なかなか準備不足の旅ということもあり、久々にサバイバルな感じの旅路となった。
船の中で焚き火を常に燃やして、その周囲で男女入り混じって生活するという強行軍。
アリア号には真冬の旅に対応する準備がなく、とにかく火を維持するしかなかったのだ。
木造船の中で焚き火を燃やすというのはなかなかに恐ろしいが、船長曰くそういう手法はちゃんと昔からあるらしい。
土を木板の床に敷いて、断熱材にするのだ。
火を燃やしていると熱に耐えかねて越冬中の虫がにょろにょろ出てくることを除けば、おおよそ問題のない焚き火であった。
着替えなどもなんとか覆いを作り、男女で分かれてうまいことやった。
エイダちゃんの扱いについては特段問題にならなかった。男側も女側も彼女の存在を気にしなかった。
というか、どうにも女性陣は彼の聖剣がロストする以前から、別に彼を男扱いしていなかった気がする。
ひどいお姉さまがたである。
……そして、1ヶ月ほど河川を下り、大陸から脱出。
日本海を渡り、俺たちはジパングに到着した。
時は2月。なんたって、一番寒い時期に水の上を旅してきたんだろうね俺たちは。
「急に大人数でおしかけて来おって、常識のない勇者じゃ」
「ご厄介になります」
俺たちは卑弥呼の居城をジパングでの宿にしていた。
ここに住み着けば毎日白米を食べ放題だ。しかも宿賃がかからない。
……いやそこまでセコい理由で客人やってるわけじゃないけど。
「こういう時は事前に一報を入れて、手土産を持ってくるものじゃろうに」
「電話もないのにどうやって一報入れるんだよ。それと手土産は持ってきたぞ、ほら、カサン土産のチョコ菓子だ」
「なんでこういうお土産ってチョコなんじゃろうな」
確かに、世界中どこでもお土産の菓子としてチョコがある気がする。
カカオって暑い場所でしか育たないから、この菓子のチョコも少なくともカサン産ではないだろう。
いくつかチョコを取り出して一気に口に放り込む卑弥呼。もうちょっと味わって食べてほしい。
「さて、お土産を食べた卑弥呼ちゃんに頼みがあるんだけど」
「なんじゃ、いやらしい言い方をしおって。体か? わしの瑞々しい乙女の体が目的か? ふん、ケダモノめ」
「いくら美人でも、変温動物はちょっと……」
「ドラゴン族は恒温動物じゃ!」
ぷんすかと俺の手を握ってくる卑弥呼。たしかに手は温かい。
ところでケダモノとケモノの違いってなんだろう? 漢字では同じ獣だけど。
ケダモノのような男、と言われれば蔑称だけど、ケモノのような男、と言われればちょっと嬉しい。
「ドラゴンが卵生なのか哺乳類なのかはさておいて、とにかく頼み事だ」
「なんじゃ、米か? ちゃんと用意しておるぞ?」
「米も欲しいんだけど、オーブくれ」
ぎょっとする卑弥呼。やっぱり持ってるらしい。
「お、オーブじゃと? なんのことじゃろうなあ?」
「いやすっとぼけられても……ひょっとしてお前としても大切なものなのか?」
オーブとはゲーム中のキーアイテムだ。世界中に散らばるこれを6つ全て集めることで、主人公は魔王に挑む資格を得る。
その所在の内訳は様々で、ノーリスクで行くだけで手に入る場所もあれば、魔王城の麓に安置されているものもある。入手難易度の差はかなり大きい。
その中で卑弥呼が所有しているオーブの入手何度は、まあまあそれなり、だ。
卑弥呼に殴り込みをかけて挑むことは、ゲーム中盤からいつでもできる。
ただ、卑弥呼がボスとしてシンプルに強い。
挑めるフラグが立ったからといって、安直に挑んだらまず負ける。
だから、普通にゲームプレイしていればジパングのオーブ入手は数個目となるのが自然な流れだろう。
もっと簡単に入手できるオーブもある。だが、こちとらレベルマックスなのだ。
「さくっとお前を倒して入手する方が手っ取り早い」
「……わしら、友達じゃよな?」
