馬が丈夫な生物とはいえ、耐えられる寒さには限度がある。
遂に限界を超えて馬車による移動という手段を失った俺達は、徒歩による冬の旅を進めていた。
アリアハン中部は深夜のみ氷点下に下がる。日中は、充分な防寒着を着込めば歩けるのだ。
とはいえ、体力の消耗は激しかった。
「大丈夫です」
気丈にそう言うものの、すぐに疲れを見せるルナリアに合わせて休息を取ると、一日に進める距離は精々体感だと10キロくらい。
「無理はしないでくれ、そもそもこの環境の中を歩くのが無茶なんだ」
「……はい」
見るからに疲れた様子のルナリアに、俺は今日もそろそろ休むべきかと考えた。
「ほい。お肉と乾燥野菜と塩味の汁」
「ありがとうございます」
俺から器を受け取って、ルナリアはほっと一息をついていた。
この数ヶ月の旅で、俺の調理スキルは多少なり成長していた。
といっても、大鴉の骨を煮込んでアクを取って塩で味を整えて……くらいのもの。
たぶん本物の料理人からすれば、「この程度で料理を自称するな」と笑われるレベル。
それでもちゃんと食べられるんだから、俺も成長した。
対してルナリアはどうにも不器用らしく、初期から大して変わりない。
よって昨今のルナリアの疲労具合もあって、食事は俺の担当になっていた。
「やっぱしんどいか? 冬季の旅はやめたほうがいいだろうか?」
外で焚き火をしていた俺は、湯たんぽにお湯を詰めてテントに入り、ルナリアに渡した。
「いいえ。これだけしっかりと準備したのです、慣れれば大丈夫でしょう」
ルナリアは受け取った湯たんぽをひざ掛けの下に入れた。
俺達のテントは今や、ちょっとした部屋だ。
袋の口の大きさを通過するなら何でも物が入るからと、木材の柱や分厚い壁布、分解出来るように加工したテーブルや折り畳み椅子など、道中の町村で手当り次第に購入して追加していったのだ。
地面からの冷えが伝わらないようにと細長い形の簀子を並べて、ベッドまで拵えている。
寒さ対策の一環だったが、寝床が平らになったことで身体を傷めなくなるという副次的効果があった。
「やっぱり揃えれば揃えただけ便利になるんだよな」
「そうですね。節制のために自制せねばと思いつつも、町に到着するたびに色々と購入してしまいました」
テーブルの対面の椅子に座る。
部屋としては宿より狭い。中世の世界観でこの表現はアレだけど、だいたい3畳くらい。
屋外に簡易小屋を建てるのにも、それなりに手間がかかる。
それでも、野外に忽然と現れるワンルームは想像以上に便利だった。
「資金的にも余裕がありますからね」
「ああ、冬だと魔物の肉が高く売れるみたいだしな」
驚いたのだが、町の外に出られない冬季ではどんな魔物でも高額買取してもらえる。
別に塩漬け肉でいいじゃんと思ってしまうのだが、それでも新鮮な肉があればあったで必然的に値段がつくのだ。
というわけで、今の俺達はちょっと成金だ。
「あとは暖房があればな」
「そうですね。ちゃんと使える暖房器具があれば、いっそここで住めるかもしれません」
それはちょっと大げさだろう、と俺は笑った。
現に俺達は、ファーストフード店の2人用テーブルみたいな小さな台を挟んでいる。食事を置くスペースすらままならない。
だが……
「この狭さがなんか、しっくりくる」
「わかります」
頷き合う俺達。
数ヶ月も一緒に旅をしてきたので、俺とルナリアはけっこう仲良くなっていた。