ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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姿を変えるアイテム

 

 

 

 食文化を見れば、その地の様々なことがわかる。

 なにせ食材はすぐ腐る。どれだけの食材を集めることができるか、どれだけ余裕をもって食文化を多彩にできるか、そういった視点で見ると料理から色々な情報が得られるものだ。

 

「メインは肉と魚が半々って感じか。野菜もけっこう多彩な感じだな」

 

 俺たちは今、シャキアの生家にてご相伴に預かっていた。

 一応シャキアパパにもお客様と認められたらしい。

 というわけで、据え膳食わぬは勇者の恥。しっかり夕ご飯モードである。

 

「急なことで、粗末な晩餐で申し訳ないな」

 

 まったく申し訳無さそうじゃない態度でパパは言う。

 しかし、数時間で用意したにしては充分に立派なご馳走だ。それこそ、申し訳なさそうにする必要はまったくないだろう。

 たった数時間で晩餐会を開くには相当なパワーが必要だ。資金力とか、文明力とか、そういう感じの。

 なんのこっちゃと思うなら、日本で数時間以内にパーティーの準備を開く労力を考えてみればいい。

 できねえよ、と思うかもしれないけど、できる。業者に頼むとか、コンビニで惣菜を買い漁るとか。

 でもそれは日本のパワーあってこそ。普通の中世文明ではできっこないのだ。

 でも、この爺さんはやってみせた。スゴイ。

 

「骨付き肉入りのごった煮スープ、炭火焼きのクソデカステーキ、ビッグ餃子……まさにご馳走料理って感じだ」

 

 味はもちろん、そのものの満足感、というかご馳走感溢れるメニュー。

 スープに米が入ってるのはもう慣れた。アジア以外では米は野菜なんよ。

 いや米は米で野菜じゃないという認識はあるらしいけど、それでも主役にはなれない、みたいな。

 

「あれだな、ジパングっぽい」

 

「そうですか? お料理の雰囲気はだいぶ違いますが……」

 

 隣のルナリアは俺の意見に否定派だったが、俺としてはやはりジパングに近い。

 

「見ろ、この野菜とこの野菜は育つ地域が違う。こっちの魚とこっちの貝だってそうだ。このあたりの文明圏は、縦に長いんだ。それを船で有機的に繋いで豊かな文化を形成している。ほら、ジパングっぽいだろう?」

 

 文化圏というのは横に伸びやすい性質がある。

 縦に伸びてしまうと気温の差から生活形式が変化していくので、横に広がった方が統一しやすいのだ。

 しかし海賊の家がある地域はそうもいかない。この一帯こそ居住可能な平地だが、少し内陸にいけば南北に巨大な山脈が連なっている。

 よって彼らは文明圏を上下に伸ばすしかなく、それが結果として豊かな文化を育んだのだ。

 

「しかもその一帯が全部海沿い。海運しまくりで発展したんだろうな」

 

「なるほどなあ、この町の豊かさも納得だぜ」

 

 ステーキをムシャムシャと食らうサイモン。

 じつに蛮族スタイルである。

 信じられるか? こいつ、元公務員だぜ……?

 

「して勇者どの、当家に訪問された理由をそろそろ訊いてもよろしいか?」

 

 シャキアパパが訊ねてくる。

 歓待の場を設けたのは権力者としての礼儀であり、よそ者への威圧であり、そしてこの厄介な根っこがありそうな話題から逃げられないようにでもあるのだろう。

 俺とサイモンは視線を交わし、頷きあう。

 

「じつは―――」「俺は―――」

 

 同時に発言して、ちょっと気まずくなった。

 全然アイコンタクトできてねえ。

 

 

 

 

 

 

「海賊行為によって人を攫う理由、か」

 

 シャキアパパは神妙な面持ちで俺たちの、というかサイモンの質問を聞いていた。

 この地での問題解決は彼の望みなので、俺はあんまり出しゃばらないことにしたのだ。

 

「……この大陸の内陸部、山脈の向こうにある国をご存知か?」

 

「いや、俺はこっちの地理には疎くてな……」

 

