ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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お久しぶりです。
後時報告ありがとうございます。
アマガミをクリアしたので執筆再開です。
久々なので、ちょっと調子が狂ってるかも?

きーらきーらきらーめーくーゆーきをー♪


プライドブレイク

 

これまでのあらすじ

 

 

 

 何も知らぬまま目を覚ました地球の青年は、気が付けば彼は自らがかつて遊んだゲーム、ドラクエ3の世界に立っていた。

 だが、これはただの夢ではない―――すべてがリアルな現実だった。

 もし、この世界の「神」にたどり着ければ、元の地球に戻る手がかりがあるかもしれない。その希望を胸に、彼は伝説へと続く冒険に出る。

 

 最初は単純に「ゲーム通り」の道を進めばよかった。

 しかし、現実となったこの世界は、ゲームで描かれた狭い舞台とは全く異なる広さを持ち、多くの人々が絡み合う複雑な思惑が渦巻いていた。

 冷酷な戦場で、か弱い市民の願い、無言の涙、守るべき大義……それらすべてが、彼の肩に重くのしかかる。

 

 旅の中で彼は自らが選ばれし「勇者」であると自覚し、次第にその名を全世界に轟かせていく。

 戦乱に明け暮れる世界。彼は勇者として認められていき、ついには魔王軍との戦いの象徴として最前線の王となる。

 しかし、その名誉や称号の陰で、彼の心は揺れ動く―――本当にこの戦いに勝利すれば、地球に帰れるのだろうか? 自分が本当に守るべきは、何なのか?

 

 仲間たちと共に歩んだ日々の記憶が、彼の足を止めることを許さない。旅は終わりを知らない。

 国を信頼できる部下たちに託し、再び道なき道を進み始めた青年。やがて彼は、失われた命さえも蘇らせる力すらも手に入れる。

 しかしその瞬間、彼の周囲に不吉な気配が漂い始める。暗雲が覆い尽くす前兆……それは果たして新たな試練か、それとも、運命を変える決定的な破滅なのか―――。

 

 

 彼が目指す先には「神」が待ち受けているのか。それとも、全てが彼を飲み込む暗闇へと続くのか。青年の魂は、次第にその答えへと近づいていく―――!

 

 

 

 

 

 

「勇者様、なにを書いているのですか?」

 

「自伝」

 

 知名度のある人間にとって、自伝はある程度コンスタントに稼げる美味しい商売なのだ。

 芸能人とかがしょうもない自伝をよく出版しているのはそのせいだ。なんならゴーストライターが代筆している自伝(笑)も多い。

 もちろん他人の人生なんてほとんどの人は興味なく、大して売れない。

 けど、知名度があるからそれなりには必ず売れる。

 著者にもゴーストライターにも出版社にも美味しい。三方良し。じつにデリシャスである。

 

「ふっふっふ、若いうちに小銭を稼いでおいて、老後は左どころか両手うちわの隠居生活を……」

 

 宿の部屋の扉を外から乱暴に叩かれた。

 

「開けろ! カサン市警だ!」

 

 何事。

 

 

 

 

 

 

『号外 勇者 逮捕さる!?』

 

『本日未明、治安兵士によりアリアハン出身の冒険者アルス氏(22)が逮捕された。アルス氏は日頃より「俺は勇者だ」と意味不明な主張を繰り返しており、住居不法侵入、窃盗、強盗などの容疑がかけられてている模様。また、キメラの翼を繰り返し使用する素振りをするなど不審な行為が目撃されており……』

 

『ええ、あいつはいつかやると思ってました。だっておかしいじゃないですか、パーティーには何人も美しい女性がいるのにいっつもオッサンやお爺さんと絡んでるんですよ? あれ絶対ホモですって。あいつ、俺の尻をじっと見つめて……』

 

『俺は見たぜ。あいつ、街路樹の葉っぱを大量に抱えて悦に浸ってやがった。間違いない、あれはヤバい草だ。証拠にヤツの目を見な。……○チガイだぜあれは』

 

『にゃー』

 

 

 

 

 

 

 俺は治安維持組織に逮捕された。

 手錠を繋がれ連行される俺。押し寄せる野次馬。焚かれる無数のフラッシュ。

 兵士たちが野次馬を押しのけ前進し、俺は牢屋へと押し込まれる。

 勇者逮捕のニュースはカサンの町を駆け巡り、大罪人として俺は裁判を待つこととなった。

 

「し、信じてくれっ! 俺は何もしてない! 本当なんだ!」

 

