大勢で行動する利点の1つ、それは生活上で欠かせないルーチンを全員分まとめて片付けられることだろう。
炊事洗濯からモンスターの対処まで。全員分をまとめて済ませれば、その仕事量は激減する。
キャラバンは総勢200名ほどの集団であり、つまり食事は毎日600食も準備しなければならないわけだが、その労力も激減するというものだ。
「まあそもそも炊事なんてほとんどしなかったわけだけどな」
俺はカチカチに固まった塩漬け肉をナイフで削ぎつつ考えていた。
ただいま、野営の調理中。焚き火にかけられた鍋に塩漬け肉を落としていく。
キャラバンは昼に動いて夜に止まる。
当たり前じゃないかと思うかもしれないが、俺は当初、キャラバンは昼夜ずっと移動し続けるものと思っていたのだ。
投資の回収はとにかく早いほうがいい。
工場を昼勤夜勤に分けて動かし続けるのは、とにかく設備導入の投資額を回収してさっさと利益を出したいからだ。
キャラバンの運営も投資。投資者はとにかく出資を回収したいが為に、人員も設備もフル稼働させたがる。
「なにが言いてえんだ、てめえは」
カリーム氏に睨まれ、俺は震え上がった。
俺は今、野外炊事の手伝いをしていた。
俺達は新参冒険者、カリーム氏がいつも招集する冒険者の面子、つまりいつメンじゃない。
だから、交流のために積極的に行動している。
あと、料理の勉強。野外料理がワンパターンになってきた。
「えっと。せっかく大きな馬車を買っても、使わなけれれば購入費用を回収できない。しかもあまり放置したら馬車の木材が傷んだり腐ったりするかもしれない。もっとも効率的な投資の回収方法はしっかり整備しつつもフル稼働させ続けて寿命まで使い潰すこと。そのためには人員を交代して24時間使い続けることが理論上最短……」
「ちげーよ。そんなこと判ってんだ馬鹿野郎」
俺がどんなふうにキャラバンの運用を勘違いしていたか説明したというのに、カリーム氏は興味ないと言い切った。
解せぬ。
「旅を効率化するために、野営をしなくて済む町を一定距離で拵えてるんだろ。ギリギリまで馬車を進められる」
「誰が考えてこの体制を構築したんです?」
「強いていえばアッサラームの商人ギルドだ。あと言っとくが、馬は一日中フル稼働させられねーからな」
「なるほど、そりゃそうか」
護衛も御者も交代交代して馬車の中で休憩していけば、24時間進み続けられる。
だが馬車を引く馬、こいつばかりは24時間働かせる事ができない。
「生き物を相手にする商売ってのはデリケートですね」
「生き物相手じゃない商売なんてねえよ。取引相手、護衛の冒険者、宿場の手配、荷馬の世話、モンスターへの対処……全部生き物相手の仕事だ」
「うへぇ」
これら全てに気を遣って200人を動かすなんて、とんでもない重労働だ。
とても俺にはできそうにない。
「そんじゃ、こうして俺と話してるのも生き物相手の仕事の一環ですか?」
「そういうこった。お前が新参者だからって手伝いを申し出たように、俺もお前の申し出に答える必要がある。おかげで下手くそな料理をするハメになっちまった」
そういって、変な形の根野菜を持ちニカッと笑うカリーム。
なんだこの爺さん、意外といい人なのかもしれない。
なお料理は上手だった。何だこの爺さん。強い。