「ちっさ」
カサンの中心には、たしかに木があった。
不規則に生えた、不格好な幹。
なかなかにみずみずしい印象を受ける葉だが、全体的な規模は小さい。
普通の街路樹だ。
「広葉樹なのだな」
アンヤがつぶやく。
そりゃそうだ。世界樹の葉がまさか針葉樹の細長い葉だと、ちょっとしまらない。
町の中心は広場というかラウンドアバウトになっていて、その中心がちょっとした花壇になっていた。
その花壇のさらに中心に生えているのが、この木なのだ。
「ちっさ」
「うむ、だがこれは……間違いない」
拍子抜けだったが、アンヤが調査したところ、どうにもこれが本当に世界樹らしい。
……そういえば心当たりが、ないわけではない。
原作ゲームでも、世界樹には特別なグラフィックが割り振られてはいなかった。
特別大きな木という描写もなく、特別目立つという文章もなく。
ただ、普通のフィールド上を調べたら世界樹だった。
「なるほど、なんの変哲もない木だったわけか……」
見つからないわけだ。
ヒントは割と初期から近くにあったわけだけど。
「とはいえ葉っぱがたくさんあるぞ、全部世界樹の葉なのか?」
「まさか」
広葉樹って何枚くらい葉っぱがあるのか知らないけど、たぶん数百枚、数千枚だろう。
全部死者蘇生のアイテムだったらとんでもない話だが、さすがにそれはない。
「マングローブという植物があるだろう」
「ああ、海の近くの水場に生えるっていう、変な植物?」
「あの植物は塩分を根から吸い上げてしまうために、吸い上げた塩分を一部の葉に集中させて落葉させてしまうそうだ。世界樹の葉もそういうことだろう、魔力を一枚の葉に集中させているのだ」
「お前みたいな頭がいいイケメンは死ね」
「急に宣戦布告するな」
いかんいかん。アカデミックな話に対応可能なアンヤの顔を見ていると、ついつい怒りが湧いてしまった。
「すまない、ちょっと理性的じゃない部分が出てしまった。それで、どれが正真正銘の『世界樹の葉』なんだ?」
「ああ、おそらくこれ「死ねええええっ!」
俺は剣を振り上げ、アンヤに切りかかった。
アンヤがひらりと回避し、俺に魔法を放つ。
俺は魔法を裏拳で吹き飛ばし、アンヤと向かい合った。
「特定した瞬間、ノータイムで切りかかってきたな……」
「親友同士が争い合う、悲劇だと俺も思う」
「俺たちはそんな仲だっただろうか?」
女性をデートに誘った時の一番きついお断り文句みたいなことを言われた。
「えっと、私たちってデートとかする仲じゃないよね?」みたいな。
「葉っぱは一枚、生き返らせたい人間は二人。俺たちは、戦うしかないんだ」
「悲劇のように語っているが、お前、元々そのつもりだったろう」
「まったくそんなことはない」
俺は剣を構えた。
アンヤも魔法を放つ為に手をかざす。
ルナリアのビンタが俺たちを襲った。
「なにすんのルナちゃん」
「なにをするのだ聖女よ」
ルナリアは手のひらをさすりつつ諭してくる。
「我々には言葉があります。分かり合うための知性があります。相手を慈しむ愛があります。我々は、暴力でなにかを解決するようなことをしてはならない。そうは思いませんか?」
「10秒前にビンタしてきた女の言い分じゃねえな……」
「聖なる女ではなく制する女だな」
「そもそも、なぜ貴方がたが争う必要があるのですか?」
制女は不思議そうにクビを傾げた。
「なぜって、そりゃアイテムが一つしかないし」
この戦いは最初から予期されていたことだ。アンヤと俺が争うのは、想定してしかるべき事態だった。
「いえ、しかし、勇者様、アレは使えないのですか?」
「あれ?」
「アイテムを増やす奇妙な技です」
「あっ」
そうだ、俺にはキメラバグという切り札があるのだ。
「忘れてた」
「ええ……」
ルナリアの呆れ顔。俺は恥ずかしくなった。
いや、ガチで忘れていた。普通に赤面してしまう。
「何を言っている? アイテムを増やすだと?」
困惑するアンヤ。
「馬鹿げている。伝説のアイテムだぞ、そう簡単に複製できてたまるか」
そりゃあ薬草くらいを複製するならともかく、死者蘇生のアイテムだからな。
しかしこのアイテム増殖技、本当にあらゆるアイテムを増やせる。キーアイテムであろうと一つしか入手できない貴重アイテムであろうと、遠慮なく複製できる。
そう言うと、アンヤは俺をじっとりと睨んだ。
「……なぜ最初からやらなかった」
「これは神の理にすら逆らう禁じ手。使うにも相応のリスクが―――すまん、忘れてた」
「……まあいい。では、さっさと世界樹の葉を増やしてみせろ」
「おけまる」
俺は世界樹の葉を取ろうとして、アンヤに防がれた。
「そのまま持ち去る気ではないだろうな」
「信じろ。―――仲間だろ?」
「どの口が言っているのだ、本当に……」