翌日、俺はアイテムの複製を試みた。
一度仲間たちと別れ、別行動をした上で裏技を使用する。
複製したアイテムはパープルオーブをはじめとして、貴重そうなアイテムを適当にちょいちょいと。
バグのリスクがある以上、こういうのはまとめ買いならぬまとめ複製した方がいい。
「というわけで、オーブを返還するぞ。倍返しだ」
「本当に倍にして返されても困るんじゃが……」
卑弥呼の手には2つのパープルオーブ。
この他、自分で使うために6つ確保している。合計8つだ。
これでこの世界には合計13個のオーブが存在することとなった。
そういえば地球のオカルトで有名な水晶ドクロは、世界中に散らばった13個を集めるとヤバいことがおきるって逸話があったな。
せっかくだし、更に7個ほど複製して13個集めてみようか。
「して、オーブを手に入れてどうするのじゃ?」
「そりゃ本来の使い方をするんだよ」
「本来? なんじゃ、これって本来はどう使うものなんじゃ?」
「とある場所に6つ持っていくと、鳥と交換してもらえる」
「……鳥串か? わしはタレが好きじゃ」
「真面目な話なんだが」
「いや、真面目な話、なんでこの宝玉と鳥が交換できるのかわからんのだが」
……言われてみると、その通りかもしれない。
オーブという宝玉と、ラーミアという不死鳥の復活、そして彼が主人公たちに協力する因果関係がわからない。
なぜラーミアは復活直後から主人公のアッシー君を努めてくれるのか。そもそもなぜラーミアの卵は宝玉のパワーでピッピングったんだろうか。そのまま放置してれば孵化失敗したら、内部で腐ったりするんだろうか。
この世界で色々と魔物食を食べてきたけど、神鳥のピータンはちょっと食べる気がしない。
ゲーム的都合と言われればそれまでだけど、現実となったこの世界においては何かしらの理屈があるはずだ。
「どうしよう、複製したオーブでラーミア復活できるのか不安になってきた」
ゲームではこの裏技でなんとかなったけど、現実となったこの世界では複製オーブが使えないかもしれない。
なにせあそこには番人というか守護者的な双子の姉妹がいる。
「お前ら、そのオーブなんやねん! なんで全部紫やねん! はー! しょーもな! やってられんわ!」とか言われるかもしれない。
「とにかくやってみたらどうじゃ? 行くだけタダじゃろ?」
「いやでもなあ、すっげー遠いし」
オーブを収めに行くレイアムランドという島だが、これは地球で言う南極大陸だ。
ジパングから南極まで行くとすれば、相当の……
「いや、それ以前の問題じゃないか?」
そうだ、南極『大陸』なのだ。
なにを俺はお気楽に考えていたのだろう。大陸だぞ、ジパングよりはるかに巨大な島だ。
しかも極寒。今回冬の海を旅して苦労したが、レイアムランド行きはそれどころではない難易度だ。
地球において、南極大陸はもっとも最後まで探索が行われなかった謎の大地だった。
地球の人類が南極に挑んだのは19世紀から。当時各国の探検家たちが挑んだが、安定して探索を終えられたチームは存在していない。
結局、人類が安全に南極を探索できるようになったのは近代以降。動力船、砕氷船が実用化してからだ。
つまり―――中世レベルの木造船しか持たない俺たちが、レイアムランドを探索し、目的の祠を発見するなど極めて無謀ということである。
「やばいぞこれは。ちょっと洒落にならん。その場の勢いで解決できる問題じゃない」
大陸から小さな祠一つを見つけ出すなど、あまりに困難だ。というか、ゲームの主人公はどうやったんだマジで。
イシスや世界各国に協力させて、国の力を使って探索するか? いや、そんな人海戦術でどうこうなる話じゃない。凍死者が続出するだけだ。
本当にどうしよ。
「どうしたんじゃ? 急に黙り込んで」
「いや、それが……」
俺はふと気が付く。
目の前に空を飛べる奴がいるじゃん。
計算してみた。
レイアムランドの広さが南極と同じくらいだとすると、およそ1400万平方キロメートルだ。
卑弥呼は以前、どこまで高く飛べるかチャンレンジしたらしい。その時はこのオエドからオオサカが見えた、とのこと。
たしか東京大阪間の直線距離は400キロ。とはいえかろうじてって感じはなく、はっきり見えた、と主張しているので500キロ遠方まで見えていたと仮定して、地球の丸みを考慮して計算すると……卑弥呼はおよそ高度2万メートルまで登ったことになる。
