「ここより東に旅をし、山を超えると小さな泉があるという。かつてはその地より多くの勇者が旅だったそうだ」
そんな情報を教えてくれたのは、レーベの宿に宿泊していた冒険者だった。
レーベを発ち東へ。気温が上がったことでぼちぼち街道を行き交う馬車が復活したことで、旅は以前のように楽なものへと戻った。
「勇者って複数いるものなのか?」
商人の馬車の荷台で揺られつつ、俺はルナリアに訊ねる。
「います。貴方様の父上である勇者オルテガ様、サマンオサの勇者であるサイモン様……古今東西、様々な地に勇者は生まれています」
「俺もそのうちの一人でしかないってわけか。やっぱ勇者いらねーよな」
魔王城なんて巡航ミサイルでボコスカ殴れば良いんだ。世界を救うのは英雄じゃなくて多くの人々の願い(TNT換算)なのだ。
「俺、てっきりこっちの方は人が住んでないと思ってた」
「そうですね。実際、この大陸にも人が全くいない地域はあります。良質な鉱物や石炭が見つからなければ、大陸東部に定住しようという者は少なかったでしょう」
逆にいえば、定住が困難な山岳地帯であるにも関わらず人が住むほどに意味がある土地なわけだ。
ずっと平原地の村ばかり見てきたので、文化や生活形態が変わるはず。
俺は存外、ワクワクしていた。しばらくは新鮮な気分で旅ができそう。
……なんて、俺はのんきに考えていた。
レーベを出発して1ヶ月。最初は平地が多かったが、馬車の振動が激しくなってきた。
大陸ナイズというべきか、日本のように尖っていない平たい山が多いらしく、傾斜が思ったより大きくない。
それでも、移動の大半が坂道。馬の体力にも限度があり、移動距離はレーベを目指す旅より遅々としていた。
「地図上ではアリアハン、レーベ間とレーベ、サンセット間は同じくらいの距離だ。2000キロだっけ」
「はい。私の予想ではレーベまで2ヶ月かかるという試算でしたが、これはずっと馬車に乗れて問題が起きなかった場合の計算。実際には倍の4ヶ月かかりました」
「レーベまでの道は途中馬車に乗れなくなって速度が落ちた。今回のサンセット行きも、山岳地帯を進むから行程は伸びるだろう」
「同じマイナス要素ということで、やはり4ヶ月と考えるべきでしょうか?」
「そう単純な計算とはいかないだろうけど、それを目安にしておこう」
12月、季節は夏。
標高が上がっているとはいえ、気温も上がって夜も寝苦しくなってきた。
「数ヶ月後にサンセットに入るとなると、4月までにアリアハンを脱出出来るかわからんな……」
別に急かされているわけではない。
だが、まさかこの世界に迷い込んで1年かけて、まだ大陸を出られないとは思っていなかった。
「―――おいっ! あんたら、襲撃だ! 対処してくれ!」
商人に声をかけられ、俺達は馬車から飛び出して武器を抜く。
あっ。今気付いたけど、俺が勇者扱いされないのって武器がブーメランだからか!
そりゃブーメラン構える勇者と美しい杖を構える聖女なら、聖女メインになるわ。
納得しつつ武器を構え―――俺は愕然とした。
「に、人間?」
襲撃者は、黒い服をまとった人間だった。
明らかに不審な、顔を隠した複数人の人間。
それらは俺達に明確な敵意を向け、魔法の杖を向けてくる。
敵だ。そう思った瞬間、俺は咄嗟にブーメランを投げていた。
「ぐっ!」
俺のブーメランは、先頭の人間の頭部を掠める。
致命傷ではない。だが俺が投げたブーメランは、その人間が被っていたフードを切り裂いた。
そしてその顔を見て、俺は動きを止めてしまう。
男だった。年齢は俺達より少し上くらいだろう。
年は同じくらいなのに、既に精悍な顔付きをしており、どことなく風格を感じさせた。
そんな若者が、構わず俺達に魔法を放ってきた。
「メラ!」
「な、なんで人間が!?」
敵の魔法使いが放った火の玉を這々の体で避ける。
「いけないっ!」
襲撃者の背後に駆け寄ったルナリアが杖を振りかぶり、襲撃者の頭を強打する。
襲撃者は昏倒し、一撃で戦闘不能となった。
俺は頭を冷やす。いや到底冷静になんてなれないけど、それでも無理矢理に思考を纏める。
俺達は護衛であり、そうでなくても死ぬわけにはいかない。
ならシンプルだ。敵は、人間であっても敵だ!
もう一度ブーメランを投げる。先程よりしっかり放たれた攻撃に賊達は切り裂かれ、あっという間に全滅した。
「な、何なんだ一体……」
襲撃者は3人いた。人型のモンスターかとも思ったが、やはり普通の成人男性だ。
「ルナリア、人を、人が……」
人を殺した。
その事実に、俺は動揺していた。
「落ち着いてください。殺したのは賊です。彼らの命を奪わないと、私達が危なかった」
ルナリアの言う通りだ。今はもう賊が死んで動揺している状況ではない。
俺は深呼吸し、改めて襲撃者を見る。
大半を殺したのは俺だけど、最初の一人はルナリアだ。
俺がしっかりしていないから、ルナリアが人を殺す必要に迫られた。
そう考え、俺は唇を噛む。
「アルス」
ルナリアが俺の肩に手を置く。その目は優しかった。
「よく出来ました。貴方様は、間違ったことをしていない」
ルナリアの目には真摯さがあった。
その通りだ。俺達は賊を迎え撃っただけだ。
それは褒める事はあっても責められる事はない。
ただ―――
「俺は……アルスじゃない」
「えっ?」
ルナリアは困惑したが、それに答える言葉を俺は見つけ出せなかった。
今回襲撃してきたのは「まほうつかい」です。
原作だと「まほうつかい」や「あらくれ」って人間なんですかね。