「よしルナリア、なんか一発芸をしろ」
「ではフライパンを曲げますね」
「やめたまえ」
俺は仲間たちと合流し、卑弥呼が手配しておいた料亭にて宴会をしていた。
温泉宿といえば宴会料理。会席料理っぽい雰囲気はあるけど、現代日本の和食を知る俺としては違和感がある。
「こういう料理って、個体燃料で加熱する小鍋料理とか、やたら小さいシートケーキのデザートがあったりするもんじゃないのか」
「鍋料理はわかりますが、シートケーキとはなんでしょうか? ショートケーキとは別物ですか?」
「別物だよ。一気にたくさん作るための、大量生産用のケーキだ。文字通りのシートみたいに平べったく作られている」
切られた状態で提供されることが多いのでピンとこないかもしれないが、つまりは食べ放題店などで見かける四角形にカットされた小さなケーキだ。
あれをカットしない状態で購入し、一人で食べきるのは全人類の夢だろう。
アメリカでは普通にやってるらしいけど。そんなのだから肥満がヤバいのだ。
「いいか、返すのじゃぞ! オーブは必ず返すのじゃぞ!」
卑弥呼が酔った勢いもあり、絡み酒のように訴えてくる。
勝負の約束ということもあり、俺はあのあとすぐに卑弥呼からオーブを借り受けたのだ。
紫に光を湛える宝石。触れてみて理解する。これは、確かになにかの力が発せられている。
電池のようにエネルギーが封入されているわけではない。そう、いうなればこれは出口だ。
なにか、途方もないエネルギー源があって、そのエネルギーが外部に放出される起点となっている―――そんな気がする。
なんとなく、だけど。
「わかったわかった。明日返すから。あ、お酒くださーい」
中居さんに酒の追加を注文しながら俺は言う。
「適当なやつじゃ! ドラゴンスレイヤーならもっと堂々としておらんか!」
「なにがだよ。正々堂々戦っただろうが」
「ベホマは卑怯じゃー!」
卑弥呼は泣きながら俺に詰め寄って喚き散らす。泣き上戸なのだろうか。
「あーはいはい。わかったわかった」
俺は適当に流しながら料理を食べる。
お国柄なのか、日本にしてもジパングにしても、宴会の食事は量が少ない傾向にあると思う。
食べきれないほど出しても仕方がないという日本古来のフードロス思想なのかもしれないが、若い俺にとっては物足りない。
肉だ。ドーンと大きな肉を出してほしい。
「この島国では、肉は一般的じゃないからのう」
「一般的ってことは、例外もあるのか?」
「うむ。騎士階級や上流階級なら割と食っておる。肉を食べると良くないものが入り込む、などというのは市政の迷信じゃ」
「法律とかじゃないのか」
「法律もあるのじゃが、それで取り締まれたなんて話は聞いたことがないの。うさぎを鳥と強弁して食べてたりもするしのう」
あとはカモを水鳥だから魚と言いはったり、肉を食事じゃなくて薬だと言いはったりして食べているらしい。
やーい、お前んちの戒律ガッバガバー!
「しかし話をしていると、なるほど確かに肉が食いたいのう」
「おっ人肉か? 人肉ひさびさにキメるか?」
「わしは人を喰ったことなどないわっ! 姿が近い知的位生命体を食べるとか、怖いじゃろ!」
すっごい一般的な感性で返された。
俺がロクでなしに見えてくるからやめてほしい。
「ジパングのお料理、おいしいと思いますよ。とても繊細で素敵です」
ルナリアはジパング料理を気に入っているらしい。
普段は肉食系女子のくせに、カマトトぶりやがって。
「うむうむ。嬉しいことを言ってくれるな、聖女よ。勇者も見習うのじゃぞ」
「なんで外来種のお前が、ジパングの代表ヅラしてるんだよ」
「まったくお主は勇者のくせに細かいことにネチネチと、情けないのう」
「だからなんだよ、勇者だからってなんなんだよ」
「……そうじゃな。わしも魔族だからなんじゃという話じゃしな。別によいか」
彼女は少し寂しそうにしながら、酒を口に運ぶ。そしてぽつりと呟いた。
「わしはな、ずっと独りだったのじゃ」
なんか語りだした。
「……そうか」
俺は適当に相槌を打ちながら、卑弥呼に酒を注いでやる。
正直言うと卑弥呼の個人的事情なんてどうでもいいけど、こういう時は神妙な顔で頷いておくのが大人のマナーというものだ。
「わしにはな、もう家族も仲間もいないのじゃ。ずっと独りじゃった。施設で生まれ育ったが、わしに構う者もおらんかった」
「……そうか」
お、この甘露煮美味しい。
しんみり上を見上げて語る卑弥呼。視線がそれているうちに、こいつの甘露煮ももらっちゃおう。
「そんな時、魔界で地上侵攻が宣言された。多くの魔族が志願して、魔王軍に募った。わしは気付けば、志願の列に加わっていた」
「……そうか」
こういう場所で提供される炊き込みご飯って、なんか乾燥気味な気がする。
どうしても提供するまでに時間がかかるのか、それとも大きな釜で一気に炊く弊害なのか。
俺は別にご飯硬めでも柔らかめでもどっちでもいいけど、お年寄りが好きそうなメニューな割にお年寄りの歯事情とは相性が悪そうだ。二律背反。
男はふとした時に使いたくなる単語だよね。二律背反。あと不可抗力も使いたくなる。
「お主、ちゃんと聞いておるか? 次にそうかと返したら怒るぞ」
「……そうか」
ひこみの こうげき! ゆうしゃに 30のダメージ!
「なにすんのさ」
「こうなったら今日は飲み明かすぞ! わしの半生涙あり山あり谷ありの物語、嫌って言うまで聞かせてやる!」
「嫌。ほら言ったぞ、もう終了な」
「今からスタートじゃ」
「いっ、いいいいっ……」
もう一度イヤと言おうとしたものの、卑弥呼が俺のほっぺたを左右に引っ張って阻止してきた。
「今度嫌と言ったらこのままチューしてやる」
勘弁。男はゴメンだ。
寒くなってきた昨今、作中の舞台も寒い場所へと向かいます。
季節感が現実と同期してると書きやすくていいです。
冬に砂漠のシーンとか書いてると、違和感が強くて混乱してきます。