怯えた様子の卑弥呼。
友達とはまっこと便利な言葉である。
「友のために死んでくれ」
「待て待て、我らは友。我らは文明人。争いなどせず、まずは話し合いをすべきじゃ」
卑弥呼はしばし悩み、説明してくれた。
「ドラゴン族の魔族であるわしは、基本大食いじゃ。お主もたくさん食べるわしが好きじゃろ?」
「知らん」
「じゃがジパングのような辺鄙でチンケなクソ田舎アイランドでは、わしの腹を満たすほどの食事は用意できん。それに城にそれほど大量の食料を持ち込んでは、わしがヤマタノオロチだとバレてしまう」
それはあると思う。イシスの王様家業で学んだのだが、世の中の奴は世間が思うよりずっと金の動きに注目している。
ただの数字の羅列から、この世界の全てを見ている奴がいるのだ。
だから、きっと食料の買い付けからヤマタノオロチに気付く奴はきっと出てくる。
というか、ジパング中の領主の中では、きっと気づいている奴はいる。
「そこでわしはオーブを活用しておるのじゃ。あのオーブの魔力ならば、わしが大食いせずとも力を保つことができる」
「え、お前って人間の踊り食いやってねえの?」
「え、お主はわしのことなんじゃと思ってたんじゃ?」
てっきり原作ゲームの通り、人間に生贄を差し出させて日替わりランチしているのかと。
若い娘を差し出させて、「今日はこの娘を食べちゃおう(物理)」とかやってると思ってた。
「とかいって裏では食べてるんだろ? やっぱ男より若い娘のほうが美味いのか? ん?」
「食っとらんわ! 怖いじゃろ!」
「でも『子羊のソテー』とかあるし、やっぱ若い方が美味しいんじゃないか? からあげも『若鶏の〜』とか言うし」
「人間の畜産を見ると、ドラゴンより人間のほうが恐ろしいと思う時があるのう」
どうにも本当に食べていないらしい。
これでは人間の立つ瀬がない。魔族は人間より邪悪でなければならないのだ。
俺の考え方こそが邪悪? はい。
「とにかく。オーブを失ってはわしは飢える。それこそ生贄を民に要求せねばならなくなるのじゃ。そんなわしからオーブを奪うのかえ? わしに死ねと?」
「生贄で我慢すればいいじゃん」
「おい勇者っ」
「まあ冗談として。1日だけ、オーブを貸してくれ。絶対に返すから。倍にして返すから」
「倍にせんでも良いが……しかしのう。うーむ……」
悩む卑弥呼。
オーブだって増殖技で増やしてしまえばいいのだから、そもそも問題なんてないのだ。
しかしすぐ返還すると言っても悩む卑弥呼。まあそれはそうだろう。
返還を確約したところで、生命線である貴重品を渡してくれなんて言われても納得する奴はいない。
「……よかろう。いいじゃろう、貸してやる」
「おっ。マジか、ありがたい」
「ただし!」
卑弥呼は俺をビシッと指差す。
「ここらでいい加減、はっきりさせるべきなのじゃろうな。勇者よ、わしと戦うのじゃ! 一騎打ちをするぞ!」
俺は卑弥呼の人差し指の先に、自分の指先をちょんと合わせた。
E・T。
「お主が勝てば、わしはオーブを貸し出した上に、お主の夫になってやろう!」
E・Tしていた手をガシッと掴まれた。
恋人繋ぎである。
なんすか。指先チョンっとするのは常識の範疇でも、恋人繋ぎはさすがに非常識じゃないっすか。
「ごめん、変温動物はちょっと……」
「だから、ドラゴンは恒温動物じゃ!」
……うん? 夫?
なんか変なことを聞いた気がするが、気のせいだろう。
俺はこいつと夫婦になるつもりはないし、どうでもいいや。
「いいだろう。その一騎打ち、受けて立とう」
絡めた指をニギニギする。
こうして俺は、卑弥呼―――ヤマタノオロチとの一騎打ちに挑むこととなった。
なにが生誕祭かというと、作者が誕生日だからです。作品とは関係ありません。
ハッピバースデー俺
ハッピバースデー俺
ハッピバースデーディア俺