エイダは断食1日で降伏した。
「お願いします、何か食べ物をください……」
「はえーよ」
鬼気迫った目で食料を求めるエイダ。
俺は呆れた様子でそれを見るが、ルナリアの意見は違うらしい。
「勇者様、それは飢えたことがない者の理屈です」
俺にはエイダの降参が早すぎるように思えたけど、よくよく考えればそれは地球での世界記録や仰天ニュースの情報を元にした感覚なのかもしれない。
確かに俺は、冒険に出るのに際しても充分な食料を持っていく。
味に不満を覚えることがあっても、量に不安を覚えることはなかった。
「よし、俺も断食してみよう」
エイダちゃんに食事を与えつつ、俺は提案する。
「今日からヨーイドンで一斉に断食だ」
「それに何の意味が……?」
訝しむルナリアに俺は説明する。
「理由は2つ。1つは単純に食料節約だ」
「それは理解出来ますが」
「2つ目の理由は、俺達が飢えた経験がないことだ。一度くらい食糧難の危機感を練習がてら知っておいたほうがいい」
そうだ、結局のところ試してみなければこういうのは判断がつかない。
飢えという苦しみを前に人はどれほど苦痛を覚えるのか、知識ではなく感情で知っておきたいのだ。
「なるほど、確かに一度経験しておくというのは悪くない考えです。私も参加してみます」
前々から思っていたが、ルナリアは俺と思考が近い。
昔から本の虫で知識欲が強いルナリアと、地球の価値観を持ち現実主義者な俺。
異世界で別々に生まれ育った割に、俺達は近い考え方を持っている。
魔法の袋に色々詰め込んで小屋を建てるとか、この世界の住人からすれば奇妙な行動であっても「合理的だから」とあっさり受け入れていたしな。
今回もその流れなのだろう。飢えについて実感を覚えるために試してみる、実に合理的だ。
「よし、それじゃあ皆で断食スタートだ!」
「お腹すいたよぉ……ひもじいよぉ……」
「あの、早すぎやしませんか……?」
俺は断食開始から丸1日も耐えきれず、腹の痛みに悶ていた。
空腹は痛い。切ないとかじゃなくて、腹が痛む。
俺は生まれて始めての飢餓というものを経験していた。
「空腹ってこんなにしんどいのか、ごめんねエイダちゃん。俺はこのつらさを知らずにきみに強いていた……」
「お、おう」
「どうしますか? 飢餓の苦しみを理解したというのなら、もう中断しても宜しいと思いますが」
俺より平気そうなルナリアが提案する。
女性は男性より飢えに強いという。単純に脂肪が多いからだ。
女性らしい丸みを帯びた身体の持ち主であるルナリアも、普通に考えて俺より体脂肪率は高いはずだ。
だがこれはそういう問題ではないと思う。
単に俺は根性なしなだけだ。
「そうだな、これ以上の実験は無意味か。よし、飯にしよう」
「はい」
「そ、そうか。良かった」
なぜか安堵した様子のエイダちゃん。
ルナリアは不思議そうに彼女に言った。
「貴女様は引き続き絶食ですよ?」
「俺、降参って言ったよな!? 尋問しろよ! なんで無意味に苦しませるの続行するんだよ!?」
「俺達は飢える苦しみを知った。これはつらい。だから、そのつらさをきみに与えて情報を聞き出そうと思う」
「だから話すっつってんだろ! この人でなしどもめ!」
俺とルナリアは顔を突き合わせ相談する。
「どうする?」
「とりあえず食事にしましょう。お腹が空きました」
「そうだな。まだ3人前くらい用意出来そうだし」
「いえ、腹を満たしてはまた反骨精神が出るかもしれません。聞き取りは飢えさせたままで行いましょう」
女性に本当に厳しいのは女性である。
容赦ないルナリアの様子に、俺はそんな格言を思い出していた。