「天に眠りし雷霆の響きよ、三千世界を切り裂き奔れ! ギガデインッ!!」
開幕で最強の魔法をぶっぱなす。
多くの子供達が特撮を見ていて思っただろう、最初からスペシウム光線を使え、最初からライダーキックを使え、と。
盛り上がりなんて考慮しない。開幕最大火力は常に正義なのだ。
「ふんぬううっ!」
ヤマタノオロチは巨体だ。見た目の割に機敏だが、だからといって広範囲への魔法を避けきれるほどじゃない。
彼女は真正面からギガデインを受け止め、見事に耐えきってみせる。
さすがにシンプルに図体がでかいだけあって、単純にしぶとい。
そのまま反撃といわんばかりに、ヤマタノオロチは炎を吐いてくる。
不自然な体勢からの火炎放射だったから狙いは甘かったが、それでも全体攻撃の火炎は地下空間を埋め尽くしてしまった。
「おおおっ! あっちい!」
俺は炎にまかれつつも、ヤマタノオロチに突進する。
下手に逃げ回っても仕方がないという判断だ。
「裁きの雷よ、我に従い轟け―――ギガデイン!」
「またそれか! なんか呪文変わっとるし!」
ほとばしる雷。ギガデインの直撃を受けて、ヤマタノオロチは流石にのけぞった。
しかしやはり仕留めきれない。タフなやつだ。
「雷神の息吹を我が声に、閃光よ貫け! ギガデイーンッ!」
「ふんぬうううっ! しつこぉぉい! バカのひとつ覚えで魔法使いおってっ!!」
「文言の残弾尽きし我に、中2の心くすぐりし雷の詠唱よ来い! ギガデインっ!」
「ぐおおおおっ! ワンパターンやめろおおっ!!」
「もうなんでもいいからカモンカモン! ギガデイン!」
何発も魔法を打ち込むと、さすがに効いてきたらしい。ヤマタノオロチも若干ふらふらとしている。
だが俺の方も限界だった。露骨に魔力が目減りしていて、このままでは戦いに支障がでる。
「……ふん、10万ボルトはここまでにしておいてやる」
「そんな魔法名じゃったか?」
俺は武器での攻撃に切り替えることにした。
「いくぜ、聖剣竜王殺斬!」
「ぬおっ!?」
ヤマタノオロチが困惑しつつ身を捩る。
なぜなら、聖剣とかいいつつ俺が振るったのが鞭だからだ。
「な、なんで鞭なんじゃ!? もっと勇者っぽい武器あったじゃろ!?」
「これしか手持ちになかった!」
「ひどい理由じゃ!」
俺は執拗に鞭をふるってヤマタノオロチを打ち据える。
「あひいいいんっ! らめえええっ!」
「変な声を出すな! 真面目にやれ!」
「こっ、このっ、くらえええっ!」
仕切り直したいのだろう、ヤマタノオロチは炎を吹いて周囲一体を火の海にする。
「あっ、熱い! 洞窟の中で範囲攻撃しやがって!」
逃げ場がない場所で炎はずるい。若干呼吸が苦しいのは、炎による酸欠だろうか。
「あひいっ! あちゅいっ、おらっ、鞭攻撃じゃー!」
「あひっい! こんのっ、そりゃあ、炎攻撃じゃー!」
お互いにひらすらダメージを与えるべく攻撃を続ける。
いかん、泥仕合になってきた。
とはいえこちらの分が悪い。なにせヤマタノオロチの攻撃力は高い上、首が5つもあるせいで行動のスパンが速い。レベルマックスで駆け回る俺より実質的に速いのだ。
俺が1度剣を振るうたび、やつは2回は炎を吐いてくる。
それでも負けじと体力を削り合っていると、ふとヤマタノオロチの動きがとまった。
「タンマ」
「なんだよ」
「このままだと洞窟が崩れそうじゃ。いったん外に出んか?」
そう言われては仕方がない。俺がヤマタノオロチの背中に飛び乗ると、彼女は飛び上がって火山高から外に出た。
飛行船によるものとはまるで異質な、翼によって空に飛び上がる速度感。
内蔵が浮き上がるような生理的違和感に、俺はふと訊ねてみる。
「まさかお前がラーミアってオチじゃないよな?」
「誰じゃそれは。わしとのデートで他の女の名前を出すものではないぞ」
ラーミアって女性名なんだろうか。
作中でラーミアのオスメスの言及はなかったと思うけど、あの頭の飾り羽からしてオスっぽい気はする。
「うむ、この辺で再戦といくか」
適当な場所に降り立つヤマタノオロチ。
俺はベホマを唱えてから、彼女の背から飛び降りて地面に降りたった。
「おい、今ずるいことしなかったか?」
「なにがずるいんだ、戦いの前に魔法で回復するのは当然のことだろう」
「今まで削った体力を回復魔法で丸々治癒されるのは、さすがに不条理を感じるのう……」
まあ、すごろくで「ふりだしに戻る」を踏むような感覚だろう。
しかもゴール直前に地雷原のように設置されているイメージか。
そりゃ敵からしたら理不尽だろう。数百年後の俺の子孫たちも、ベホマを使う破壊神を相手にそう思ったに違いない。
「これが勇者の力だ!」
「わしが攻撃できないタイミングでコソコソと回復するのがか?」
自分の背中で回復されたことがお気に召さないらしい。
そりゃ俺も、自分の背中に攻撃はできないだろう、と考えた上で冷静に回復魔法を使ったわけだけど。
「まあいい。こうなった以上、清い体では返さぬ! 吸い尽くしてくれるわ!」
「なにを……?」
その後、俺は数時間にわたって卑弥呼とひたすら削り合いをし続けた。
シンプルにお互い体力おばけなせいで勝負がつかない。疲弊し、気力勝負となり、腹が減ってきたあたりでようやくヤマタノオロチが降参したのだ。
「ええい、煮るなり焼くなり抱くなり好きにするがよいっ」
服従のポーズでひっくり返るヤマタノオロチ。よくみると股間には普通にペニスがあった。
犬のそれを見ているようなものだ。別に恥ずかしくもなんともない。
「ぱぱぱぱっぱー、ぱっぱぱー」
勝利のファンファーレを口ずさみつつ考える。
たぶん、ゲーム的にはすごい大量の経験値が入ったんだろう。
しかしながらレベルカンストしているので特に意味はない。悲しい。
「いったん町に戻って、一番弱いエイダちゃんに般若の面を付けさせて同伴させるべきだったかな」
呪いの効果で錯乱しているエイダちゃんを尻目に、ヤマタノオロチと一騎打ちする。それもまあ、ありなのかもしれない。
今更意味のない仮定の話なわけだけど。
私の家では犬をたびたび飼って来ましたが、たまたまみんなメスでした。
劇中に描写しておいてじつはオス犬のあれを見たことがないな、と思って画像検索。
えー、こんなのなんだ……