ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

32 / 159
神学と天文学の狭間にて

 

 古い扉を押し開けると、そこは森の中だった。

 

「温かいな」

 

 実際はそうでもないのだろうけど、肌寒い地下にずっといたからか日の光がやたら眩しい。

 俺達3人はしばしぼうっと深い緑葉から見える太陽を見上げ、数分くらい感慨に浸っていた。

 人間、やはり地下で生活する生き物じゃないんだろう。

 生命力溢れる深緑を前に、その活力に俺達は圧倒されていた。

 

「……2人とも、動こう。こっち側に来てる賊がいるかもしれない」

 

 疲労困憊だが、そうも言ってられない。

 俺は2人を促し、歩き始める。

 

「ここは、ロマリア半島なのですよね?」

 

「ああ。ロマリア王都もかなり近いはずだ」

 

 近いとはいっても、そこは現実となった世界。

 ゲームでは旅の扉がある祠から数歩だったと記憶しているが、おそらくそれなりの距離はあるのだろう。

 

「まずは人里を探そう。喉がカラカラだ」

 

 

 

 

 

 

 村を見つけ、俺達は井戸から汲み上げた水で喉を潤していた。

 短時間で村を発見できたのは幸運だ。確か盗賊は遠くを見渡すスキルみたいのを持っていたはずだが、エイダちゃんはまだ使えないらしく、今回は本当に単純に運が良かった。

 清潔な水源は貴重な資源だ。村人が迷惑そうに見てきたが、知ったこっちゃない。

 あとで村長に寄付でもすれば、ある程度は許される。

 本来は許可をとって献金してから井戸を使うべきだが、俺達にそんな余裕はなかった。

 

「水、美味えー!」

 

「はい、まさに甘露です……!」

 

「たまんねーなあ!」

 

 ガブガブと水を飲む。今の俺達を見て、勇者一行だと思うヤツはいまい。

 あまり飲みすぎては腹を壊すので、理性でほどほどに止める。

 一息つくと、俺達は顔を見合わせて気付いた。

 

「俺達、ボロボロだな」

 

「そう、ですね」

 

 女性として不服なのだろう。ほぼ1ヶ月身体を洗っていないのだ、衛生状態は相当悲惨である。

 もしかしたら、先程の村人が迷惑そうにしてたのは悪臭によるものかもしれない。

 

「宿に行こう」

 

 提案し、宿を探す。

 勿論風呂なんて期待していなかったが、なんとそもそも、村に宿がなかった。

 

「考えてみれば当然です。ここはロマリア半島の南部なのですよね、貿易に人が行き来するような場所ではありません」

 

 港町ならばともかく、小さな土地に人が住み着いたような小さな村だ。

 街道も通っていない村に、滅多に来ない外の人間が休む店なんてあるはずがなかった。

 俺達は村長の家に向かい、井戸と広場の使用許可をもらう。

 そして、広場に久々のテント小屋を建てた。

 

「なんじゃこりゃ?」

 

 簡素なテント小屋を見て、エイダちゃんは首を傾げた。

 屋根がある坑道内では使わなかったので、エイダちゃんには初お披露目だ。

 魔法の袋から次々と部品を取り出してテントを組み上げた俺に、エイダちゃんは呆れたように半笑いをしていた。

 

「俺達は川で洗濯してくる。ルナリアはテントで湯浴みしててくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 レディーファーストでルナリアに先に清潔にするように告げ、俺達は川で洗濯に勤しむことにした。

 あ、服がない。地下での生活で、清潔な服は全部着回してしまったんだった。

 村長の奥さんに借りてくるか……服も財産だからなー、貸してくれるかなー……。

 

 

 

 

 

 

 俺達は名前もない村で数日を過ごしていた。

 名前のない村なんてあるのかと思うだろうけど、実際村人は誰もここの名前を知らないらしい。

 とはいえ名前がないと税の取り立てをする上で困るので、ちゃんと名前はあるはず……とはルナリアの談。

 村長は把握しているであろうとのことだが、興味もないので誰も聞きに行こうとは提案しなかった。

 

「冬を飛び越えちまった」

 

 エイダちゃんが不思議そうにしている。

 南半球のアリアハンは秋だった。旅の扉で北半球に来たので、今こちらは春だ。

 今は3月。過ごしにくい冬を飛び越えたという意味では、いいタイミングだったのかもしれない。

 俺は屋外で、エイダちゃん主導のテント小屋改修を手伝っている。

 器用な彼からして、俺が制作した粗末なテント小屋は満足出来ない出来だったらしい。

 曰く、もっと便利にしてやるとのこと。

 

「なんとか1年以内にアリアハン大陸を脱出できたな」

 

 別に目標としてたわけではないが、それでもちょっと安心した。

 この調子だと、大魔王を倒す頃には中年になっているかもしれない。

 きつい地下での生活で気力も体力も失ってしまったので、体調を立て直す為にしばらくこの村に滞在することになった。

 

「なあ勇者。なんで季節が飛んだんだ? こっちだと季節が逆? わけわかんねぇ……」

 

