俺達が進む行程は、かつて地球で十字軍と呼ばれた集団のそれに近い。
ロマリア半島を北上し、海沿いに東海岸を進む。
半島の根本まで北上した後は、海岸に沿ってそのままひたすら南東に。
「アーティコ海……赤い豚野郎の飛行機が飛んでそうな海だ」
どこまでも続く海沿いの街道に沿って、馬車の列が進む。
ルナリアの予想した通り、そこは完全に人が行き来する前提の道だった。
馬車が往来出来る広い道がどこまでも整備され、周辺には短い間隔で宿や食事処が点在している。
海沿いということで大きな町にも定期的に立ち寄り、移動だけではなく余暇も充分に取る機会がある。
危険な場所や不安定な場所もあるが、そういう場所は迂回路が必ず用意されている。
何百年も往来し続けた道だからこそ、あらゆるトラブルは全て要因を潰されているのだ。
「旅立ってから2ヶ月か」
馬車の中、俺は誰に語りかけるわけでもなくぽつりと呟いた。
馬車の列は滞りなく、一定のペースで長蛇を前進させていく。
モンスターから見て、今の俺達はどのように見えているのだろう。健気に寄り添い合う猿の群体? それとも、文字通りに巨大な蛇のように見えているのか。
なんにせよ、野生の勘というのは侮れない。理屈も戦術もないのに、ちゃんと勝てない相手だと見極めてくる。
つまり、それでも襲いかかってくるのは群れる猿の群れを蹂躙できる強力なモンスターということ。
「そういう意味では、確かにモンスターは強くなってきたな」
モンスターと遭遇する回数は間違いなく、少数パーティーの時より少ない。
そして、それでも襲いかかってくるモンスターは例外なく強敵だ。
特にキャットフライってモンスターはやばかった。「そらとぶ猫」なんて馬鹿げた存在だが、予想外に手こずって危うく犠牲者がでそうになった。
「なんだよ、びびってるのか?」
隣に座るエイダちゃんが、ふとそんなことを尋ねてくる。
俺は頭を振った。
「いや、逆だな。油断っていったらあれだけど、旅の行程が順調過ぎて怖い」
強がっているわけではない。不安要素があるのも事実だが、当初の予想より楽な旅路なのも事実だ。
ロマリアからアッサラームへの道は、原作ゲームにおいても難所の1つだ。
単純に移動距離が長く、モンスターが急激に強くなり、初見であれば町の場所も把握しにくい。
ダンジョンではないにも関わらず、ここで全滅したプレイヤーはきっと多いだろう。
地球の地理で考えても、ヨーロッパから中東への徒歩の旅なんて正気でやってはいられない。
過酷な旅になる、そう覚悟していたというのに―――蓋を開けてみれば、道は徹底的に石畳で舗装され、快適な旅が続いていた。
「地獄への道は善意で舗装されている、か」
俺はふと、そんなことわざを思い出した。
「それ、誰の言葉だよ?」
「俺」
本当は海外のことわざだけど、ここはカッコつけて盗用させてもらった。
どうせこの世界じゃバレやしない。
「やっぱりビビってんじゃねーか!」
エイダちゃんはカラカラと笑った。
……たしかに、今のは文脈だけ見れば俺が不安がっているように聞こえたかもしれない。
なんか負けた気分だ。
「順調なのが不安なんて馬鹿げてるけど……杞憂ならいいんだが」