気がつけば長くなってしまったカサン編、ようやく終わりです。
「なにをしとるんじゃお主らはああっ!」
オババが箒に乗って飛空艇を追いかけてきた。
激怒している。とってもオコオコエクストリームだ。
俺、バクダ、アンヤの男子集団は展望デッキから魔法オババを見ていた。
「見ろよ、あれがカサン名物フライングババアだぜ」
「UMAかよ」
必死に飛空艇をおいすがる魔法オババを見て、俺たちは朗らかに笑う。
ちなみにUMAとはツチノコとかネッシーとかお前らの嫁とか、存在が確定していない生物の総称だ。
「こっちは機械と魔法のあわせ出汁でなんとか浮いてるっていうのによ、箒なんかで気軽に飛びやがって」
「飛行船を箒で追うなんて、まるでデッキブラシで駆けつけた見習い魔女だな。墜落フラグはやめてほしいもんだ」
どうせ聞こえていまいと言いたい放題の男子陣。
ここに女子がいたら「ちょっと男子ぃー!」と吊し上げを食らってノーロープバンジージャンプのデスゲーム開催まったなしだ。
このオババがもし見習い魔女だったら船を止めて話を聞こうって気分にもなれるんだが、あいにく彼女はババアなので来世に期待。
……と思ったらオババは飛行船のゴンドラ部分をガンガンと蹴り始めた。
「足グセの悪いババアだぜ」
「お前のモノローグ内での口の悪さも大概だがな」
「しかしどうするのだ? このまま振り切るのか?」
アンヤに訊ねられ、ため息をついてうなだれる。
「無視するわけにもいかんだろ。大人なんだ、ちゃんと怒られよう」
「貴様が大人かはわからんが、大人たらんとする姿勢は嫌いではないぞ」
「そりゃどうも」
アンヤになぜか好感を抱かれていた。
叱られた時にちゃんとごめんなさいできるのが大人だ、というのは人間でも魔族でも共通認識らしい。
「まあ、世の中は偉い奴ほど謝らないものだがな」
「世知辛いオチを付けるなよ……」
世間でいう大人であるほど出世できないというのなら、それはとんだパラドックスだ。
しかし冷静に考えてみれば、案外シンプルな理屈なのかもしれない。
ごめんなさいしたら責任を問われて出世が遅れる。世の中見苦しい奴が利益を得るようにできている。
いつだって出世するのはガキみたいな駄目大人なのである。
「……このまま逃げようかなあ」
「敬虔な大人であるより見苦しいガキであることを選ぶのか?」
「プライド捨てて実利を求めるのも大人の一面じゃないか?」
「実利を求めるなど子供でもできる。世間に折り合いをつけられるのが大人なのだ」
ごもっとも。
「おーい、船長! 船をどこかに着地させてくれー」
「がはははっ! やれるだけやってみるぜえええっ!」
船長はハイテンションで転輪にしがみついていた。
……ひょっとして、今この船は制御不能の暴走状態に陥っているのだろうか。
名もなき草原に着陸、というか不時着したアリア号。
残念ながら飛空艇アリア号は、蒸気船アリア号に戻ってしまった。
バクダ(真名を焔と謂う)は気むずかしげに煙を上げるアリア号を見上げる。
「くっ、やはり早すぎたか……」
なんか新兵器を投入した博士みたいなこと言ってる。
「土台無理とは理解していたが、やはり安定しなかったな」
「無理と知りつつ飛んだのか……」
航空機の開発というのは徹底した安全管理の元で行われる。落ちたら誰かが死ぬ、だからこそ墜落の可能性を徹底的に潰した上で挑むものだ。
航空機の設計を感覚で行うことが許されるのはサミュエル・ラングレーまでだよねー! キモーイ!
「結局アンタは何をしたんだ、まだ飛行船は実用化できないんじゃなかったのか?」
「ああ、まともな方法では不可能だ。だがこの船を改造するのならば可能性はあると考えた」
その内容はともかくとして、まずパーティーリーダーたる俺の許可なしに改造しないで欲しい。
「この船はもとは砂船、陸上船なのだろう? それ故にかなりの軽量化が計られている」
それはその通りだ。
仮に大型船にそのまま車輪をつけたところで、接地圧が高すぎてそのままでは地面に車輪が埋まってろくに走れたものではない。
地球でいえばバケットホイールエクスカベーターがキャタピラなのもそれが理由だ。
ゆえに、この船はイカサマ的な方法までもをフル活用して軽量化を行っている。
蒸気船に必要不可欠な水や、その他貨物、果ては航行中に必要ない構造材までもを徹底的に「魔法の袋」に放り込んでいるのだ。
船体構造をユニット化して、状況に応じて組み替えることで無駄な装置がデットウェイトになることを防いでいる。
「だから、この船の『有人区画』そのものは見た目に反して小さく軽い。それこそ、飛行船のゴンドラとして使えるほどに」
結局やっぱり使えなかったわけだけど。
しかしこの様子だと、バクダ(真名を焔と謂う)は前々からアリア号を飛行船に改造することを画策していたらしい。
だから所有者に許可を取れと。
「だがしかし、この船の動力はチンケで出来の悪い蒸気機関。やはり飛行船に使うには重すぎたのだ」
「わかってたんならやるなよ」
「仕方があるまい、お前の仲間が強く訴えてきたのだ。お前を救出して、一刻も早く旅に出たいと」
俺は思わず仲間たちの顔を見渡した。
おいおい、俺のことが大好きな奴がこの中にいるらしいぜ。
ルナリアかな? ルナリアだな?
