遂に俺達は旅立つ。
大魔王の討伐を目指す、果てなき長い旅だ。
目指すはレーベ。事前調査によると、アリアハン大陸の中腹にこの村は実在する。
既にルナリアにはここに重要アイテムがあると説明しており、彼女はレーベまでの行程を確認してくれていた。
「およそ2000キロの行程となります。馬車の相乗りを活用して効率的に移動しても、2ヶ月かかります」
「まじか」
ゲーム中だと最初の村だぞ、それが日本列島と同じ長さ?
ゲームと違って道中いくつも町村があるとはいえ、それだけで大冒険だ。
それでも行かねばならない。俺は長い旅の決意を、エイダちゃんに誓ったのだ。
アリアハンの門近くで、都合の合う馬車を探す。
「すいません、この馬車はどこに向かうのでしょうか?」
護衛として売り込み、商人の馬車に乗せてもらうのだ。
食事や消耗品は持参。これは交渉次第という部分も大きい。
地球のバスや列車のようにルールが全国統一で明文化されているわけでもなく、交渉は毎度最初からだ。
慣れたらノウハウが判ってきて流れ作業になるのかもしれないけど、俺達にとってはなかなか難儀。
なんとか見つけた北西方面への荷馬車に相乗りを申し込み、俺達は狭い貨物の間に身体を押し込む。
狭く固い馬車の床に座ったところで、ルナリアが今更ながらに俺に訊いてきた。
「あの。共有資産のお金、半減していませんか?」
「病気の子供を見かけてな。勇者として見捨てるわけにはいかなかった」
精悍な顔で言うと、ルナリアは「お小遣い制にしましょうか」と呟いた。
無駄使いってバレテーラ。
馬車での旅は意外と楽だった。
振動は厄介だけど、自分で歩く必要はない。
尻の下に服をクッション代わりに敷く。本来は貴重品の盗難に警戒したり、保存食で圧迫されたりで大変なんだろう。
だが俺達は身軽だ。魔法の袋があれば旅が格段に楽になる、というのはやはり予想通りだった。
ルナリアの見立てではおよそ2ヶ月だったが、現実にはそうはいかない。
回り道を余儀なくされたり、悪天候で足止めされたり……徐々に寒くなることもあって、俺達の旅は遅々として進まなかった。
「今は6月……北上していることもあってなんとか気温の低下を凌げていますが、これ以上気温が下がると旅を中止せねばならないでしょう」
ルナリアが言った。
ちなみにアルスは4月生まれらしく、南半球のアリアハンは6月の今こそが真冬だ。
ルナリア曰く現在位置より更に南部のアリアハンは、すでに雪が降っているであろうとのこと。
今、俺達は背中に迫る寒波から逃げる旅をしていたのだ。
―――やがて、旅商人の活動も止まる。
寒さが遂に追いつき、馬車が運用出来る気温を下回ったのだ。
アリアハンとレーベの途中にある小さな町で立ち往生した俺達。
雪こそ降らずとも木々が枯れた、色あせた田舎町。
その宿屋にて、俺達は顔を突き合わせて相談していた。
「俺としては、このくらいの気温なら旅を続けるべきだと思う」
俺の見解に、ルナリアは反対した。
「危険です。寒さは人を殺します。たとえ日中が活動出来る気温だったとしても、深夜の氷点下は命に関わります」
ルナリアの意見は俺よりも慎重だ。
中世の冬は命懸けだ。いや地球でも冬は危険だが、暖房はこっちよりずっと気軽に使えた。
俺だって寒さに危機感は抱いている。直前まで行っていた旅、早朝の寒さは尋常ではなかった。
「それに……レーベから南東に進むのですよね? 極寒の季節に、南に向かうとなると……やはり最悪の時期に重なると思います」
俺は考え込んだ。
確かにその通りだと思ったからだ。
旅の達人である商人の馬車が凍死寸前なのに、俺達だけが平気ということはあり得ないだろう。
……だがなあ……。
「それでもやっぱり進むべきだ」
俺はこの世界、ドラクエ3の旅路をおおよそ知っている。
原作においては、南極をモデルにした大陸にさえ上陸する過酷な旅なのだ。
このくらいの気温で旅路を止めていては、いつまでたっても魔王の元に辿り着けない。
