エイダちゃんとキューレが生き返った。
命の理を覆す現象を前に、俺たちは幾つかのことを急ぎ決めた。
1つ、死者蘇生の技法に関する情報を世間に公表しないこと。
2つ、当事者が本当に生前と同じ人格であるかを十分に確認すること。
そして3つ……
「キューレ、不足はないか? お腹は空いてないか? 勇者に虐められていないか?」
「兄上、人前であまりそういうのは……やめてほしいのだが」
キューレは過保護となった兄、アンヤに困り果てていた。
3つ目の決め事、それはこの数年間ずっと気を張っていたこともあり、色々気疲れがあったと自覚したこともあり。
世界の命運とかはさておいて、さすがにちょっと休もう……そう考えたのだ。
「おい、何なんだよこの状況。なんで俺、私たち、こんな場所で魔族と一緒にお茶してるんだ」
エイダちゃんも戸惑っている。
俺たちは今、オープンテラスの喫茶店でお茶と菓子をしばいていた。
といってもカサンの文化的に、時代劇にでてくる団子屋のような風情だ。
飲んでいるのは甘露だし、食べているのは串団子ではなく胡麻団子。
飲食物のクオリティがいちいち高い。この町は細々とした部分で格の違いを見せてくる。
にしても、一人称がふわふわなエイダちゃんはなんだか懐かしい。
「まあ、そろそろ冬だし。しばらく冒険はお休みだから、息抜きをしたっていいだろう」
「お茶をしてる理由を聞きたいんじゃねーよ。人間と魔王軍の戦いはどうなったんだ、ひょっとしてあれか、休憩みたいな」
……休戦って言いたいのだろうか。
まあ、冬だしな。クリスマスには休戦くらいするだろう。
「暗黒大陸では未だにイシスが最前線になって、人類と魔王軍と小競り合いを続けている。最近じゃ新大陸の陣取り合戦になっているけど、そっちは人類連合軍は後手後手に回ってる感じだな。つまり全体としては負け越してる」
「しっかりしろよ勇者様よお」
「頑張ってるから。俺なりに頑張ってるから」
「これまで死んでった奴が「頑張ってるから」って言って許してくれるといいな」
エイダちゃんは自分の股間に触れつつ、深々とため息をついた。
「なあ、私の相棒が行方不明なんだけど」
「4年も経ってるからな……どっかで千切れたんだろ」
「私の! 相棒が! 行方不明なんだが!」
吠えるエイダちゃん。
彼は、死者蘇生に際してなぜか股間のロトの剣を喪失していた。
別に性転換したというわけではなく、ただたんにどっか行っちゃった。
俺だってエイダちゃんの死体を修復する時に、いちいち股間までチェックするわけもなく。
まじで、いつの間にかどっかなくしちゃった。
「めんご」
「お前なあ! いや生き返らせてくれたことは感謝してるけどよぉ!? 俺の相棒どこ行っちゃったんだよお!?」
「俺なりに頑張ったから」
「やっぱ努力賞は許せねえ!」
エイダちゃんが俺の胸ぐらを掴んでくる。
俺は動くエイダちゃんが嬉しくて、思わず頭ナデナデだ。
エイダちゃんは必死にもがくも、俺のナデナデから逃げられない。
「くそっ、こいつ、力が強い……!」
「勇者だからな。それより何か食べたいものはないか? 殺してほしい奴はいないか? そこの吸血鬼殺しとくか?」
キューレがビクッとした。
エイダちゃんは顔を赤らめ、俺から視線をそらす。
「なんだよ、なんだそこまでして俺を生き返らせたんだよ……」
「約束だからな。エイダちゃんの親父さん、助け出すんだろ?」
「…なんで、そんなこと覚えてるんだよ。あれから6年もたったんだろ?」
「俺がエイダちゃんのこと、忘れるわけないだろ」
「ばかじゃねーの」
エイダちゃんは俺から手を離し、そっぽを向いてしまった。
半端にヒロインムーブしないでほしい。
「勇者。我と敵対していたはずの貴様が、どうして我の蘇生を手伝ったのだ。我の言ったことを忘れたのか」
キューレがそう聞いてくる。
キューレの言ったことといえば……
「侵略する側にも侵略するなりの理由がある、侵略なんてやる側もできればやりたくない、それでもやらないといけない状況に追い込まれた以上は完遂しなければならない……みたいな話だっけ」
「うむ。我は方針を変えるつもりはない、今後も人間に敵対する。わかっているのか?」
「わかっている。だがそれでも、落とし所は必要だ。そうじゃないと、俺たちは本当に滅ぼすまで戦うことになる」
俺はキューレを強い眼差しで見つめる。
「キューレ。俺は、あの時とは違う。決意したんだ、この戦いを終わらせるって」
「……そうか」
キューレはなにかを感じ取ったのか、それ以上は何も言わなかった。
きっと彼女は認めたのだ。俺が、自分と同じ『戦士』であると。
ルナリアはぼそりと呟く。
「蘇生して襲いかかられても撃退できるから、別に問題視していなかっただけでは?」
「ルナちゃんお団子食べる?」
「いただきます」
ルナリアをお団子で静かにさせる。
彼女は若さにかまけて食事制限などいっさいしない系のガールなので、食べ物が目の前にあればあるだけ食べてしまう。
きっと歳をとってから太るタイプだ。
対してソニアはガチガチに食事を管理しているタイプ。食べたらそのままお腹に脂が乗ってしまう体質らしい。
女の子のお腹のお肉をプニプニしながら越冬したい。
ほっそりしたお腹でも前屈した時だけできる腹肉の13階段を登りたい。
もし段にならずに皺が寄る程度であったとしても、そこに指を這わせてギロみたいに演奏したい。
「勇者様? どうしたのですか? うつむいてしまって」
視線を彼女たちの腹部に向けていたからか、なにやら思い悩んでうつむいていると勘違いされた。
せっかくだ、ここは俺の好感度を稼ぐ為にかっこいいことを言おう。
「俺は世界を救う―――ネクロゴンドに巣食う魔王軍を倒して―――」
「…………。」
いかん、しょうもないダジャレみたいになっちゃった。
仲間たちが「今のって笑うところ?」みたいな顔をしている。