 必死に弁明する俺に、兵士たちは「ちょっとそういうのは我々の管轄じゃないので」と冷めた様子で踵を返す。

 狭く暗い牢屋にて、俺は一人慟哭する。

 

「くそっ! くそっ! なんで、なんで俺がああっ!」

 

「くっくっく、無様だな勇者よ」

 

「―――誰だっ!?」

 

 鋭い視線を影に向ける。

 牢屋の奥にいたそいつは、俺をあざ笑うように口の端を吊り上げていた。

 

「魔族との戦いを強いられ、信じてきた人間に裏切られ、居場所を失った可愛そうな勇者様。なあ、どんな気分だ? 守るべき者たちに鉾先を向けられるというのは」

 

「なっ、お、お前は……!」

 

 俺は牢屋で待ち受けていた男の姿に驚愕した。

 賢者四天王の一人にして、俺とともに研究を行っていた魔族の男。

 

「アンヤ……!どうしてっ!」

 

「どうして、だと? なにを腑抜けたことを言っている? 我々は魔族と勇者なのだ、こうなることはわかりきっていたことだろう」

 

 アンヤは鋭い目つきで俺を見た。

 

「勇者よ、貴様との研究は実に実りあるものだったぞ。あとは我々がこの町から消えれば、すべての憂いは断ち切られるというものだ」

 

「……な、なんで……」

 

 俺は呆然とした様子で呟いた。

 

「なんでお前、シマシマの囚人服着てそこまでドヤってるんだ……?」

 

「……俺も捕まった」

 

 アンヤは憮然と答えた。

 彼はどうやら、この牢屋の先住民らしい。

 

 

 

 

 

 

「結論からいえば、禁忌の研究をしたことで我々は拘束されたのだ」

 

「聞いてない。死者蘇生の研究が禁忌とか聞いてない」

 

「言っていないからな」

 

 そりゃフィクションじゃ死者蘇生が禁忌なのはあるあるネタだけど、俺はそんなこと聞いていない。

 確かにちゃんと調べたってわけじゃない。けど先駆者たる研究をしていた奴がいたのだ、そいつがちゃんと調べていると思うものだ。

 いや、調べてはいたのだろう。それがアウトと知りつつ突っ走っただけで。

 

「アンヤてめえ、死者蘇生の研究が禁止されてるって知りながら黙ってたな。ほうれん草のソテーにすっぞ」

 

「やれやれ、いい大人が人のせいにして駄々をこねる気か? 見苦しい、あまりに見苦しいぞ勇者」

 

 肩を竦めるアンヤ。

 

「お前は吸血鬼らしくコウモリになったり出来るんだろ? 鉄格子の隙間から脱出すればいいじゃないか」

 

「ふん。あれを見ろ」

 

 アンヤが視線を向けた先には、細い物体が天井からぶらさがっている。

 

「ハエ取りリボンだ」

 

「ハエ取りリボンって吸血鬼脱走対策に使えるのか……」

 

「あの結界が存在する限り、俺としては脱出は困難だと言わざるを得ない」

 

「今度お前らの寝室ハエ取りリボンだらけにしてやるよ」

 

 きっと七夕のように綺麗に違いない。

 

「ジタバタしても仕方がない。ことが推移するのを待ち、今は体力の温存を図るぞ」

 

 牢屋に一つしかないベッドに寝そべるアンヤ。

 俺はアンヤをベッドから蹴り落として寝る。

 アンヤは俺に飛び蹴りを放ちベッドを再奪還。

 俺はアンヤにランドセルボンバーを炸裂させ、ベッドを再々奪還する。

 俺たちのベッドをめぐる戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 声が聞こえ、俺は意識を覚醒させる。

 目覚めゆく意識。まぶたを開くと、そこには魔法オババの顔。

 

「なにをしとるんじゃお主らは」

 

 オババが鉄柵越しに俺を呆れ顔で見ていた。

 上体を起こし、現状を確認する。

 すぐそばに、人のぬくもりがある。

 俺は隣を見た。

 アンヤが俺と添い寝していた。

 

「お主、やはりっ」

 

「なにがやはり、だ。寒いんだから仕方がないだろう」

 

 思い出してきた。

 そうだ、俺たちはベッドの争奪戦の末、現実的な判断として2人で寄り添い寝ようと結論を出したのだった。

 だって今、冬だし。2人で寄り添って温め合わないと牢屋の冷えは辛いし。

 

「むう、どうした……?」

 

