転落死とかおっかな……魔法じゃなくて天然の落とし穴、ってオチだったわけか」
もしうっかり落ちてたら……と思うとぞっとするな。
穴の深さは暗くて見えないほどで、相当ありそうだ。
……いや、それでも落ちたところで、俺やルナリアは単純に身体の強度的に耐えられるのか?
「なんにせよ、なにかあるとしたら穴の底だろうな」
「はあーっ、深いですねえ」
ソニアが四つん這いになって穴の奥底を覗こうとした。
「お、おいっ。落ちたらどうするんだ」
「落ちる前にカッコよく助けてくださーい」
この向こう見ずっぷり、若いなぁ。
とはいえ危ないので、俺はカッコよくグイっとソニアの脚を引っ張る。
「ひゃばっ!?」
ソニアは顔を地面に強打し、悲鳴をあげた。
「乙女の脚を引っ張るなんてサイテーです。離してくださーい」
「お、おう。イケメンですまん」
強打したこと自体はノーダメらしい。
やっといてなんだけど、さすが武闘家。リアクションが頑丈だ。
最初から大穴があることはわかっていたのだから、ちゃんと長いロープも持ってきていた。
「これで降りるぞ、じゃんけん負けた奴が先な」
「勇者なら勇気あるところ見せろやお前よお」
「おっ勇者サイモン氏が先行くってよ! みんな帽子振って見送ってやれ!」
「おい」
なんだかんだでじゃんけんの結果、一番は結局サイモンになった。
「おーい」
「サイモンの! ちょっとイイとこ見てみたい! それっ落下! 落下!」
「てめーら……覚えとけよ」
垂らされたロープをつたってサイモンが穴の中に降りる。
大穴の壁面は岩場がむき出しの崖で、葉や枝がないのでひっかかる心配がないのはありがたい。
「よいしょーっと、っくらぁ」
年寄りくさい声でサイモンがロープから飛び降りる。
奥底で、ボッと松明の明かりが灯ったのが見えた。
「おーい、大丈夫そうかー? 底に毒ガスとか溜まってないかー? 松明の火で爆発しそうかー?」
「事後でサラッと怖いこと言うな! そういう危険があるなら先に言え!」
「ラジオ体操第一ィー! 深呼吸ー!」
「するか! お前も降りて来い!」
「わかった、わかった」
俺もロープをつたって大穴の中に降りる。
穴底に辿り着いたタイミングで、焦れたらしいルナリアがロープなしで飛び込んでズドンと着地してきた。
落石かと思った。
舞い上がる土煙、片膝をついてすっくと立ち上がるルナリア。
強そう(強い)。
「勇者様、あれは」
ルナリアがおすまし顔で視線を向ける。
数百メートルをフィジカルで飛び降りる系聖女様。
それはともかくとして、ルナリアの視線を追うと穴の底には更に横穴があった。
人間が通れるほどの、いかにもな洞窟。
……よし。
「おっ、なんだお前が行くのか?」
「まあたまにはな」
俺は洞窟へ入る。
先程はサイモンにまかせてしまったが、本当に危なそうな場所は俺が率先して行かねばなるまい。
それこそ勇者だから、なんて理由じゃない。
この旅は、結局は俺のわがままの旅だ。各々に目的があるとはいえ、俺の目標に向けて進路を決めている旅だ。
だから、いい加減な部分はそれはそれでいいとして、リーダーとしての責任は手放したくない。
「さて、鬼が出てくるか、蛇が出てくるか……」
洞窟の先に目を凝らす。そこには―――
「にゃー」
「猫が出てくるのか……」
にゃんでやねん。
書き溜めはここで終わりです。
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