ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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レイアムランドへの船旅

 

 

 

「気軽に現実的とか言うんじゃなかった」

 

 俺がジパングに再び訪問してから半年。ようやく準備が整い、船はレイアムランドに向かうこととなった。

 船を改修し、バクダが設計制作したエンジンを搭載し、雪上ソリモードの試験をし……

 けっこう急いで作業したつもりだったが、それでも半年だ。

 時間をかけすぎと思うか、わずか半年でよくも準備完了したと自画自賛すべきか。

 

「俺も23歳。最近、職業不定住所不定に恐怖を覚えてくるようになったぜ」

 

「私は25歳になりました。そろそろ、なんといいますか……あの責任とってもらえませんか?」

 

 何もしていないのに、ルナリアに責任を取れと言われてしまった。

 もちろん手を出してなんていない。だが俺の事情で行き遅れつつあるので、確かに俺の責任なのかもしれない。

 だが俺は地球に戻ることが最終目的なので、下手に結婚しようとは言えないのだ。

 

「いえ、最悪子種だけでもいいので。魔王と相打ちになった勇者様の子を宿したとあれば、それなりに世間体は保てるので」

 

「じつに貴族的だ」

 

 勝手に相打ち予定にされてしまったが、異世界に行ってしまった、というよりは響きがいいのだろう。

 ……いや、ドラクエ3ってそもそもそういう話だったな。

 ひょっとして原作でも、ルイーダの酒場でスタンバイしていた仲間の中に、勇者の子を孕んでいた奴とかいたんじゃないだろうな。

 そして伝説、はじまっちまった。

 

「町作りの商人の女の子とか怪しいんじゃないかね」

 

 職業「商人」は女の子はかわいいが、男だと髭面のオッサンなのだ。

 あれで男を選んだ奴がどれだけいるか。

 ドラクエ3はシステム的に、絶対にクリアまでに商人を1度は仲間に加えることになるが。

 確信を持って言える。ほぼ全てのプレイヤーが女の商人を選んでいる。

 

「女商人……? ま、まさかアミーラさんに手を出していたのですか……!? あ、あんな小さな子に……!」

 

 なにやら戦々恐々としているルナリア。何いってんだこの娘は。

 しばらく会ってないけど、あの子も今は17歳くらいか。小さい子とはもう言えない年頃だ。

 

「おおい、出発するぜえぇー!」

 

 出港準備をしていた船から、船長が声をかけてくる。

 年齢というと彼は今年で100歳だ。アミーラちゃんよりこっちの方がヤバい。引退時期については彼自身に託しているが、いつまで現役やる気なんだろう。

 俺はルナリアの手を取り、船のタラップを登る。

 簡素な空冷ガソリンエンジンが唸りを上げ、アリア号が東京湾……いやジパング湾を進む。

 目指すは南。赤道を超え、アリアハンを超え、唯一人類が定住しない極寒の死の大地へ。

 

 

 

 

 

 

 まっすぐ南下するだけということもあり、船旅は平穏なものだった。

 出発は8月。ジパング基準であれば徐々に寒くなってくる季節だが、南に向かっていくだけあってむしろ気温は日々上昇していく。

 そしてその暑さがピークに達する赤道を超えて、それ以降はとにかく気温が下がっていく。

 南半球ということでこちらは春から夏へと変化する時期なのだが、それでも緯度が上がっていくにつれて涼しくなる一方だ。

 いや、もう涼しいとかじゃなくて、寒い。

 南半球は夏であるはずなのに、もう冬の寒さに至っている。

 とにもかくにも、温度以外に問題らしい問題もなく、俺たちはレイアムランドに向かう。

 道中の船内、夕食の場にて一言。

 

「エイダさんが死にかけました」

 

「このひとでなし!」

 

 緊急会議である。

 

「……それで、なんでエイダちゃんは死にかけたんだ?」

 

「うるせーな、しょうがないだろ海の魔物つえーんだから」

 

 沢庵(壊血病対策にジパングで仕入れた)をかじりながら、自らが陥った危機にぶーたれるエイダちゃん。

 死にかけた張本人にしては飄々としているものである。

 

「それについてはすまんかった。俺たちの基準だと、そんなに強くもなかったんだが……」

 

「嫌味かよ、チクショウ」

 

 死亡期間が長く、極端にレベルが低いエイダちゃんは魔物による一撃死亡の可能性がつきまとう。

 だから海上で魔物に襲われた際は最後尾で隠れてもらっていたのだが、それでもマーマンの上位種(船長曰くマーマンダインというらしい)の一撃で危険な状態に陥ってしまった。

 慌ててルナリアの魔法で回復したものの、かなり心臓に悪かった。世界樹の葉がまた使えるとは限らない。命を大事に。

 

「というわけで、エイダちゃんにはちゃんとした装備を揃えたいところ」

 

「しかし、彼女はすでに神秘のビキニを装備していますよ」

 

 ルナリアが指摘する。エイダちゃんの動きが凍った。

 そう、エイダちゃんはすでに最高クラスの防具を身に着けているのだ。

 女体となった今では、それこそ堂々とビキニを装着可能だろう。

 服を上に着ていいなら男の俺たちも着ろって? 死んでもイヤです。

 

「ほかになんかあったかな……あっ」

 

 俺は魔法の袋を漁り、一つのアイテムを取り出した。

 そうだ、ジパングで手に入れたこれもついでに複製しておいたのだった。

 

「な、なんだよそのヤバい感じのお面は」

 

「般若の面だ。圧倒的防御力を有するが、アッパラパーになる」

 

「アッパラパー」

 

 引きつった顔で俺の言い回しを繰り返すエイダちゃん。

 アッパラパー。

 

