俺たちはカサンの、アンヤの研究室に戻ってきた。
「というわけで、入手したのがこの猫だ」
「にゃー」
「拾った場所に返してこい」
俺が戦利品の猫を見せると、アンヤはそう言って森の方向を指差した。
「やだやだやだー! 猫飼うのー! おらさ東京行って猫飼うのー!」
駄々をこねてみたところ、アンヤはビンタしてきた。
すぐ暴力を振るう奴ってサイテー。ちょっと男子ぃー。
「貴様はなんだ、結局今日の成果は猫一匹か!?」
「なんならもう数匹持ってこようか」
「なんならもう何発かぶってやろうか」
片手を上げるアンヤ。
「やめたまえ。ラブアンドピース、世界が平和でありますように。俺もお前も文明人だ、戦いを目的にしてはいけない」
「野蛮人に文明がなんたるかを教示するのも文明人の使命だ」
マニュフェストディスティニー乙。
「俺の目的はキューレの蘇生だけだ」
「ならば俺との協力は重要なはずだ。俺たちは確実に世界樹に近付いているのだから」
「そうは思えんから殴ったのだが」
「ふん、お前の目は節穴か? 俺たちは確実に世界樹に近づいている。この猫をよく見ろ」
俺は猫を持ち上げる。
アンヤは猫を注視した。
「オスの三毛猫だ」
「貴様の顔も三色パンみたいにカラフルにしてやる」
3色パンって中身が3種類ってだけで、外見は一色だろ。
「乱暴な方ですね。あなたもこの地の賢者の一人なのです、もっと悠然と構えているべきではありませんか?」
猫が喋った。
アンヤが固まる。
「……なんだ、こいつは。精霊か?」
「なんでもかんでも精霊で説明しようとするのやめない?」
「世の中の不可思議なことはだいたい精霊のせいだ。貴様にも心当たりがあるのではないか?」
俺は言葉に詰まってしまった。
まあ、この世界に迷い込んだ理由からして精霊絡みだからな。
……精霊神ルビスが元凶だって、キューレも言っていた記憶がある。
まさか本当に「だいたいこいつのせい」なんじゃないだろうな。
「む? この猫、バクダの猫ではないか?」
「まあ、そうね」
実は洞窟で出会った時から気付いてたけど、喋る猫はバクダの飼い猫だ。
はれて賢者の一人に就任した、猫氏である。
幸せの青い鳥、本当の探しものは近くにある、みたいな?
「どうやらカサンの町から抜け出して、穴の底で猫集会していたらしい」
「なぜそのような場所で……?」
「そりゃすごろく場があったからだろうけど、でもなんで猫がすごろく場に挑んでいたかは不明だ」
人間たちの視線が猫に集中する。
猫は鳴き声を上げつつ、割とあっさりと答えた。
「神となるためです」
「思ったより志が高いな……」
社長になるとか、大統領になるとかより難易度が高い。
俺ももうちょい高い志を持つべきなのかもしれない。一国一城の主になるとか。
……そういえば王様だった、俺。
「かつてこの世界は神も精霊もいませんでした。しかしある時に精霊が生まれ、一部の精霊が神となりました。神となった精霊により世界の仕組みが管理され、秩序が生まれました」
「いや、この世界は割と秩序めちゃくちゃだと思うけど……」
物理定数を秩序と呼ぶのであれば、この世界は魔法があるので秩序がめちゃくちゃだ。
ボルツマン定数くん仕事して。
「神が完璧な仕事を達成できるとは限りません。それとこれは別問題です」
「そりゃそうなんだろうけど、いやな現実だなぁ……」
地上を這い回る矮小な人間としては、完璧な仕事を期待したいところだが。
誰だって、いつだって、完璧な仕事をできるなんてわけがない。
自分ができないことを人に求めるのはナンセンスだ。
「それで、貴様は畜生の身で神を目指し、なにを得ようと画策しているのだ?」
「神となり、雷の発生を許容させる。それが私の目的です」
「雷?」
この世界にはなぜか雷がない。それが、神の裁量によるものだった?
「雷が必要なのです。雷で燃料を起爆する、軽量で高性能な動力装置が」
「……あー」
猫が何を考えているか、わかった気がする。
「そうか、スパークプラグか。この世界じゃガソリンエンジンが作れないのか……」
確か初期の飛行船においては、重い蒸気機関を使っての飛行も行われていた。
世界初の動力航空機はスチームパンクだったのだ。
しかし重量過多とパワー不足で、飛行制御が困難だったと聞いている。
この世界で実用化している動力は蒸気機関だけなので、バクダもいつか同じ問題に直面していただろう。
「軽量な航空機を作るには、軽量な動力が必要なのです。そしてその動力には、雷が発生してもいいという世界が必要なのです」
「航空機のために世界の方を変えるのか」
雷……スパークプラグを必要としないディーゼルエンジンというものあるが、これはガソリンエンジンより重い。航空機に使えないってほどじゃないけど。
ディーゼルが向いているのは、むしろ機関車とか、どっしりと走る車両だ。
あとは発電機みたいな、そもそも走らない物。
オフロード車にも向いているという考え方もあるけど、これについてはオフロード車はタイヤの接地圧が重要であり、重いディーゼルエンジンは不利という考えもある。
大きな車体、大きなタイヤでも、重さで埋もれては意味がない。
なんにせよ、航空機にはガソリンエンジンは鉄板。もっと軽くて強力なジェットエンジンってものもあるけど、さすがに中世なこの世界じゃ作れない。
だがしかし、この世界ではスパークプラグを作れず、唯一といっていい選択肢であるはずのガソリンエンジンを作れない。
それを打開するために、つまりなんだ、この猫はバクダのために神になろうとしているのか。
うーん、健気!
ライブ感覚で書いているので、深く考えないでください。