「ふむ。その国の名をサマンオサという。この大陸でもっとも力ある、そうだな、お前たちの言葉でいうところの「帝国」だ」

 

 帝国か。

 なんとも定義の難しい言葉だ。結局の所、地球のアメリカやロシアだって普通に帝国だし。

 覇権国家の性格によって地域一帯の性格も一変するものだが、どうにもサマンオサはよろしくないアイデンティティの持ち主らしい。

 

「そのサマンオサって国はよ、なんだ、つええのか?」

 

 ふわっとしたサイモンの質問に、シャキアパパは1つ唸り、答えた。

 

「そうだな……」

 

 

 

 

 

 

サマンオサ 

――――――――――――――――――――――――――――

具体的な文明の年代を20面サイコロで決定します。

                  1世紀

――――――――――――――――――――――――――――

町の状況をサイコロで決定します。

発展度合                8

治安の良さ               8

教育レベル               6

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……サマンオサそのものはじつのところ、大して強い国じゃねえ。俺たちみたいに船を作ることもできやしねえ」

 

 それはちょっとフェアじゃないだろ、内陸国相手に。

 

「住んでる人間の数や広さはまあ、ウチとどっこいどっこいだな。ちょっと前までは規模は大きいが他所にちょっかいを出すわけでもない、気の抜けた普通の国だったもんだ」

 

「むしろうちらの方がイケイケだったね!」

 

 なぜか自慢気に胸を張るシャキア。

 気が抜けてない海賊家業を主要産業にしている国は言うことが違うぜファッキン。

 ようするに過激派のこの町、穏健派のサマンオサ、って感じだったらしい。

 ちょっと前までは。

 

「その『ちょっと前』になにか変わって、帝国って感じになったのか?」

 

「ああ、だいたい20年前にな。サマンオサは一夜で様変わりしやがった」

 

 俺とサイモンは顔を見合わせた。20年前というキーワード、原因はすぐわかる。

 俺とサイモンは魔族の兄妹を見た。

 

「おい、これうまいぞキューレ」

 

「そんなにがっつくな兄様、みっともないぞ」

 

 魔族たちは話も聞かずクソデカ餃子を食べていた。

 それ、どんな料理かピンとこないから気になって狙ってたんだけど。

 

「それだけどよ親父、外じゃマオーグンってヤツが20年前から暴れてるらしいぜ!」

 

 シャキアが取り分けられた俺の皿からクソデカ餃子を奪いつつ話に割り込んできた。

 じつに海賊らしい。俺も勇者らしくこの家のタンスを漁ってやろうか。

 今日からここの海賊旗はシャキアのエッチな下着だ。

 

「マオーグン? なんだそれは?」

 

「マオーだよマオー。やべー連中だ! そいつらのせいで今、世界がやべーんだよ!」

 

「結局やべーという情報しかないぞ」

 

 やべーやべーと繰り返すシャキア。仕方がないので俺から補足する。

 

「世界の半分を虐殺アンド占領されてる」

 

「ヤベー連中だ!?」

 

 驚愕するシャキアパパ。

 半分と適当に言ったけど、正確にはもっとヤバいかもしれない。

 なにせこの世界、町や村以外の場所はぜーんぶ魔物のテリトリーだ。

 ゲームでいうフィールド上の移動は全部、魔物のテリトリーをゴリ押しで横断しているに過ぎない。

 もちろん20年前より更に前、魔王出現前にも魔物はいたが、今ほど凶暴ではなかった。

 だがいまや世界中の魔物が凶暴化し、最弱と名高いスライムでさえ並の兵士では太刀打ちできなくなっている。

 ここらへん、ちょっと転生してから気付いたことがある。

 じつはこの世界、別にアリアハン周辺には雑魚が多く、魔王城周辺は強敵揃い……なんてわけじゃない。

 単純に、時間経過と共に世界全体で均一に魔物が強くなっていっている。

 ゲーム上で場所ごとに魔物の強さにムラがあるのは、メタ的に考えると時間経過の演出なのだろう。

 もちろんこの新大陸にも魔物凶暴化のムーブメントは来ており、それについてはシャキアパパも異常を察してはいたらしい。

 

