「何が出るかな、何が出るかな、デデデデンデン、デデデデン」
歌いつつ、巨大なサイコロを放り投げる。
「おっ、5が出たぞ。幸先がいい」
6面サイコロで5ならかなりいい数字だろう。俺は意気揚々とマス目を進んでいく。
5つ先のマスに着地すると、50ゴールドがどこからともなく降ってきた。
……しょっぱい金額だけど、普通に安宿に泊まれる金額と考えたらそれなりに嬉しいかもしれない。
とはいえこだわるような出来事でもないので、2回目のサイコロを振る。
次に出たのは2だった。
「いっち、に、っと」
2マス進むと、次にやってきたのは?マークのマス。
若干ビビリつつも致命的なものはないと自らに言い聞かせ、マスを踏む。
『夜空を焼き尽くす火の山。鋼鉄のハンマーを打ち鳴らせ』
そんな文言が聞こえてきた。
……なんだろう? なにかおこったんだろうか。
さっきから起こることが地味すぎて、仲間たちが暇そうにしだした。
雑談を始める4人。ふと思う。
サイモンハーレム状態じゃん。
「ま、まあいい。次だ次」
そいやっ、とサイコロを放る。
6が出た。
すごろくにおいて無条件に大きな数字が有利というわけではないが、サイコロで6が出るとなんか嬉しくなる。
6マス前進していると、分岐がやってきた。
「せっかくだから俺は遠回りを選ぶぜ」
特に意味もなく、漠然と遠回りになりそうなルートを選択してみた。
サイコロの絵が描かれたマスに乗ると、アナウンスが聞こえてきた。
『サイコロ回数を3回プラスします』
「ふむ、悪くないんじゃないか」
3回もプラスされたならば、相当攻略に足しになる。遠回りしたかいがあったというものだ。
しかし、続いて出たサイコロの目は1だった。
1マスだけ進む。魔法陣に乗ると、身体が妙に軽くなった。
たぶん体力回復とか、そういうやつだろう。
ここまで来るのにまっっっったく体力消耗してないけど。
「とか言って油断してたらドクロマークですわ」
2が出た先はドクロマークのマスだった。
踏むと、怪しげなガスが吹き出してくる。
「……サイモンをからかった呪いなのか? 成仏しろ、サイモン」
「お前がくたばれ」
外野からサイモンの野次が聞こえてきた。
ガスの効果は……たぶん魔法関連のデバフだ。
魔力がごっそり削られた感覚がある。
「最強勇者様にとってはノーダメだがな。はい次ー」
サイコロを振る。6だ。
ここに至るまで、けっこう景気よく数字が出ているんじゃないだろうか。
6マス進むと、草が生えた大きなマスに降り立った。
降り立つと、魔力の流れとともに4匹の魔物が召喚された。
「鶏肉……大ガラスか」
俺達の旅の最初期にて、俺達に食肉という恩恵をもたらしてくれた鳥魔物だ。
魔物というより、スカベンジャー型のただの動物なのかもしれない。
この不景気なご時世においては、庶民にとって肉を提供するありがたい魔物である。
ムチを振るうと、1撃で魔物たちは吹っ飛んで即死した。
ムチってのは人間への拷問に使われる通り、衝撃は大きいが内部へのダメージに至りにくい。
先端速度が音速を超えるだけあって、とにかく「軽いが痛い」という方向性のダメージなのだ。
勇者パワーで振るうと、軽いムチの衝撃でも普通に一撃だけど。
せっかくなのでカラスを解体して食肉を入手する。悠長と思われるかもしれないが、仲間たちは猫を吸っているので別に急ぐ理由もない。
……そんなこんなで何度かサイコロを振っていると、ついにゴールの扉が目の前まで来た。
あと1マス。勝ったな。
「そぉい!」
サイコロを放る。
2が出た。
颯爽と肩で風を切って進む。気分はロードバイクのレースで勝利直前の選手だ。
目の前にはゴールテープ、手放し乗りで腕を左右に広げゴールに突っ込む快感。
優勝者の伝統みたいなものだけど、この瞬間に2位に追い抜かれたり、手放ししてたせいで落車したりするのも伝統である。
しかし俺はそんなミスはしない。俺は悠然と1マス進み……更に1マス戻った。
なんか魔法のパワーで強引に戻された。
「……ぴったりじゃないと駄目なのかよ!」
急に難易度が上昇した。そういえばすごろくって、そういうルールだったっけ。
俺は今度こそ1出ろと祈りつつ、サイコロを振る。
「6」
6。
サイコロで一番大きな数字。
誰だ、景気よく大きな数字が出て喜んでた奴。
1歩進んで、5歩もさがる羽目になった。
すっごい逆走させられた。
その後も6が出たり5が出たり、妙に大きな数字が連発される。
全然ゴールできない。ゴールの前でシャトルランを繰り返す俺。
あんまり同じ場所で行ったり来たりしてたせいで、仲間たちが俺が進むすごろくルートの隣でレジャーシートを広げて昼食を作り始めた。
「勇者様、さっきのお肉をいただけますか?」
「はーい」
大鴉の鶏肉を渡す。4匹分なのでなかなかの量だ。
「俺の分も頼むぞ」
「残ってたら残しておきます」
「ルナちゃん、俺に最近冷たくない?」
「勇者様にはこれでいいかなと思いまして」
ルナリアが最近冷たい。倦怠期かも。
そして、ついにサイコロラスト1回。
まさに最後のチャンス。だが、俺は知っている。
勇者とは、最後まで諦めない者だ。
そして最後まで諦めなかった者に、女神は微笑むのだと―――!
最後の1回にして、奇しくもゴールは1歩先。
今度こそ、今度こそ1を出せばゴールになる。
「みんな、見ていてくれ」
俺は仲間たちに呼びかける。
「やっぱ鶏は塩だな」
「甘じょっぱいタレでしょう」
「柚子胡椒がたまらないねえ」
「ネギだけ焼いてくださーい」
仲間たちは焼き鳥してた。
俺の分、残ってるだろうか。
それとソニア、ねぎま肉抜きはどうかと思うぞ。
「俺の勇気が奇跡を起こすと信じて―――!」
サイコロを振る。
2が出た。
……1歩進んで、1歩さがる。
『サイコロの残り数がもうありません。残念ですがここまでです』
謎のアナウンスが響き渡る。
床がバネで跳ね上がり、俺はサイコロ場から放り捨てられた。
…………。
「みんな、帰るよー! 帰りますよー!」
寝る! もう帰って寝る!
あばばば!
俺はカサンに帰還した。
むしゃくしゃしたので喋る猫は連れ帰った。
俺も猫を吸おう。
猫吸いされているときの猫の、「えっ?えっ?これって生命力吸われてる?」って顔すき