アリアハンを発って4ヶ月。年間で最も寒くなる時期を超え、春の気配を感じる頃に俺達はレーベに到着した。
水場に自然発生したのであろう、長閑な寒村。どこを見ても、これまで立ち寄った町村との違いなどない。
「……ふっつーの村だな」
この世界に迷い込んだ半年前なら感動を覚えたかもしれないが、さすがにもう見慣れた。
普通の田舎村だ。
「そうですね。ここに重要なアイテムがあるのですか?」
「ああ。俺達の部屋にストーブが揃えば、旅がずっと楽になる」
「重要なアイテム云々の話が出てきたのはストーブの話題を聞く前だった気がしますが……」
「というか、いちばん重要な時期にストーブ入手しそびれたな」
今は10月。徐々に気温が上がり始める、春の季節だ。
「土地柄的に極寒の地ってわけじゃないが、旅を中止せずに冬を越せるって結論は出たな」
「はい。世界中を旅するのであれば、確かに寒さに足を止めてはいられないのでしょう。良い結果を得られたかと」
屋外に簡素な小屋を拵えるノウハウを得た。最初の旅の成果としては上々だ。
便利な小屋だが、それでも狭いし展開収納に手間がかかる。出来れば宿場町の宿を使いたい。
ということで、俺達はまっすぐ宿屋にチェックイン。
「すいません、おたずねしてもいいですか?」
名簿にサインしつつ、俺は宿の従業員に訊ねた。
「はい、なんでしょう?」
「この村に魔法の……魔法研究をしているご老人がいると聞いたのですが、どこにいるかご存知ですか?」
「ああ、あの人ですか。北のちょっと大きな家ですよ」
あっさりと情報を得られた。
俺達はとりあえず一晩休み、次の日に教えてもらった家に向こうことにした。
アルディラという老人の家を訪ねた俺達。
しかし家には鍵がかかっていたので、盗賊の鍵で開く。
「あの……」
なにか言いたげなルナリアを無視し、扉を開いて大声をあげる。
「すいませーん! 勇者でーす! 世界を救う勇者でーす! 支援してくださーい!」
ルナリアは羞恥のあまり物陰に隠れて他人のふりを初めた。
「な、なんじゃお主等は? どうやって鍵を開けた?」
老人が困惑した様子で階段を降りてきた。
「何者かと問われれば、勇者です」
「お主のような勇者がいてたまるか。聞いておるぞ、聖女と遊び人の二人組が旅をしているとな」
「強行軍してる俺達より速く伝わるって、噂ってこえーな。そんなことより魔法の玉をくれ。ついでに魔法のストーブをくれ」
「なんの話じゃ」
これまでの経緯を話すと、アルディラ老人は納得したように頷いた。
「なるほどな。ふむ、世界を救う為とならば魔法のストーブはこちらで準備しよう。タダで拵えてやる」
「ありがたい。愛してる」
「わしもじゃよ。じゃが魔法の玉を欲しがるのはなぜじゃ? 一度しか使えない魔法など、冒険者にはあまり魅力的ではなかろう」
「知らん。なんか必要になるんだよ」
原作では壁を破るのに必要だったが、それは魔法でも良かったはずだ。
なぜ専用のアイテムが必要だったのか、ゲーム中では明確な理由は描かれていない。
「いや、つまり発破だよなアレ。地下で使うんだから、時限式のほうが望ましかったって話か?」
原作ではカットされたが、勇者達は地球の発破作業のように魔法の玉を設置した後、一度地上に出て安全に起爆したのかもしれない。
というか崩落のリスクを考えると、普通そうすべきだろう。
そう考えると、魔法の玉という専用アイテムの存在は極めて合理的なのかもしれない。
「葉っぱ? なんじゃ、薬草か?」
「いや、炭鉱を掘るのに使う爆弾っていうか……」
「炭鉱? ああ、お主等はこれからサンセットに向かうのか?」
「サンセット?」
知らない地名だ。というか、ゲームに出てこない場所だ。
「大陸の内海北部を沿って進むと、鉱物資源の多い地帯となる。その辺一帯がサンセットじゃ」
「あー、このへん?」
壁にアリアハン地図がかかっていたので、それで確認する。
俺が指差したのは、原作ではいざないの洞窟と呼ばれたダンジョンだった。
「そうじゃそうじゃ。あの辺は炭鉱町が点在しておってな、アリアハン王都にもほそぼそと供給されておるはずじゃぞ」
「え? 内海をぐるっと回り込んで? それって1年くらいかからない?」
「内海にも船はあるぞい。別に陸路で運ぶことはなかろう」
なるほど、俺達は使わなかったけど船旅って手もあったのか。
「それでも輸送費はかかります。だから、アリアハンでは金属が高いのです」
ルナリアが補足した。
もしかして、それが理由でアリアハンじゃ銅の剣さえ入手困難なのだろうか。
盾も金属を使えず木製で、それがお鍋の蓋に繋がるんだろうか。
「直線距離ではアリアハンと近いこともあって、トンネルを掘ろうという計画もあったようです」
「山脈貫くのは無理だろ……」
地球でも大山脈を貫くトンネルなんて大仕事だ。地球でも大規模なゼネコンが多額の資産を投じて達成する困難な事業なのだ。
ひょっとしたら魔法でうまく出来るのかもしれないけど、これまで見てきた文明レベルではたぶん難しい。
「あの地域に行くのなら、魔法の玉が欲しいというもの判る。よし、ちょっと待っとれ」
そういって、アルディラは倉庫から木箱を持ち出した。
じじい無理すんな。言ってくれれば運んだのに。
「これが魔法の玉じゃ」
その見た目は、俺の目からは花火の玉のようにしか見えない。
というかほぼ花火みたいなものなんだろう。
「その玉を使えば土砂を吹き飛ばすなり、壁を粉砕するなりも容易なはずじゃ。扱いには気を付けるのじゃぞ」
木箱ごと受け取る。ゲームでは玉は1つだったが、実際には複数個がスイカみたいに収まった状態で貰った。
そりゃそうか、予備は欲しい。
「ありがとよ、爺さん。世界はぼちぼち救っとくぜ」
「ありがとうございます」
「うむ。魔法ストーブについては数日待て、すぐに制作に取り掛かろう」
俺達は礼を言って、宿に戻った。
数日後、新たに制作した魔法ストーブを受け取り、俺達は再び旅に出るのであった。