「危険すぎます! もしも貴方様に万が一あれば、誰が魔王を倒すのですか!」
「勇者抜きだって倒せるよ、たぶん」
別に勇者が死亡状態でも大魔王ゾーマは倒せるのだ。魔王弱体化アイテムを使うのも勇者でなくてはならないって決まりはないし。
「そんな無責任な……」
「勇者なんて一人に全部背負わせる方が無責任だと思うけど……まあそれはさておいて」
俺だって無策ってわけじゃない。考えがあるのだ。
「俺達には魔法の袋っていう素敵アイテムがあるだろう?」
「ええっと、それが……?」
「南極探検隊みたいなガチの冬装備を、重量を気にせず準備すればいい」
そうだ、せっかくの装備重量無制限という利点があるんだ。
将来に備えて、徹底的に防寒装備を準備すべきだと考えた。
俺の意見を聞いて、彼女は顎に手を当てて思案する。
「確かに……軍用の防寒テントや、運搬可能な小型の薪ストーブがあると聞いたことがあります。移動中は全て魔法の袋に収めてしまえば、旅を続けるのは可能かもしれません」
彼女は、しばしの熟考の後……頷いた。
「分かりました。では装備を揃えましょう」
こうして俺達は、防寒具を求めて町中を彷徨った。
しかし……
「無い、ですね」
「まあ、必要なければ作らないよな……」
町の鍛冶屋を覗いたが、そもそもストーブを鉄で作るという発想がないらしい。
よく考えたら、据え置きの燃やすタイプの暖房、それは暖炉だ。
暖炉は耐熱レンガで作るものだろう。よく知らんけど。
ひげもじゃの鍛冶職人は、炉の炎を背後に提案する。
「作れっていうなら作るぜ? 数ヶ月かかるがよ」
「そんなにかかるのか?」
「仕方がねえだろ、作ったことねえんだから。ストーブなんて複雑なものを設計からするんだ、そんくれーかかる」
「数ヶ月かかったら冬が終わる。来年に備えて注文するって手もあるけど、ちょっとなぁ……」
鍛冶職人は首を傾げ、提案する。
「つかよ、お前さん達の事情だと、重さは気にしなくていいんだろ? 焚き火でお湯を沸かして、湯たんぽで一晩凌げばいいんじゃねーか?」
「ふーむ、それしかないか……」
ルナリアと頷き合う。
それっぽいことはこれまでの旅路でもやっていたが、けっこう不便だったのだ。
やはり夜間を快適に過ごしたいなら、薪ストーブを持ち運びたい。
「仕方がありません。今は断熱性の高い布を調達しましょう」
「防水性が高い布もな」
既に三角テントは持っている。
これに分厚い布と撥水性の高い布を被せれば、冷風を防げるかもしれない。
これを普通の冒険者のように背負って運ぶとなればあまりに非現実的な重量だろう。魔法の袋ありきの作戦だ。
「ああ、そうだ。確か魔力で熱を発生させる研究をしてるって奴がいるぜ」
職人が思い出したように教えてくれた。
「魔力で?」
「薪の調達をしなくて良くなるって触れ込みだが、魔法を使える奴しか使えないってことで評判は微妙だな。だが冒険者なら魔法くらい使えんだろ?」
魔法式のストーブ。それはいいかもしれない。
「どこの誰だ? この町に住んでるのか?」
「あ、ああ。確か……」
俺の勢いに気圧されつつ、職人は答えた。
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ステータス外要素をサイコロで決定します。
性別(6以上で女性) 5
年齢(あまりに不自然であればやり直し) 54
容姿(かっこよさ、かわいさ) 2
頭の良さ 9
運動神経 6
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「確か、レーベの村に住むアルディラって爺さんだ。最終的には魔法を玉に封じ込めて、魔物をぶっ飛ばそうって考えらしいぜ」
―――魔法の玉。
なるほど、あの爺さんの力を借りれば良いのか。
リアリティ重視の為、作中世界は地球と同じ大きさです。
北に行くと南から出てくるのかは未設定。