成層圏じゃねえか。ジェット機かよ。
さて、高度2万メートルから一望できる地上の広さは……78万平方キロメートル。あれ、日本国土より広い。
もちろん日本国土は円形じゃないから、飛行機に乗って日本全土を見渡せるわけじゃないけど。
単純計算で卑弥呼に18回、高高度チャレンジしてもらえば南極大陸の全土を観測できることとなる。
「よし、頼んだぞ卑弥呼」
「誰がやるか!」
卑弥呼が吠えた。
卑弥呼いわく、そもそも全力で高く飛んだら地上なんてまったく見えないらしい。
そういえば雲海とかの上を飛ぶ写真とか見たことがある。確かにあの状態で地上を捜索するのは無理そうだ。
しかも卑弥呼が行ったチャレンジは、勢いをつけて急上昇、そのまま弾道飛行のように放物線を描いて落下していくものだったらしい。
地上を観測する余裕なんてまったくなかった、とのこと。
というわけで、プラン2。エイダちゃんが習得している盗賊特有の魔法、「鷹の目」を駆使する。
これは心を鷹のように空に飛ばせて遠方を見渡すという、周囲に何かしらの町や施設がないかを確認できる探索用の不思議な魔法だ。
やはり実際に使用してもらって何キロ先まで見えるかを確認したところ、この鷹の目の視点は高度3000メートルほどらしい。
すごいっちゃすごいけど、卑弥呼の高度20000メートルと比較するとしょぼく感じてしまう。
とはいえ計算してみると、高度3000メートルでも周囲200キロほどは見渡せるらしい。こうして考えると、地球の丸みというのは遠距離の観測をかなり困難にさせているようだ。
一度の魔法使用で半径200キロの範囲観測できるとして、12万平方キロメートル。
半径500キロだと78万平方キロメートルなのに、半径200キロで12万平方キロメートル。
半径は2,5倍なのに面積は6,5倍。
指数関数的恐怖を感じる。
とにかく、1400万平方キロメートルの南極大陸をエイダちゃんの魔法で完全走査するには、116回ほど使用すればいい。
元々そういう魔法ということもあり、捜索の信頼性も高いだろう。
南極にも山があり、そういう場所は捜索しなくていいであろうことから、およそ100回と考えれば現実的ではなかろうか。
「一回ごとに400キロメートル移動しなければならないことを考えなければ、現実的ですね」
ルナちゃんがクールにツッコんできた。
その通りだ。過酷な南極大陸を長距離移動するのが楽なはずがない。
仮に天候が安定していたとしても、総移動距離は40000キロメートルに達する。
これは、赤道上で測った地球一周の距離とほぼ同等だ。
さてここからどうしようと考えて、もうゴリ押しすることにした。
世界一周しなけばならないほどの長距離移動が必要なら、世界一周できるほどの長距離移動手段を用意すればいい。
俺たちが乗るアリア号は曲がりなりにも動力船だ。ジパングでの改修によりガソリンエンジンすら装備することになる。
南極……レイアムランドのほとんどの土地は、氷に覆われた平地、いわゆる氷床だと推測される。
つまり、かつて地球のソ連が研究していたような雪上ソリを母船にすればいいのだ。
現代の雪上車はキャタピラ方式が大半だけど、キャタピラや動力伝達の変速機、減速機、クラッチなんてこの世界では作れない。
だが、ソ連式雪上ソリであれば動力はプロペラだ。これならガソリンエンジンとプロペラを直結させてしまえばいい。
雪上仕様に改造した新アリア号で、南極の雪上を時速30キロで移動することができれば……40000キロの旅を、単純計算でおよそ2ヶ月間で走破することになる。
もちろんトラブルの対処や休息の時間は必要だけど、随分と現実的に思えてきた。
私はロードバイクが趣味なのですが、ロードバイク界隈には東京大阪間を24時間で走破しようというトチ狂ったチャレンジがあります。
作中において東京大阪間の直線距離を400キロと表記しましたが、下道を走ると実走距離はおよそ500キロ。
平均して時速30キロで走れば達成できる計算となります。
ロードバイクで30キロは余裕、という人もいますが、短時間ならともかく長時間維持するのは大変です。
まして24時間……アタマオカシイ。