ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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逃げるは恥だし役たたず

 

 

 

 旅立ちの朝。俺達勇者パーティーは、広場の前に集まっていた。

 俺は適当な棒を真っ直ぐに立てて、それをパッ、と手放す。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

進行方向を12面サイコロで決定します。

          10(10時方向、北西西)

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「よし、次の目的地はあっちだ。しいていえばポルトガ方向だな」

 

「おい待てやコラ」

 

 なにやらお気に召さない様子のエイダちゃん。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃねーよ。カンダタは北の方にいるって行ってたじゃねえか、目的地はそっちじゃないのかよ」

 

 そう主張するエイダちゃんに、俺はやれやれを肩を竦める。

 

「あんな口約束を守ってられっか。無視だ無視」

 

「うわぁ……1ヶ月世話になった相手の依頼をブッチする気かよ……」

 

 ドン引きした様子のエイダちゃん。

 いやだって、確かここらへんのイベントって無視できたはずだし。

 ドラクエ3はボスイベントがやたら少ないが、盗賊カンダタ退治はその数少ないボス戦だ。

 長々と……現実で言えばイタリア半島からスペインとかフランスとかのあたりまで遠征して、ケチな盗賊を討伐するイベントだ。

 いや遠いな。陸路でヨーロッパを斜めに横断するとか、中世の時代にやっていいことじゃないぞ。

 

「確かに長距離ですが、地図上の見た目ほどではないはずです」

 

 ルナリアは地図を見て、俺の主張を否定した。

 

「この地図は位置関係を記号化したもので、正確性には乏しいと言われています。ロマリア王が仰っていたカンダタの潜伏地まで、おおよそ1000キロほどかと」

 

「えっ? そんなに近いの?」

 

 1000キロを近いと思うのは距離感ぶっ壊れているけど、これまでの旅路を考えるとやっぱり短い。

 俺は地球のヨーロッパの地図を地面に描いた。

 ロマリアがローマ、原作でカンダタが潜んでいるシャンパーニの塔はたぶんフランスのシャンパーニュ地方だろう。

 名前ですぐ判るだろうけど、ワインの一種、シャンパンの生産地として有名な場所だ。

 

「……こうしてみるとけっこう直線ルートだな」

 

 原作ゲームではかなり回り道をしなければならなかったはずだけど、地球の地図ではそうでもない。

 

「この地図は? なにを基準に描かれた地図ですか?」

 

 地図とは球面を平面に描写する都合上、どうしても何かを無視して何かを基準に描くことになる。

 方向だけが正しい図法、距離だけが正しい図法、自国にとってだけ正しい図法、その基準は様々だ。

 ぶっちゃけ、完全な地図を描きたいのなら地球儀を用意するしかない。

 

「メルカトルはなんだっけ、緯度経度の関係性が正しいんだっけ。まあ狭い範囲で見ればそれなりに正しく見える地図だそうだ」

 

 ただし緯度によって土地の縮尺が狂っていくという弱点はある。

 あんまり南北に長い範囲を調べるのに向いた図法ではない。

 俺の地理の知識なんて教科書の世界史レベルだが、ヨーロッパらへんはしっかり習ったのでだいたい合ってると思う。

 こちらの世界で使われている世界地図というか世界絵図と比べてみると、やっぱりかなり違う。

 おおまかな配置が同じなので惑わされていたが、こうして見るとヨーロッパは随分と小さい。

 なるほどこうして見ると、王様が気軽に「往復2000キロ移動して盗賊退治してきてちょ」と言うのも現実的なのかもしれない。

 

「……いや現実的じゃねえよ! 他国の人間に1000キロ先の悪党退治してこいとか異常だよ!」

 

 しかもここから北上するとなると、現実でいうところのアルプス山脈を超えることになる。

 原作ゲーム内でもここらへんを突破する時は険しい山脈の合間を歩くこととなるが、もしかしたらあれはスイスあたりをモデルにした地域だったのかもしれない。

 

「どちらにしろ、陛下の依頼は放置するのですね?」

 

「そうだな。ちょっとだけ北上してみようとは思うけど、カンダタ退治なんてやってられん」

 

 カンダタについては、きっと時が解決してくれるだろう。

 俺は人の心を信じてる……!(丸投げ)

 

「しかし、こうして現実基準の地図を見ると」

 

 原作ゲームでは現実でいうところのフランスに行ってから、後々にポルトガルへ向かうこととなる。

 しかしこれは奇妙なことだ。

 

「普通に考えれば、ロマリアからはポルトガよりシャンパーニのほうが行きにくいはずなんだよな」

 

 なにせ、ロマリアとポルトガは両方とも海洋国家。

 両者は当然貿易があり、船を使えばかなり簡単に行き来が出来る。

 だがゲーム中には、そのようなルートはない。わざわざ陸路から関所を通過してポルトガに入国することとなる。

 その理由は、ロマリア滞在中に判明はしているのだ。

 

「幽霊船の出現範囲と言われれば、無理に船を出して欲しいとは言えません」

 

 ルナリアはそういって、船乗りが貿易を中止している理由に納得を示した。

 

「幽霊船ってそんなにやばいのかよ?」

 

 エイダちゃんが訊ねる。ルナリアは頷いた。

 

「やばいです。世の中には、幽霊系のモンスターがいるのは知っていますか?」

 

「ああ、なんかそれっぽいのがいたな」

 

 まだ見たことはないが、シャドーとか怪しい影とかいた気がする。

 

「幽霊船とはつまるところ、大型船サイズの幽霊系モンスターです」

 

「そりゃヤバいな」

 

 ボスじゃん。

 そうだよ、人が乗り込めるほど巨大な物質が忽然と現れるんだ。異常事態でないはずがない。

 そりゃ航路も分断されるというものだ。

 

「でもよ、海路が駄目っていうなら、余計陸路は重視されてるべきじゃないか? なんで陸路まで封鎖されてるんだ?」

 

 エイダちゃんがめずらしく冴えたことを言った。

 

「別に完全に封鎖しているわけではありません。ただ、重要性が増したからこそ国家主導で往来を管理しているというだけです」

 

「つまりロマリア王の許可を取れば、ポルトガに行ける可能性はあるということか」

 

「ふーん。じゃあ殺るか? カンダタのヤローをよ」

 

 俺は頷いた。

 

「別にポルトガに急いで行く理由もないし、後回しにしよう」

 

「お前、そればっかだな……」

 

 

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