カサンにも冬がくる。
日本と比べたら随分と過ごしやすい冬季だが、それでも冬は冬だ。
旅の継続は困難……そう自分に言い訳して、カサンに引き思って早1ヶ月。
遂に恐れていた事態が発生し、俺はエイダちゃんから逃げ回っていた。
「おいこらぁーッ! 腹痛かと思ったら生理痛だったぞボケェーっ!!」
エイダちゃんに女体化がバレた。
宿にて今朝起きてすぐ異常に気付いたらしく、まずは治療系の専門家であるルナリアに相談。
それは腹痛ではないと指摘され、そのまま俺が犯人だと告げられたことでロビーでの追いかけっこ勃発である。
「なんで一ヶ月も黙ってた! つーかなんで誤魔化せると思った!?」
「そうは言っても、いざ男の娘の日が始まるまで気付かなかったエイダちゃんもそれはそれでどうかと思うぞ」
「開き直るな! お前の聖剣もちょん切ってやる!!」
「まさか俺の聖剣を奪うつもりか!?」
「仮に奪えたとして、その聖剣で子供を作ったらそれは誰の子供だ!?」
「やめろよ俺の童貞は俺のものだ、我が聖剣は誰にも抜かせはしない!」
「そのクソだるい話、いつまで続くんだ……?」
俺とエイダちゃんの話を聞いていたサイモンが、深々とため息をついた。
サイモンはロビーのローテーブルにて、朝から優雅にお茶を楽しんでいる。
脳筋っぽい見た目のくせに行動はセレブっぽい。
「おい勇者、ここに座れ。今後について話したい」
「エイダちゃんの今後については十二分に検討を重ねて回答したいと思います」
「その小娘についての今後についてなんて聞いてねえよ」
「小娘じゃ……小娘じゃ、ねえ……ううっぐすっ」
エイダちゃんが泣き始めた。
懐かしい、この子は限界を超えると泣いてしまうのだ。
メンタルよわよわかわいい。
「今後についてだったな。ちょうどいい、考えがある」
俺はサイモンの前に座り、自分の茶碗にお茶を勝手に注ぐ。
サイモンはさめざめと泣くエイダを見やる。
「俺から話をふっておいてなんだがよ、これを放置していいのか……?」
「めんどくさいからオッケー」
「そうか」
俺とサイモンは話し合いを始めた。
「俺としてはさ、やっぱ魔族ってなんぞやって部分をはっきりさせたいと思うんだ」
「訊けばいいじゃねえか。この町には2人いるぜ、魔族」
あっけからんと言うサイモン。しかしそうはいかないのだ。
「これまで知り合った魔族の誰に訊いても、『今ここで話すことべきことではない』みたいな反応されるんよ。俺、こういうの大っ嫌いだわ」
あらゆる物語でツッコまれてきた、『事前に情報共有しておけよ』『事前に相談しておけよ』問題だ。
報告! 連絡! 相談! くそがっ!
