私の環境でプレイできるのはスチームだけですけど、どうしよっかなぁー……
空をバッサバッサと飛ぶヤマタノオロチ。
彼女が降り立った山に入ると、そこにはこれみよがしに洞窟の入口があった。
「うーん、入りたくない」
洞窟探検家という職業があることからもわかるとおり、洞窟とは魔物がいなくとも十二分に危険な場所だ。
原作ゲームや目の前の様子を見る限り、ここは火山によって形成された洞窟っぽい。
つまり、溶岩が吹き出したり、冷えて固まったりなんだったりで出来た地下空洞。
動的に近年、近くてもおそらく数百年以内に形成されただけあって構造そのものに強度の不安がある。
何万年も地下で眠り続けた鍾乳洞とは違うのだ。
火山だけあって毒ガスのリスクもある。入るだけで死ぬかもしれない。
もし崩壊したら、たぶんレベルマックス勇者でも死ぬ。
「窒息死にレベルは関係しないだろうしな」
ひょっとして魔王や神様も窒息死するんだろうか。
いや、あらゆる生物が呼吸を必要とするというのは間違った知識だ。一部の微生物などは酸素を必要としない。
本当に例外中の例外として、多細胞生物にすら酸素を必要としない生物はいる。
「よくよく考えれば、精霊とかそういう存在がミトコンドリア持ってるとは思えないなあ」
俺の最終目標ともいうべき神竜を燃料気化爆弾で無酸素状態にして倒せれば楽なんだけど、そうもいかないだろう。
バカなこと考えてないで、洞窟に入るとするか。
きっと、ここは溶岩が流れた血管のようなものなのだろう。
地中を縦横無尽に蛇のように伸びるトンネル。それはまさに管のように入り組み、分岐し、合流して、まさに天然の迷路となっていた。
「やっべ、もうどっちがどっちかわからねえ……」
光源に小さくメラを出しつつ、俺は狭い洞窟を歩いていた。
原作ゲームだと卑弥呼との戦いは広い地下空洞のようなダンジョンで、ぱっと見、あまり入り組んでいるという印象はない。
しかし実際に挑んでみると、行けると思っても溶岩が満ちていて通れない場所も多く、思った以上に入り組んでいる難ダンジョンだった。。
現実となったこの世界においても、やはりここは難所だ。
そもそも、俺が今挑んでいるこの洞窟に正解ルートなんてあるのだろうか。
卑弥呼は空を飛んで山の山頂あたりまで飛んでいった。あそこらへんに別の出入り口があるのだろう。
てっきり原作ゲーム知識のせいで別の出入り口があると考えてしまったが、俺が入った穴が山の上につながっている保証なんてない。
というか、俺も卑弥呼にならって山の外側を登山すべきだったのではなかろうか。
「ここがフジヤマに相当する山だとすると、標高は3700メートルくらいか? いやでも登山ルートの高低差と標高は別物だし……」
ここがジャパニーズフジヤーマだとすると、たぶん登山ルートはある。時代を問わず神聖な場所とされてきたフジヤマであるが、いつだってそこに山があるからと登ろうとする奴はいた。
まあ、すでに洞窟に潜ってしまっている以上、今更引き返すことなんてできないのだけど。
「なにより暑い。いや、熱い。真冬だぞチクショウ」
なんでこう、極端から極端になるのか。
いい感じに中和されて快適な気温になってくれたりしないのだろうか。
そもそも有機生命体の生存に適した温度帯が狭すぎるのだ。宇宙規模で見れば絶対零度から数千度まで幅広い温度帯が存在しているのに、その中でセ氏20度から30度くらいの間でなければ快適に生存できないなんて脆すぎる。
ちょっと油断すると全身の細胞のタンパク質が茹で上がってしまう、有機物とはあまりに脆い生物なのだ。
「うわっ」
しばらく歩いていると、メラの明かりの中に死体を見つけた。
随分と昔に迷い込んだのであろう、白骨死体だ。
朽ち果てた装備品。どこか武者っぽいのがホラーだけど、気になるのが頭部の装備。
「知ってるぞこれ、般若の面だ」
俺だってドラクエ3の装備を全て暗記しているわけじゃないけど、これは有名だから知っている。
般若の面。極めて高い防御性能と引き換えに、混乱状態に陥る装備品だったはず。
うまく活用すれば便利なアイテムだけど、残念ながらそこまで知識があるわけじゃない。一人旅プレイだと使いみちがあるんだっけ。
とりあえず死体から剥ぎ取って、袋に入れておく。エイダちゃんの防御に不安があるから、彼に装着させて旅させるのもいいかもしれない。
混乱するけど。
「…………。」
デメリットと引き換えに、圧倒的な性能を有する装備。
ロマンじゃん。超ロマンじゃん。
現実となったこの世界、ゲームではできなかった行動も色々とできる。
なんとかトンチな方法で活用できないないもんかな。敵に無理やり装備させるとか、船に装備させて最強の装甲船にするとか。
「おっ」
そしてついに洞窟の最奥、開けた溶岩地底湖というべき地獄絵図の先に。
5つ首のドラゴンが、そこにいた。
「よく来たな、勇者よ―――!」
「来たぜ、卑弥呼! いや、ヤマタノオロチ! ……ところでお前にプレゼントだ。これ付けてみない?」
「いやです……」
丁寧語で拒否された。
「どう見ても呪われた仮面じゃろうが」
「いいだろ、頭が5つもあるんだし。一つくらい狂ってもいいだろ」
「いやです……」
どうしてもいやらしい。般若の面、活用失敗。
「じゃあ死ねやあああっ!」
「お主の情緒どうなっとるんじゃ!?」
こうして俺とヤマタノオロチの戦いが始まった。