 もぞもぞと寝ぼけたアンヤが俺に抱きついてくる。

 最高に気持ち悪いが、実際寒いから仕方がない。

 魔法オババの後ろにこの世の終わりのような表情のキューレがいるが、それも仕方がない。

 

「勇者よ、ついにやってしまったか。溢れ出す欲情はわしが責任を持って受け止めるといったのに……」

 

「あんたに欲情するくらいならパイプカットして俺も女の子になってやる」

 

「も?」

 

「も」

 

 ついでにアンヤもサイモンも船長も全員TSする。

 そして勇者パーティーをごきげんようごきげんようタイと根性が曲がってますわよ天国にするのだ。

 

「閉鎖された山奥の学園、なるほど同性愛がはかどるわけだ」

 

「ついでに殺人事件も捗りそうじゃのう」

 

「俺が何をしたっていうんだ。悪いのはこいつだ。というか逮捕するなら逮捕状を提示しろ。弁護士を呼べ」

 

「とはいうが勇者よ、禁忌を犯したと聞いたが」

 

 俺の灰色の頭脳がフルスロットルで回転する。

 

「さて。俺が禁忌キッズだったとして、そこで俺を逮捕する法的根拠はあるのか? この都市はたしかに自治権があるが、厳密には近隣の国家の一地方都市でしかない。法律はその国のものに準拠するはずだ。軽犯罪による罰金とかならともかく、条例レベルを根拠にしての拘束や行動の制限は違法に近いはずだ」

 

 魔法オババは露骨に面倒くさそうな顔をした。なんすか。こっちだって必死なんすよ。

 

「わしに突っかかるではない。わしはお主らを開放するために来たのじゃぞ」

 

「豚とお呼びください。あっ高いですか?まだまだ高いですか? 頭をもっと低くしたほうがいいですか?」

 

 俺は正座する。寝ぼけたアンヤが俺の膝に膝枕してきたのが最高に気持ち悪い。

 魔法オババの後ろでキューレが吐いていた。えずくとかじゃなくて、ゲロゲロと吐瀉物を吐いていた。

 

「これが勇者の姿か……? オルテガが地獄で泣いているぞ」

 

「地獄落ちした親父を勝手に殺すな」

 

「地獄落ちは否定せんのか……」

 

 まあ地下世界なんて流刑地みたいなもんだろう(偏見)。地獄みたいなもんだ。

 

「勇者よ、わしも忙しいのじゃ。とりあえず出す手続きはしておくから、おとなしくしておけ」

 

「あざーっす!」

 

 良かった、牢屋から出られる算段は立っているらしい。

 なら俺はのんびり待つとしよう。

 立ち去った魔法オババ達を見送り、俺ははた、と気づいた。

 

「待って、せめて毛布とか差し入れして! 寒いの! 心も身体も寒いの!」

 

 膝の上のアンヤが寝ぼけて抱きついてきた。どうしようコイツ。

 俺はアンヤの頭を撫でつつ、今後の展望を悲嘆に暮れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 俺が釈放できるように魔法オババが裏工作をしているらしいが、それも時間がかかる。

 別日、俺達は苦役として壺を押していた。

 

「つっ、つっ、壺、壺、おっ、おっ、押す……」

 

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「遅えぞ! 虫けら!」

 

 怒鳴る監視役。俺とアンヤ、そして他の犯罪者達はヒィヒィ言いながら壺を押す。

 なにかの運搬というわけではない。特に意味はない。

 ただひらすら、学園の裏庭にて壺を左右に行ったり来たりと移動させ続ける。

 

「せ、せめて、なにか意味のある労働をさせてくれっ……!」

 

 アンヤが自らが行う作業の意味の無さに嘆く。

 気持ちはわかる。給与がでなくとも、なにかしら人の役に立つ作業であればまだ労働意欲がわくというものだ。

 しかし壺を移動させることに意味なんてない。チーズ作りに牛乳が入ってるとかでもなく、ひたすら意味なく壺を運ばさせれる。

 これはつらい。いや、つらくなければ更生カリキュラムの意味がないのかもしれないけど。

 

「壺が線からはみでとるぅー、どっこいどっこい度胸は1000ゴールドだぁー」

 

 こういう労働の現場によくある、謎の民謡である。

 逆に肺活量を無駄使いしてしんどい気がするけど、気を紛らわすために自然発生した歌なのだろう。

 

「あれだな、もっと建設的で更生したいなって思わせるカリキュラムを導入すべきだな。これは懲罰的というか、虐待の為の虐待に終始してる。良くない。これは良くない」

 