「まあ、それでも教えてくれないのはそれ相応の理由があるんだろ。だから地下世界に乗り込もうと思う」
「そうか。俺は降りるぜ」
「構わんよ」
唐突なサイモンの離脱発言に、俺は動揺もせず答えた。
お互いいい大人だ、これからは自分で決めるだろう。
コイツは美女じゃないから引き止める理由もない。
「けど降りるタイミングは狙うべきだ、どこで降りるつもりだ?」
「新大陸を見て回りたい。シャキアがどうして人攫いをしていたのかとか、その辺の調査が俺の目的だからな」
別に俺としても、それを止めるつもりはない。
もとよりサイモンとシャキアは、それを目的に旅にタダ乗りしていたようなものだ。
こいつらとしては、あわよくば新大陸に俺たちが乗り込むまでついてくるつもりだったのだろうけど。
「結局アリア号は新大陸には行きませんでしたとさ。はは、アテが外れたな」
「なにいってんだ、送ってけ」
「図々しい!」
ゲーム上なら方向キーをずっと押しっぱしておけば他の大陸に辿り着くけど、現実では数ヶ月準備して数ヶ月旅をしての命がけの冒険だ。
年単位でスケジュールを組む必要があるし、生きて帰ってこれる保証もない。
こっちの通貨が使えるとも思えないし、貴金属の価値だって向こうじゃ認められないかもしれない。
そんな大仕事を「送ってけ」の一言で頼んでくるコイツは図々しいと言わざるを得ない。
「お前さん空を飛ぶ手段を確保したいって前言ってたじゃねえか。空を飛べるんなら、海を渡るくらい大した労力じゃないだろ」
「簡単に言ってくれやがる」
それもどうしたものか。原作ゲームだとラーミアというでかい鳥に乗って旅をするわけだが、現状の人数が鳥に乗れるとも思えない。
これは俺がイレギュラーな行動をした結果なのか、それとも原作内でもいい感じに乗れる設定があるのか。
ラーミアは大きさを変えられて、なんなら100人乗っても大丈夫! とか、そういう裏設定があるのかもしれない。
だったらイシスの全戦力で魔王城に空から乗り込んでやる。
いや、航空戦力が使えるのだから空から魔法の玉で爆撃すればいいのか。
いやいや、魔法の玉なんてコストがかかる物を使う必要もない。魔法の袋に大岩を大量に入れておいて、質量爆撃してやればいい。
いやいやいや、そんな簡単な話なわけないだろ。魔王軍は飛空艇を持ってるんだ、空軍だってあるかもしれない。
「『いや』が多いな……」
「思考にダメ出しするのやめてくんない?」
仮に空軍があったとすれば、制空権を確保しておきながら人類滅亡させられない魔王軍はとんだ無能だ。
いやいやいやいや、そういえば空を飛ぶ魔物は普通にいたな。単純に魔物の知能とか統率力の問題か?
「…………。」
「悪かったって」
のどちんこが丸見えになるほどの大あくびをして、サイモンは俺の無駄な思考が終わるのを待っていた。
「とにかく、目標は空を飛ぶ手段の確保だ。それがないと何も始まらない」
ドラクエ3の旅の目的なんて、ほとんどが空を飛ぶ手段を手に入れることに終始している。
なにせ魔王城がそれでしか突入できない。もしアリアハンに飛行船の技術があれば、それだけでドラクエ3は完結だ。
正直俺としては魔王を名乗るスヤスヤ居眠りヒキガエルなんて興味ないのだけれど、実際問題彼も中間管理職である以上は対峙せねばならないだろう。
報! 連! 相! なんて主張してしまったからには、俺も手順を踏むことにしよう。
「あの賢者様が作ってる空飛ぶおもちゃはどうなんだ? 話に出ないが、使い物にならないのか?」
「どうだろうな。なにもかも解決する大革命になるかもしれないし、おもちゃの域を出ないかもしれない」
航空機の開発は常に枯れた技術の水平思考だ。不安定な新技術なんて使えない。
だからこそ、航空機の開発は進む時はガンガン進む。第二次世界大戦あたりの航空機の進化なんて奇形的ですらある。
飛行船だってそうだ、世界初の世界大戦前夜に世界各国が航空戦力を求めたことで、あっというまに全長200メートルのクジラが空を飛ぶ世界になってしまった。
「わかんないから、まずは正攻法で空を飛ぶ方法を探すさ」
アテはあるのだ。割と近いし。
「冬を越したらジパングに戻る。あの脱走兵のお姫様から、オーブを貰い受けるぞ」
「……すまん、オーブってなんのこった?」
キョトン顔のサイモンに、俺は思う。
報連相って大事。
お盆休みの書き溜めはここまでです。
今はアマガミにいまさらハマってるので、投稿が遅れるかも。
綾辻さんは裏表のない素敵な人です!