「そうだ、あの頃から魔物は少しずつ強くなっている。昔はサマンオサにも気軽に略奪に行けたもんだが、今じゃあそこまで陸路で行くのも至難の業だ」

 

「さらっと交流感覚で略奪するな」

 

 ちょっと男子ぃー、文明の程度低すぎんよちゃんとやってよー。

 そんなノリでやってるから、いつまでたっても新大陸の文明は発展してないんだ。

 勘違いしてはいけない。地球の現代文明が戦争を放棄できたのは、それが文明や倫理の発達によるものじゃない。

 ただ、経済学の発展により戦争より経済成長のほうが儲かると明らかになったからってだけ。

 

「むしろ国家間の連携が取れてない新大陸方面から攻めていく、って方針は聞いたことがある」

 

 アンヤが言う。

 なるほど、ギアガの大穴の周辺……ネクロゴンド帝国を攻め落として、その後の第二目標が新大陸だったわけだ。

 その余力で北上し、イシス方面に侵攻していると。

 定期連絡によれば、イシスは今も対魔王連合軍の最前線国家として好景気状態を維持している。戦争で儲ける国なんてろくでもない? それはそう。

 というかさらっと内部情報を漏洩しているけど、守秘義務とかないんだろうか。

 隣のキューレはとても苦い顔をしている。守秘義務あるっぽい。

 

「マオーグンの影響かはわからんが、サマンオサは今、キョーサンシュギという宗教に支配されているそうだ」

 

 おっと、大丈夫かこれ。

 宗教とマイノリティは触れたら火傷する領域だから、あんまりタッチしたくない。

 いや、この件はサイモンの担当なのだ。なにかあったらサイモンに炎上してもらおう。

 

「共産主義というのは、古代に存在した政治体系だったか?」

 

「知ってるのかアンヤ!?」

 

「う、うむ?」

 

 アンヤは共産主義を知っていたらしい。

 まじかよ古代文明、マルクスも絶頂してるぜ。

 シャキパパが詳細を説明する。

 

「いまのサマンオサでは、王の元であらゆる民は平等に扱われ、財産も人脈も外見も統一されている」

 

「俺の知ってる共産主義と違う……」

 

 共産主義っていうよりディストピアっぽい。

 そもそも歴史に共産主義を本気でやった国家が少ないから、絶対的にサンプル不足なんだけど。

 北熊社会主義共和国連邦がそれなりの期間やっただけで、他は一発ネタレベルで短期間だけチャレンジしたか、あるいは日和って中途半端な半分資本主義みたいななんちゃって共産主義をしただけだ。

 

「財産はわかるがよ、人脈や外見が統一されるってなんだよ?」

 

 サイモンがツッコんだ。

 俺の知る共産主義では財産を持てるし、じつは給料も地位によって差がある。

 共産主義とは賢人によって適切な給与が定められており、人はその能力と努力を正しく評価され対価を得る、みたいな感じだ。

 ……なんてうまくいくはずがなく、結局偉いヤツが権力と資産を独占する。

 俺知ってる。それ、資本主義っていうんじゃよ。

 共産主義においては権利、権威が重視される。お金も使わず好き勝手できる、そういう力を人々は奪い合うようになる。

 そんな連中が羽虫のように湧いてくる温床こそ共産主義。

 つまるところ、ウケ狙いで耳鼻科にいく羽目になる、鼻ピーナッツ集団である。

 

「ってサイモンが言ってた」

 

「なんかわかんねーが、今俺に責任転嫁したのはわかった」

 

「……とにかく、今のサマンオサは、見た目が同じ人間が歩き回っているんだとよ」

 

「なんでえそれ。仮面でも被ってんのかよ」

 

「あー、アレか」

 

 不思議がるサイモンだが、俺にはわかった。

 人間の外見を変えるアイテム、確かにあるわ。

 

「全員、猫の姿をして生活しているらしいぜ」

 

「そっちかよ」

 

 

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