 勉強と同じだ。子供に勉強をさせたい時は「なんで勉強しないんだ!」といって殴るより、「勉強できたら色々とメリットがあるよ! できた? 頑張ったね!」と褒めるほうが継続的に勉強するようになる。

 くっそめんどくさいのはそうだけど、これはゆとり教育で子供に甘くなったとかじゃなくて、脳科学の研究が進んだ結果こっちのほうが効率がいいって結論がでたからなのだ。

 だからといって、犯罪者に甘い対応をするのは第三者からすると面白くはない。犯罪抑止のためのアピールとして、わかりやすい苦役は有効だ。

 そのための壺押し。通りかかる人々が俺たちを見て鼻で笑ってらっしゃる。

 つらい。

 

「あああばばばばばっばあああはふっああああああんんんにゃああああっっ!」

 

 アンヤが発狂した。インテリ系イケメン吸血鬼様にこの肉体にがっつりくる系の罰はつらかったらしい。

 哀れだが同情してはいけない。こいつが原因なのだ。

 

 

 

 

 

 

 俺は寒い冬の夜を、アンヤと2人牢屋で過ごす。

 

「俺はどうして、こんな場所まで来てしまったのだろう……」

 

 鉄柵越しに月を見上げ、俺はたそがれる。

 今の俺の横顔、たぶんすっげえイケメン。

 そよそよと格子から吹き込む風で、俺の黒髪もそよそよだ。

 イケメン度が加速している。加速度的にイケメンだ。

 

「ん? どうした? トイレか? 付き添おうか?」

 

「なんでお前この数日で心の距離ガンガン詰めてくるんだよ怖いよ」

 

 なんでせっかくイケメンごっこしてるのに、見てるのがコイツだけなんだろうなぁ……。

 

「なんでもない。天体観測だ」

 

「そうか。高尚な趣味をしているな」

 

「高尚なのか、天体観測って……?」

 

 そりゃ人に趣味を聞かれた時、アニメ鑑賞とかロードバイクとか答えるよりはカッコいいと思われるかもしれないけど。

 何万光年も先の光に思いを馳せるというと様になるような気もしなくもないけど、天体観測なんて個人レベルの観測機器じゃほぼほぼ様変わりしない空のピカピカを見て拗らせてる陰キャの代名詞だぞ(超偏見)。

 空に望遠鏡向けている人に聞いてみればいい。「綺麗なものが見れてますか」って。

 ほぼ確実に「ネットで画像検索したほうが綺麗なものが見える」って言われるから。

 

「我々の間では、天体観測は好まれる趣味なのだ」

 

「我々って、魔族の間で?」

 

「そうだ。地下世界には星空がないからな」

 

 そりゃそうか。……そうなのか?

 地下世界ってのは文字通りに地下なのか? てっきり異空間的な別世界かと思っていたが。

 

「所詮は光点の配列だ。光の強弱や肉眼ではわからないほどの色味の違いなどはあるが、おおよそ白く輝く点が無数に存在するだけ。一部に惑う星もあるが、ほとんどの星が動かないものでしかない」

 

「そりゃ、簡単に星が動いたら大変だ」

 

「そうだ。何万年にも渡って星座は不変だった。だからこそ、人はそこに意味を見いだせたのだ」

 

 アンヤは俺の隣に立ち、月を見上げる。

 今日はちょうど、二つの月が鉄柵から並んで見えていた。

 

「魔族の文明は地上より進んでいる。地上の人間は星の並びに神話を見出しているようだが、我々にとってこれは、なんというか、ふむ……無教養な蛮人になんて伝えればいいかわからんな」

 

 アンヤが失礼な方向に困っている。

 

「舐めるなよ地底人。人間だってバカにしたもんじゃないぞ。星の光の一つ一つが距離があるってだけで太陽と同じものだってことも知ってるし、その太陽だって自らの重力と熱量で別の物質に変質し続けている炉心だと理解している。神? 夜空にそんなの求めてるわけないだろ」

 

 地球知識で魔族知識に対抗する。せこい? 知らんな。

 

「ほう、地上の人間も馬鹿にできたものではないな。学術都市というこの町でも、物質がエネルギーに変換されるという理論は解き明かされていなかったはずだが」

 

「アリアハンの学者は優秀なのだ」

 

 ごめん適当言ってる。アリアハンの学者諸君には風評に負けないように頑張ってほしい所存です。

 

「ではあの月についても知っているか? 星に触れて日の浅い地下世界の天文学者達は、星の光よりあの月の奇妙さに首ったけだ」

 

「月?」

 

