エイダちゃんはバコタの息子。じゃなくて、娘。
シュレディンガーの下半身についてはそのうち確認するとして、とにかく彼女の父はアリアハンの騎士団に捕まってしまったわけだ。
だからエイダちゃんはアリアハンで情報収集をして、父親を助けるべく活動していたらしい。
「それであの時娼館にいたってわけか」
「アリアハンの高級娼館に、どうやって入り込んだのですか?」
「……あの店はそもそも、この地方の娘の出稼ぎの店だ」
なるほど、あの娼館を通して少しでも外貨を得ようという活動か。
貧富の差が激しい以上は貧しい娘も多く、商品には事欠かない。
ブッシーの指導者……当人の考えかは判らないが、なんとも悪辣だ。
「いや、でも鉱山で掘った物をアリアハンや他の町に輸出してるんだろ? そんなことをしなくても、外貨はどんどん入ってくるんじゃないか?」
「勇者様、ここは鉱物は取れても食材は育ちませんよ」
「なるほど、ぼったくり価格で食料を仕入れてるのか」
そうなるとエンゲル係数もマッハで上がるわけで、貧富の差も倍ドンで広がるわけだ。
とことん弱者には生きにくそうな町である。
「俺……あたしはアリアハンが嫌いだ。毎日美味いものを食って、キレイな町でお上品に暮らしてやがる。なにもかもサンセットとは違う」
「それを娼館での活動で痛感したってわけか」
「こっちの娘が必死に身体売って生きてるのに、あんたらはそれを食い物にして贅沢三昧だ。なあ、勇者さんよ」
ちょっと、というかかなりの暴論だ。
別にアリアハンの人間がみんな豊かなわけではないし、毎日ご馳走を食べてるわけもない。
高級娼館に来れるような人間ばかりを見ていれば、そんな偏見も生まれるのだろうか。
「なるほど。だからお客として来た彼を、ここまで目の敵にしているわけですか」
ルナリアの中で、俺は娼館通いするダメ男だと認識しているらしい。
彼女に俺が童貞だと、どうすれば伝わるだろう。
俺が童貞だと、叫びたい、明日を変えてみよう♪
「確かに俺は裕福な家の出だ。いや中流階級だと思うけど、飢えたことはない」
「…………。」
エイダちゃんは俺の言葉を黙って聞いている。
「勇者の息子という名声もある。生まれつき、そこらの冒険者よりも強い気がする」
「…………。」
エイダちゃんの顔に苦渋が浮かんでいる。
彼女が憂いるのは、この世界の不平等さか、理不尽さか。
「戦いの武装も充実している。魔法の袋で旅も快適だ」
「……何が言いたい」
「うん」
俺は1つ頷き、告げた。
「そんなこともあるさ!」
「くたばれ」
エイダちゃんが俺を恨んでいる理由。
それは生まれたの土地の貧富の差であり、生まれ持った才能の差であり、父が投獄されたことによる組織内の地位低下からくる扱いの差であり。
「つまり勇者様は関係ないではありませんか」
「ルナリア、あんまりはっきり言っちゃ駄目。こういう余裕のない人間に理屈は通じない」
ガルルルと俺に唸るエイダちゃんを、ルナリアはバブルスライムを見るような目で見ていた。
何事も理路整然としたがるルナリアと、感情論を優先するエイダちゃんは相性が悪い。
「1つ2つなら耐えられても、全方位から追い詰められると人間八つ当たりもしたくなるさ」
「勇者様、その優しさは良くありません。この者の境遇がどれだけ不遇でも八つ当たりをしていい理由にはなりません」
「それは、そうさなぁ……」
ルナリアはともかく、俺は人に説教出来るような大したヤツじゃない。
俺はため息を吐いて、もっと建設的なことを話すことにした。
「それで、エイダちゃんはこれからどうするんだ? ちなみに俺達も余裕はないから、協力的じゃないと食事が減るぞ」
「……協力します……」
エイダちゃんは泣いていた。
落ちぶれて八つ当たりして敗北者となった少年、ないし少女のザマであった。
悲しい。