数日かけて、アリア号の修理が完了した。
一度船体を分解して、パーツを容量無限の魔法の袋に詰め込んでの徒歩での移動。
そこから一番近い大型河川に乗り入れ、水上船モードでの再構築である。
「どの形態だとしても、結局は半端な性能だなあ」
エイダちゃんがテキパキと船の組み換えの指揮をしていた。
この船を見て実質数ヶ月だというのに、元気なことである。
「他の形態で使う部分を外したりして、性能低下しないように工夫したつもりではあったんだ」
「機関部とかも全部分解できる構造だからよ、もともと技術不足だっていうのに、更にあんま大型化できないってせいで根本的に出力不足なんだよ」
相変わらず専門教育を受けたわけでもないのに、妙に技術に強い男の娘である。
彼……彼女? の言う通り、本来の船の動力というのは船体に比して大きいものだ。
現代地球の船舶用ディーゼルエンジンなんてとんでもなく大きい。ものによっては一軒家より大きい。
軍艦とかに採用されるガスタービン(つまるところジェットエンジン)という例外もあるけど。
アリア号は冶金技術に特別優れているわけでもないイシスで製造されたもの。主機もまたイシス製であり、不出来な原始的な蒸気機関でしかない。
シリンダーが一つ、巨大なシーソーのような金属パーツが上下する見るからにシンプルな構造だ。
以前計算したところ、たしか出力は数十馬力くらいだったと思う。
そんなので大人数が乗り込んでいる船を動かしているのだ、馬鹿げているにもほどがある。
そんなエンジンで巨大な船が動くのかと不思議に思うかもしれないが、どれだけ非力な動力源であっても、減速機で回転数を落としていけば乗り物は動くのだ。
ただし陸上走行はくっそ遅い。なんなら風の力で走る古来の砂船よりもっと遅い。
「やっぱりガソリンエンジンがほしいところだ」
バクダ(真名を焔と謂う)が唸る。
彼の研究対象であるガソリンエンジン、なるほど確かにそう考えると欲しくなってきたかもしれない。
「作るしかない。やっぱり、ガソリンエンジンを」
「つっても、どこで、どうやって」
俺は訊ねる。この中世極まりない時代において、どこもガソリンエンジンなんて作れない。
カサンなら作れるかもしれないけど、こうして逃げ出してしまったからには戻れはしないわけで。
「一つアテはあるのだ。特別技術が優れているというわけではないが、特殊な刀剣の製造技術により、一部冶金技術においてはカサンに勝る地を」
「どこだよ」
バクダ(真名を焔と謂う)はにやりと笑んで答えた。
「ジパングだ。あそこはろくな鉄が取れないからこそ、最強の鋼を作り上げた。ジパングであれば、必要なガソリンエンジンを作れるはずだ」
バクダ(真名を焔と謂う)はそう、断言した。
作れねーよ。
と言いたいところだが、一概にそうとも言い切れない。
かつて刀鍛冶は日本刀の応用で火縄銃を作り上げた。精密な冶金技術を個人の職人技である程度模倣することは、可能不可能で論じれば可能だ。
もちろんとても手間と時間がかかる上、正式な加工機械による製造精度には及ばない。
個体差が大きくて品質もバラバラなので、大量生産にも向いていない。
だが、それでもワンオフならなんとかなる……のかもしれない。
馬鹿げていると思うかもしれないが、実際、個人でエンジンを設計から自作する奴というのはたまにいるのだ。
もちろんその多くは量産品より低性能であるが、たまに一点特化にすることで量産品を超える性能を有することもある。
話が迷走しているけど、とにかく、職人芸でエンジンを作ること自体は可能なのだ。
「まあジパングに行くのは構わないさ。米も尽きてるし」
卑弥呼にお米を貰いに行こう。いざジパング。
カサンで冬を超す予定だったけど、今は1月。冬のど真ん中で旅を再開することになってしまった。
魔法オババは寒さに耐えかねてカサンに帰った。なにしに来たんだあの人は。
そしてバクダ(真名を焔と謂う)はなぜか船に残っている。なにしに来たんだこの人は。
主機とは船のエンジンのことです。