「あんたら、この町に来るまでに秘密結社の人間を殺しまくっただろ。それで恨まれてるんだよ」
残り少ない食料を食い散らかしながらエイダが語った襲撃の理由は、そんなものだった。
「いやおかしくないか? 俺達は自衛しただけだぞ? さすがに逆恨みってやつだろそれは」
「知ったことか。ここじゃあ金を出して見逃してもらうのがルールだ。ルール違反をしたのはそっちだ」
俺達は困り果てた。
発想が蛮族過ぎる。
「じゃあなんだ、お前らは落とし前つけろって感じで襲ってきたのか? 押し売りというか、もう当たり屋じゃないか」
「そも、厳密にいえば賊に金銭を支払い身の安全を確保すること自体が違法です。アリアハン国は賊を交渉相手として認めないスタンスです」
民間人は犯罪者と交渉しちゃだめだよ、そういうのはやるにしても国がやるからね、って法律があるらしい。
とはいえその場で身を守る為に仕方がなく支払うこともあり、それを理由に罰せられた事例はないそうだ。
「はん。口出しばかりして何もしてくれない王家なんか知らないね!」
そう言ってそっぽを向くエイダちゃん。
「この無教養っぽい子が国家に属することのメリット・デメリットを考えているとは思えない。きっと入れ知恵したヤツがいるぞ」
「同意見です。あるいは、サンセット地方では反アリアハン感情が常態化しているのでしょう。勿論地方が貧しくなる理由に中央の経済的収奪がないとは言いませんが、それにしても思想が稚拙です」
「お前ら! そういうのは小声で相談しろ! たぶん俺をバカにしてる内容だろ!」
ガーガー吠えるエイダちゃん。
これで美少女じゃなければひっぱたいているところだ。
と思ったら、ルナリアが容赦なくビンタした。
パン、と小気味よい音が洞窟に響く。
「なにか?」
「いえ、何も」
普段理知的な子ほど怒ると怖い。
いや別にルナリアは怒ってないと思うけど、必要とあらば容赦ない人だ。
地球の価値観を持つ俺より冷酷かもしれない。
たぶん教会地下で拷問したことあるガールだ。
「だからってなんで急に襲撃しかけてきたんだ。先に警告したり、手を出すのを控えたりするだろ普通」
「いえ、それは情報共有の手段がないので仕方がないのではないでしょうか?」
ルナリアが俺の意見を否定する。
なるほど、この世界じゃサンセット地方に広がる賊の構成員に情報を共有するのも大変なのか。
「なんで襲撃したかって? それは、アンタが勇者だからだよ」
ふてくされたように言うエイダ。
ルナリアはそれで納得した様子だが、俺には判らない。
「つまりこういうことです。元々後ろめたいことをしている組織の者達からして、勇者一行が仲間を次々殺害しながら町に迫ってきたらどう思いますか?」
「どうみても討伐目的ですありがとうございました」
「どういたしまして」
「で、その先鋒がどうしてエイダちゃんなんだ? 正直言って弱かったぞ」
「……俺が望んだんだよ。勇者は俺がやるって」
そういえばエイダちゃんは俺に個人的に恨みがあるっぽかった。
「俺は、バコタの息子だ」
そうエイダちゃんは言った。
……息子?
「バコタってのはアレだよな、盗賊の鍵を作った盗賊」
俺は懐から機械じかけの鍵を取り出す。
エイダちゃんはそれを見ていきり立った。
「それはっ! 返せ!」
「返してほしい? 人に物を頼むなら相応の礼儀ってのがあるよね?」
「このクソ勇者ぁ!」
ギリギリと歯ぎしりして俺を睨むエイダちゃん。
いや、ここは確かめねばなるまい。
「きみ、男なのか?」
「だったらなんだよ!」
「男なら対応が厳しくなるけど、男なのか?」
「…………じょ、冗談だよ。あたしが男のわけないだろ。でしょ」
ぎこちなくシナを作るエイダちゃん。
「生きるための必死の努力を感じます」
「こうはなりたくないなー」
俺とルナリアは、しみじみとそれを見下ろしていた。