「んだよ、なんか文句あんのかよっ」
エイダちゃんだった。
エイダちゃんかあ……。
「どうしてまた、エイダちゃん的に俺がそこまで重要ってわけでもないだろうに」
「いや重要だっての。お前がちゃんと魔王を倒せないと、私の親父が出所できねえんだよ」
そういえばそんな話だったな。忘れてた。
「もちろん忘れてないぞ。お前の願いは俺の願いだ。なあ親友」
エイダちゃんがジト目で見てくる。その意図はさておいて、傍目には美少女に見つめられているみたいで悪い気はしない。
いや、傍目も何も、今やエイダちゃんは肉体的にも公式美少女なわけだけど。
しかし昨今、肉体的に美少女でも内面云々で色々とデリケートなのだ。ここでもしエイダちゃんに手を出したら、海外発祥の色々と香ばしい連中に粘着されてしまう。
ここは異世界だからと油断してはならない。やつらはファンタジー世界でも平然と地球の常識を持ち込んでくる。
リメイク作で女性キャラの露出度が下げたれたりなど影響は様々だ。きっとドラクエ3がリメイクされたりしたら、女戦士あたりのデザインがあからさまにリデザインされるに違いない。
まあ、いまさらドラクエ3がリメイクされることなんてさすがにないだろうけど。(アルス君がこの世界に転生したのは2023年10月、HDリメイク発表はその8ヶ月後)
「お前の首を魔王とやらに差し出せば、アリアハン攻め落としたあとの親父の助命を願えねえかなぁ」
深々とため息をつくエイダちゃん。
エイダちゃんよ、それ当人の前で検討しないでください。
クレバーすぎるぜエイダちゃん。それでこそ我が親友だ。
ドラゴンがお姫様を拉致するイベントが発生しそうになった暁には、是非エイダちゃんを拉致させてみよう。
大丈夫、奴は姫を食らうこともなく門番に徹していたクールガイだ。実直に仕事に打ち込める背中に憧れる。
ぽかりと後頭部を殴られた。
「なんすか魔法オババ女史」
「いい加減目をそらすな、わしの説教を聞かんかい」
「麗しい女性の言葉なら万でも億でも聞きましょう」
俺は地面に正座した。
勇者たるもの、地べたに這いつくばるなど造作もないのだ。
魔法オババが手を叩くと、そそくさと船員Cが椅子を運んできた。
それに座るオババ。正座する俺。
やばいぞこれは。長期戦の構えだ。数時間とかそういうレベルで説教するつもりだ。
「さて、まずお主は……」
オババの説教を止めることは難しい。俺は逆転の発想に至った。
「アストロン」
小声で魔法を唱えて、俺の意識は数時間後に飛んだ。魔法コールドスリープだ。
ぱちりと目が覚めると、依然としてオババが椅子に座って本を読んでいた。
「おや、目が覚めたかい? それじゃあお説教再開だよ」
アストロン役に立たねえ。
数十分後、説教を受けている途中、俺はふと気が付いた。
「なあオババ、この件で説教されるべきはエイダちゃんやバクダ(真名を焔と謂う)じゃないのか? 俺はちゃんと真面目に牢獄で壺を押してたんだぞ」
「まあ、そうかもしれんの」
おや、同意を引き出せるかもしれないぞ?
「まあ、別に現状維持でいいかの」
おや、駄目っぽかったぞ?
別にいいやレベルの説教なら、いっそ俺への説教も別によくないですかね。
「まあ、お主がリーダーなんじゃし別に説教相手もお主でいいじゃろうの」
おや、それを言われたら反論できない。
社会には悪事の根幹はさておいて、それとは別に『怒られる係』という闇深い立ち位置がいるのだ。
それが相応の責任を背負う立場であればいいのだけど、広報担当みたいな人にとりあえずで頭を下げさせていると、それはそれで批判されるのが昨今のトレンド。
女子アナが謝罪すれば済む時代ではない。
じゃあ本当の悪党が糾弾されるかといえば、そんなことはないのだけど。
俺がリーダーだと言われれば仕方がないのだ。俺がちゃんと説教を受けよう。
ただし、こうなったら玉突き事故のように俺からエイダちゃんとバクダ(真名を焔と謂う)に説教をかましてやる。
注意事項や叱責が上から下へ連鎖していくのは社会の常なのだ。
もう面倒くさいから全体ミーティングみたいな場でまとめて怒ってくれませんかね。
説教の伝言ゲームとか、絶対国内総生産に寄与してない。
「どのみちお主らの船を修理するのに数日かかるそうじゃし、わしはその間のんびりと説教させてもらうとするかのう」
「説教をライフワークにするなよ老害」
ほっほっほ、と笑う魔法オババ。
笑って済ますあたりがマジ老害だぜ。
SEKKYOUとはネット上のSSでかつて使われていたスラングです。
ひょっとしたら今でも現役なのかもしれませんが、あんまり見かけなくなった気がします。
つまり死語。あの頃はSIROUとかSINZIとかあったなぁ…