「アッパラパー……」

 

 ルナリアちゃんもポツリとつぶやく。

 

「アッパラパー」

 

「アッパラパー」

 

「アッパラパー」

 

「アッパラパー」

 

 部屋にいる者たちが復唱していく。

 アッパラパーがゲシュタルト崩壊してきた。

 

「試しに装備してみたらどうだ? 解呪はできるから、本当に試しに」

 

「おいおい、大丈夫なのかよ?」

 

「別に命に関わるようなもんじゃない。自傷行為をするって話も聞いたことがないしな」

 

 エイダちゃんは嫌そうにしつつも、おそるおそる般若の面をかぶる。

 でんでんでんでんでんでんでんでん。

 

「…………。」

 

「……あの。エイダちゃん? どうした?」

 

 面をつけて以降、沈黙してしまったエイダちゃん。

 さてどうしようと思ったら、彼は近くにいたルナリアに殴りかかった。

 パシッ、とエイダの拳を手のひらで受け止めるルナリア。見た目聖女なのにフィジカル面でも強い。

 

「勇者様、こうなることはわかっていたではないですか……」

 

「なんかすまん」

 

 エイダちゃんは混乱状態になってしまったらしい。

 

「般若の面を使い続けるかはさておいて、ルナリア、さくっと呪いを解いてくれ」

 

「えっ? いえ、私は解呪魔法を使えませんが?」

 

「えっ?」

 

 聖女と呼ばれ、レベル198の彼女が使えない魔法なんてあるのだろうか。

 

「勇者様、解呪魔法シャナクは魔法使いの魔法です。私は僧侶なので使えません」

 

「マジか。でも教会で解呪してもらえるじゃん」

 

「そう言われましても……」

 

 ひょっとしてドラクエ3の世界の教会の神父って、全員賢者なのだろうか。

 しかもシャナクを使えるということはレベル30以上。

 あれ、世界中の教会務めの神父を集めたら、ワンチャンバラモスくらいなら倒せるんじゃね?

 教会組織の怠慢問題はさておいて、さて、どうしようか。

 

「おや。これ、外すことはできなくとも、ずらすことはできるみたいですよ」

 

 ルナリアが般若の面を横に回すと、エイダちゃんの女神のように整った顔が再び露出した。

 エイダちゃんの目が正気を取り戻す。

 

「……おい。どうすんだ、これ」

 

 ぐいぐいと般若の面を外そうとするエイダちゃんだったが、なぜかずらすことはできても外すことは敵わない。

 ゲーム的に考えれば、戦闘中は混乱しつつも移動の際に支障がでないのはこういうことなのかもしれない。

 連なって歩くパーティーの中で、一人だけふらふらと離脱していったらゲームとして困るし。

 

「まあ、そのうち教会につれてくよ。悪いけど普段はその面は横とか後ろに回しておいてくれ」

 

「くそが。寝返りうてねーじゃねえか」

 

 そこまで重大な問題なのだろうか。

 いや、案外こういう些細なことで睡眠不足とかになってしまうのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「……寝られない」

 

 狭い船内を有効活用するために、夜はハンモックで就寝しているのだが。

 横のハンモックで眠るエイダちゃん。その横顔はマジ天使。

 その頭、側頭部に付いた般若の面。その正面顔はマジ悪鬼。

 目が合うのだ。般若の面の黒い目が、俺を凝視しているように感じられて仕方がない。

 

「……寝られない」

 

 どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 道中ランシール大陸に寄ったのだが、大きな神殿は見つけられなかった。

 原作ゲームでは将来的に挑む施設なのだけど、今の俺たちはとくに用事はない。

 立ち寄ったのも単に物資補給。内陸の探索もしていない。

 

「消え去り草は手に入れたかったんだが」

 

 消え去り草とは姿が見えなくなる素晴らしいアイテムだ。使い道? 聞くなよ恥ずかしい。

 ゲームではランシールに売っていたわけだけど、少なくとも船が立ち寄った港町には売っていなかった。

 そもそもランシール大陸だって大陸だ。とても広く、町や村も無数に存在する。

 日本人は「北海道はでっかいどう!」とか言ってるけど、ランシールの南にある小島がその北海道とほぼ同サイズである。

 でっかくないどう……

 きみ、いつまで試される大地してんの? 何年目? いい加減明治気分でいるのやめてくれない? 蝦夷地に戻る? 屯田する?

 とにかく、ランシールという広大な大地から特定のアイテムを見つけ出すのは簡単なことではないのである。

 そもそも、どうして光学迷彩アイテムが普通に店売りされているんだろう。

 まあいいや。いつかランシールの神殿に挑む時が来たら、きっと消え去り草を手に入れよう。

 そう心に誓うも、ふと気付いてしまう。

 パープルオーブを量産したから、もうこの地のオーブいらないじゃん。

 ゲーム視点で上陸する理由が見当たらないし、リアル視点でもそれは見当たらない。

 他の土地では魔族に人々が危機に晒されているシナリオもあるが、別にランシールでは誰も困っていないのだ。

 

「……さらば試練の洞窟よ」

 

 俺たちはランシールを去り、さらなる南へと向かった。

 ひょっとしたら2度と来ないんだろうか、ランシール。

 でも消え去り草は欲しい。何かに役に立つかもしれないし。

 ほら、世界平和とか。むふふ。

 

「先程の港町で姿を消せるという薬草を見つけました」

 

「勇者様が悪用しそうですしぃー、ポイしちゃいましょう!」

 

「そうですね。好奇心で購入してしまいましたが、破棄しましょう」

 

「待って! 待って君たち! 捨てないで!」

 

 

 

 

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