「ああ。重力を計算した者によれば、ほぼ同質量の巨大な月が、一つの星の周りを回るのは難しいそうだ。故に、学者たちはあの月が魔法の産物ではないかと考えている」

 

 俺は空を見た。少しサイズが異なる2つの月は、先程より少し位置関係が変わっているようにも思える。

 

「魔法、ってのは、あれが幻覚とかそういう話か?」

 

「どうだろうな。どちらも無限遠の距離だからこそわかりにくいが、どうにもだいぶ距離が違うのではないか、とは言われている」

 

 アルビレオという星(わかりやすくいうとはくちょう座の頭の部分)は、とても近くに寄り添った2つの星からなるが実は前後にかなり距離が開いていると言われている。それと同じような話だ。

 人間からすると距離感がバグっている宇宙ヤバイの世界では、莫大な距離の違いもパッと見よくわからない。

 

「ましてあの月は時間帯によって形を変える。三日月のように光の加減で形が変わっているわけではない、欠けた部分に背景の星空が見えるのだからはっきりと形状が変化しているのだ」

 

「え、なにそれ怖い」

 

 つまりなんだ、目の前の満月はうねうねと形が変わっているのか。

 よくよく考えるとほぼいつも満月のような気もするし。え、なんか怖くなってきた。

 

「実は魔界とか、いや天界とかだったりして」

 

「異世界だというのか? その発想はどこからでてきた?」

 

 どこからといえば、原作知識からだ。リメイク版。

 ドラクエ3のリメイクに天空城がでてきたのは、4,5,6の天空シリーズからの逆輸入なのだろうか。

 正直、ドラクエ3の天空城は唐突感がヤバい。その天辺に神竜がいるのは、まあドラゴン打倒クエストゲームという根底に立ち返っているといえるかもしれないけど。

 

「ほら見ろ、月から兎耳の美女の天界人が来たぞ」

 

「天界人というのは兎耳なのか?」

 

「俺はそう信じてる」

 

「願望ではないか」

 

 月の光の中に影が浮かぶ。それが徐々に大きくなってきた。

 え、本当になんか来た? 地下から侵攻されてるのに、更に空からも厄介ネタがくるの?

 

「おいアンヤ! なんか近づいてきてる!」

 

「勇者よ、地上を守ることこそ貴様の使命だ」

 

「チクショー! 俺もお前らみたいに責任投げ出して好き勝手生きたい!」

 

 ニヤニヤと笑うアンヤ。

 俺はあわあわと慌てて取り替えず髪を整える。

 武器も防具も没収されているので、とりあえず何者かを出迎えるために身嗜みを整えたのだ。

 ただテンパってるだけである。

 ごうんごうん、みたいな効果音とともに近づいてくるなにか。

 それはやがて明確なシルエットとして浮かび上がり、ついにはその姿を顕にした。

 

「こ、これは、まさか」

 

 声が震える。俺は、それが何かを知っていた。

 巨大な気嚢。回転するプロペラ。木造の船体。

 知っている。というか、俺はこれに乗ってこの町に来たのだ。

 

「おーい! 勇者、迎えにきたぞーっ!」

 

 エイダちゃんの声が轟く。地上からの光の跳ね返りか、ついにその姿がはっきり見えた。

 それは、巨大な飛空艇だった。飛行船というべきか、とにかく軽航空機の部類の乗り物だ。

 いささかファンタジー的な世界観に偏重しているが、それはまさにアリア号であった。

 飛び降りてきた女性、というかルナリアが、牢屋の壁を蹴破って飛び込んでくる。

 

「勇者様、詳しい説明はあとです。行きましょう」

 

「……わかった。行こう」

 

 言いたいことはいくらでもある。しかし、今は仲間を信じて行動するだけだ。

 俺とアンヤは頷きあい、蹴破られた壁から飛び出して船に飛び乗る。

 反転上昇し、離脱するアリア号。

 

「くっくっく、はははっ! 我が炎の力よ、疑神の兵となり天空の覇道を往くのだ―――!」

 

 なんか中二病の老人が叫んでいるが、まあ気にしない。

 いや気になる。なんでこの人ここにいるの。

 まあ詳しい話はさておいて、俺は自らを見る仲間たちに視線を向ける。

 そして、一言いうのだ。

 

「なにやってんのあんたら。どうすんのこれ」

 

 勇者(と魔族)、脱獄したってよ。

 

 

 




Q 華奢な女性が石壁を蹴り破るのは不自然では?
A ドラクエ4に類似したイベントが存在します。
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