ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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ロマリアにて

 

 しばし村で休息をとった俺達は、いよいよロマリアに出発した。

 エイダちゃんの手によって広さを拡張され、様々な場所を予め紐で固定することで簡単に組み立てられるようになったテント小屋だが……それでもテントはテントだ。

 宿のない村で実質野営している限りは狭い生活を強いられる。

 距離も近いとあって、俺達はロマリアで宿を取ることにした。

 

「身体は休めたけど、風呂もご馳走もまだだからな」

 

 いざないの洞窟で語り合った、洞窟から脱出したらしたいこと。

 村での生活はほどほどに快適だったが、やりたいことは全然達成出来ていない。

 

「お風呂……」

 

 ルナリアがぽつりとつぶやく。

 きれい好きな彼女にとって、多少湯浴みをしただけの現状は満足ではないのだろう。

 俺だってそうだ。全身風呂にしっかり浸かりたい。

 

「村で聞いたけどよ、この国って飯が美味いんだろ?」

 

 エイダちゃんは風呂より飯が楽しみらしい。

 いや、俺だって楽しみだ。

 ドラクエ3は地球の地理をモデルにした世界観であり、ロマリアはずばりイタリアに該当する。

 イタリア。歴史的にみれば色々とネタな国だが、飯が美味いことで有名な国であることも間違いない。

 

「ピザ、カルパッチョ、アクアパッツァ……美食の国の実力、見せてもらおう」

 

 地中海の要所たるイタリアは、文化的中心ということもあり多くの食文化が開花した。

 かつて世界の中心であった豊かな海、地中海。その幸を豊富に供給されるこの国は、やがてその美食文化を世界中に広めることとなる。

 伊達に古代より栄えた都ではない。ヨーロッパにおいて、イタ飯の影響を受けていない食文化など存在しないのだ。

 

「……いや、ここ異世界だけどな」

 

 よく考えたらゲームではフランスやドイツに該当する国は登場しなかった。

 地球の知識を当てにするのは間違いだろう。うん。

 でもイタリア料理の代表たるパスタはあった。この辺では米などと同じ主食ポジションらしく、村で食べられたのだ。

 卵を使ったシンプルなパスタだったが。

 

「俺達の美食の旅はこれからだ!」

 

「……いや、親父を助けるためにちゃんと魔王倒せよ?」

 

「ふふっ。お風呂、図書館……楽しみです」

 

 ご機嫌な俺とルナリア。

 こともあろうか、盗賊のエイダちゃんがもっとも魔王を真剣に打倒したいと考えていた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

町の状況をサイコロで決定します。

インフラ、発展度合           2

治安の良さ               7

教育レベル               1

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ここが……ロマリア?」

 

 俺は困惑を隠せない声を漏らしていた。

 ロマリア半島の中心都市、王都ロマリア。

 そこは、まさに古都という形容が相応しい町だった。

 石造りの古い町並み、立派な上水道の水道橋。

 人々は長い布をタスキのように肩に斜めにかけた服を来ており、町の一画にはまあまあ巨大なドーム状の建物が見える。

 ……ローマだ。確かにここは、イタリアの首都ローマ、なのだが……

 

「古代ローマだこれ!」

 

 ちょっと、いやだいぶ予想外だった。

 ゲームだと中世風の、いかにもヨーロッパ風の城下町だったが……俺の前に広がる景色は、むしろテルマエでロマエな雰囲気の古代都市だったのだ。

 

「なんか、ごちゃごちゃした町だな。未開っぽい」

 

 エイダちゃんは俺より率直に町をディスった。

 気持ちは判るが、もうちょいオブラートに包みなさい。

 

「アリアハンは経済活動が王都に集中していますが、ロマリア半島は首都機能を持つだけの半島内の1都市です。事情がアリアハン王都とは違います」

 

「ワシントンDCみたいなものか?」

 

 首都機能と経済の中心を別にする国は幾つかある。たしかアメリカ以外にも、オランダなどもそうだったはずだ。

 自然にそうなることもあれば、意図的に計画することもある。

 

「大都市とは水辺に生じます」

 

「ああ、そうかもな」

 

 歴史の授業で「文明は大河の側で発生する」と習った。

 大きな人口を支えるには多くの真水が必要となる。

 農業を行うにも都合が良く、人類初の乗り物である船の運用でも有利だ。

 

「……あ、そうか。なるほど」

 

 いつか語った気がするが、都市計画は水が常に関わってくる。

 生活用水や排水としてもそうだが、物流としてもやはり水は重要。

 大量の物資を運ぶには水が、つまり海や大河が必須となる。

 そして、ロマリアは半島であり、全方向がほぼ海に囲まれている。

 

「ここは半島の動脈なんだ」

 

 この半島は良港が多い。そして、半島の港同士を流通させるとなると陸路が交わる場所が生まれる。

 それが、このロマリアという王都の正体。

 首都機能こそあるが、あくまで貿易都市。無数にある町の1つなのだ。

 というか、たぶん半島内の港から半島内の港に物資や人を輸送するも、短距離用の内海船の方が早く大量に運べる。

 あくまで、陸路は補助的な活用なのだろう。

 だから、こういっちゃなんだが首都であり貿易街なのに規模が中途半端に思える。

 

「つまり、半島そのものがロマリアなわけだ」

 

「一周回って当たり前の結論に至りましたね。しかも間違っています」

 

「ま、間違いなのか……」

 

「正しくは、ロマリア半島を囲む内海全てがロマリアです」

 

 俺は頭の中で地図を描いた。

 ロマリアが地球でいうイタリア半島だから、それを囲う内海とは地中海だ。

 地中海こそがロマリアの正体?

 

「なるほど……確かに間違いなのかもしれない」

 

 人間、地図を見るとどうしても陸地を見てしまう。

 だが、陸路が発展せず船中心に物流を行っている時代においては、海こそが国家の神髄なのか。

 地中海という豊富な資源を内包した穏やかな海。

 そんな場所に、高度な文明が生まれないはずがないのだ。

 

「こういうのも地政学っていうのかな」

 

 しかし困った。

 洞窟の反動で超高級宿に泊まってやるー、とか思ってたわけだけど……

 

「あるのか、高級宿?」

 

 古代ローマを舞台にした風呂漫画を読んだことがあるけど、あれではローマでは宿屋というものがない、みたいなことを言っていた。

 これだけ交通の要所なのだから宿がないということはないと思うが……日本人がイメージする、上質なサービスを提供する宿はないのかもしれない。

 

「とりあえず手分けして探してみようぜ」

 

「そうですね。昼頃に中央の広場で合流しましょう」

 

「わかった。タンスと樽漁りは任せておけ」

 

 俺達は別行動を開始し、ロマリアという都市について知ることにした。

 

 

 

 

 

 

 宿はなかった。

 いや宿屋はあるのだが、俺のイメージするホテルはないらしい。

 

「別に極端に寒い季節ってわけじゃないし、これじゃあテントでも大差ないぜ」

 

 エイダちゃんがそう言う。

 屋根があれば多少はマシかもしれないけど、俺達が求めるほどのものじゃない。

 サービスも食事も一切なし。金持ちが旅するならば、召使いを持参しろってスタンスのようだ。

 

「どうしましょう? 今から程度のいい宿に向かいますか?」

 

「……いや、俺は諦めるつもりはない」

 

 俺は不敵に微笑んだ。

 知っているか。人は、諦めない物を勇者と呼ぶのだ。

 

「行くぞ諸君。のんびり自堕落な生活が、俺を待っている―――!」

 

 

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