 頭を抱えるエイダちゃん。

 

「俺だってわけわかんねえよ」

 

 地球が丸くて地軸が傾いているから……なんてことは言えない。

 この世界、ゲームだと北に向かうと南から出てくるのだ。

 これを実現しようとすると、ゲームの世界はドーナッツ型になる。

 意味不明だ。

 

「地域で季節が逆転するのは、天文学においても大きな謎とされています」

 

 テント改造作業に加わらずに見物していたルナリアが言った。

 

「季節の変化は太陽と地上の距離が変化することで説明されます。しかし、この解釈では地域によって気温や季節が異なることの説明が付きません」

 

「それって地上が平坦って前提?」

 

「……貴方様は、もしや大地が丸いと考えてらっしゃるのですか?」

 

 ドン引きした様子のルナリア。

 なにそのヤベーやつ見ちゃった感。

 

「別に地動説を推してるってわけじゃない」

 

 さっきも言った通り、この世界がドーナッツ型である可能性も捨てきれないし。

 

「ただ、季節の逆転については地球……この世界が丸いほうが説明しやすい」

 

 俺は作業を放り出し、地面に石で絵を描いて地動説を説明した。

 

「ここがこうなって、あーなって、こうだから……季節で平均気温が上下するわけだ」

 

「……理屈は通っています」

 

 ルナリアは眉を顰めつつも、俺の話をある程度認めた。

 

「しかし理屈だけです。証拠がありません」

 

「うーん。俺もうろ覚えだけど……確か惑星の動きが計算しやすくなるんだよ」

 

 俺は中心の円の周囲に、ぐるぐるとでたらめな線を書いていった。

 

「惑うようにデタラメに動く星、その位置関係を天動説で説明すると、こんな感じになるらしい」

 

 ぐるぐるにぐるぐるを重ねたような意味不明な図形。

 書いていて俺自身わけわからんが、地球が動かないままに惑星の位置関係を予想するとこうなっちゃうのだ。

 

「確かに、このような図形は本で見たことがあります。細部は違いますが」

 

「うろ覚えだから勘弁してくれ。んでもって、大地が太陽の周りを回っているっていう地動説の場合はこうなる」

 

 俺は理科の教科書にも乗っている、同心円の太陽系の図形を描いた。

 

「なんだ、超簡単じゃん。こっちにしようぜ」

 

 エイダちゃんはこっちのほうがお好みらしい。

 そう、地動説であれば惑星の動きを説明するのが超簡単になるのだ。

 厳密に言えばそれぞれの動きは楕円を描き、更に惑星同士の重力も作用することで複雑になるらしいが……そんなの俺が知っているはずがない。

 このシンプルな計算式が求められたことで、天動説は地動説に淘汰されたのだ。

 

「興味深いお話ですが、その計算式が判らない以上は信じることは出来ません」

 

「しゃーない。むしろこれでホイホイ信じないのがルナリアの長所だよ」

 

 天動説は間違っているからこそ、補正に補正を重ねた結果、計算が複雑化した。

 しかし地動説は地動説で、正しい計算が長らく出来なかったのだ。

 先に言った、惑星の動きが真円ではなく楕円だという気付きが見いだされるまで。

 現時点ではどっちの説も誤差があり、確信を得られるものではない。

 たしかドラクエ3にはこの辺の研究をしている人がいたはず。出くわすことがあれば、この浅知恵でドヤってやろう。

 

「この世界の一般的な認識としては、世界は平面って思われているのか?」

 

「はい。世界が球体という説は存在しますが、異端です」

 

 あくまで教会の教えですが、と前提でルナリアは語った。

 

「創成期において、世界樹の頂に登った賢者様は、この世界の四隅を見渡したと書き残しておられます。この世界が丸ければ、四隅を見渡すことなど出来ない……それが主流の主張です」

 

「聖書を持ち出されたら俺としても反論出来ないんだよなぁ……」

 

 「仕様です」は最強の言い分だ。

 もしこの世界に神様が仕様と言い張るようなバグがあったら、それこそが魔法の原点なのかもしれない。

 ……いや、そういえば俺、キメラバグでアイテム増やしたんだった。

 やべーな。この世界、そういう理不尽バグがあるんだった。マジで世界は平面かドーナッツかもしれない。

 

「航海術が発達し、国家間の長距離航海が可能となった現代では、この世界が大きく湾曲しているという測量結果が出ているのも事実です……」

 

 ルナリアは溜め息を吐く。

 頭でっかちとリアリストの鬩ぎ合いで葛藤するのは、なんとも彼女らしい気がする。

 

「興味深くはありますが、この話題は不毛でしょう」

 

「そうだな。有識者や関連書籍があればもう一度話してみたい」

 

「そうですね。私もそう思います」

 

「おい、インテリども」

 

 エイダちゃんが不機嫌そうに言う。

 

「テントの改良、手伝ってくんねーのかよ」

 

 俺は謝罪し、彼の指示に従ってテントの組み換えを進めるのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。