ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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魔王軍幹部、吸血鬼キューレ

 

 旅自体は平穏に進んだが、問題がなかったわけではなかった。

 

「キャラバンに参加しての旅に慣れていない弊害ですね」

 

「ああ。集まって旅すれば楽、ってだけでもなさそうだ」

 

 何事にもメリットとデメリットがある。

 大所帯の旅は大きなメリットが得られるが、当然デメリットもあった。

 

「ううっ……」

 

 馬車の中でうめくエイダちゃん。

 長旅で体調を崩してしまった彼は、揺れる馬車の中で横になって苦しんでいた。

 キャラバンのデメリット。それは、多少の問題が生じてもキャラバン全体の動きを優先しなければならないこと。

 

「俺達だけの旅であれば、躊躇なくどっかの町で旅を止めてたんだがな」

 

「申し訳ありません。私の考えが足りていませんでした」

 

「あ、いや、ルナリアを責めてるわけじゃない」

 

 存外に落ち込んだ様子のルナリア。

 彼女はキャラバンに同行するメリットばかりに目がいって、こういうデメリットに気付けていなかったらしい。

 

「本当に無理だと判断する時が来ても、なんならキャラバンから離脱しちゃえばいいんだからな。あんまり気負うなよ」

 

「それはキャラバンに迷惑をかけてしまいます。それに、信用問題に関わります。勇者様の今後の旅に支障がでるかもしれません」

 

「惜しむような名声なんて最初からないさ」

 

 俺は肩を竦めた。

 

「優等生な勇者様一行でいる必要なんてないんだからな。違約金でも払えばけじめはつけられるだろう。旅は安全第一、いのちをだいじに、だろ?」

 

 この言葉、有名すぎて慣用句になってすらいるけど、まさか自分がドラクエ世界で使うことになるとはな……。

 

「そうですね……」

 

 ルナリアもわかってはいたのだろう。ただ、理屈ではなく感情で割り切れないのだ。

 彼女はやや気落ちした様子で、儚げに微笑んだ。

 

「勇者である必要なんてない……貴方様から、初めて勇者らしさを感じた気がします」

 

「へへっ、照れるぜ。……待って、初めて? 1年以上いっしょにいて初めて?」

 

「初めてです」

 

「マジかよ……」

 

 さすがに凹むぜ。

 馬車が止まる。

 

「も、モンスターだ! 全員馬車から出ろ!」

 

 馬車の外から切羽詰まった男の声。

 俺達は顔を見合わせ、各々の武器を持って外に出た。

 

「あれは……!」

 

 ルナリアが声をあげる。

 俺はその視線の先を追って、驚愕した。

 

「……に、人間?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

ステータス外要素をサイコロで決定します。(魔族用テンプレート)

性別(6以上で女性)           9

年齢(20歳以下に限定)         7

容姿(美形が基本、大きいほど人間寄りの姿)8

頭の良さ                 9

運動神経                 1

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 否……それが人間ではないことは、一目瞭然だった。

 なにせ、その少女は背中に翼を持ち飛行しているのだから。

 乳白色の肌、艶やかで真っ黒な髪。深い紅色の瞳は知的でありながらも謎めいた輝きを放ち、周囲に不思議な迫力を与えている。

 洗練された美しさを備え、細く引き締まった体つきは若々しさを感じさせた。

 しかしその目には、小学生ほどの年齢とは裏腹に確かな長い年月を経た知恵と経験がにじみ出ている。

 その容貌とは裏腹に年齢を重ねているような、ちぐはぐな印象。

 

「吸血鬼―――」

 

 ルナリアが隣で呟く。

 そうだ。その少女の容姿は、まさしくおとぎ話に語られる吸血鬼そのものだった。

 

「伝承でしか存在を確認されてこなかった……実在したのですか」

 

 ルナリアが驚く。

 さて、ドラクエ世界に吸血鬼っていただろうか。いたって不思議じゃない世界観だとは思うけど。

 俺はその少女を注視する。背中の翼以外に、人間じゃない部分はない。

 ひょっとしたら牙が生えているのかもしれないけど、この距離ではよく見えない。

 

「知性のあるモンスターは強く珍しいです。厄介な相手です」

 

 ルナリアの言葉に反応したのか、吸血鬼が俺達を見る。

 そして目を細め、こう言った。

 

「ほう……この力。まさか本当とはな」

 

「何を……力だって?」

 

 吸血鬼は俺達を―――正しくはルナリアを注視していた。

 

「人間の英雄、その子が魔王様打倒の為に旅立った……それが貴様だな、聖女よ」

 

 ……あの。

 そっちじゃなくて、俺なんですけど。

 聖女じゃなくて勇者です。

 

「はい。私こそが勇者オルテガの娘です」

 

 ルナリアは少し迷い、嘘をついた。

 敵の情報を錯乱させるためだろうけど、俺の立場がない。

 

「聖女ルナリア……そうか」

 

 吸血鬼は視線をルナリアだけに向ける。俺達は眼中にないようだ。

 そして意味深な笑みを浮かべると、彼女の名を呼んだ。

 

「ルナリアよ……私と手を組まないか?」

 

「……!?」

 

 俺が言葉を失ってしまう。

 そりゃそうだろう。敵が勇者に寝返りを誘ってきたんだ。

 しかも人違いしたまま。

 

「……どういうつもりですか?」

 

 ルナリアが警戒心を剥き出しにして問う。

 

「なに、人間というのは哀れなものだ。そこの男を見ろ」

 

 そういって吸血鬼は俺をちらりと見る。

 

「あまりに脆弱……あまりにも哀れだ。まるで力を感じない。凡庸な小物というのはこれほどまでに不憫なのか」

 

 吸血鬼は俺をちらりと見て、呆れたように言った。

 いや、勘違いの上に策士ルナリアちゃんに騙されてるあんたが一番哀れなんだけど……。

 

「目を見ればわかる。そのような凡夫を従者とするのはやめておけ。その男に聖女の隣に立つ資格などない」

 

「……そんなことはありません。彼は優秀な仲間です」

 

 ルナリアは言い切る。

 だが俺にはわかった。今のは勇者、聖女らしいことをとりあえず言ってみただけのビジネス友情発言だ。

 ルナリアはそういうことするやつだ。

 

「くっくっく。いいぞ、永遠の命というのは。力、知恵、権力……あらゆるものが手中に入る。短命な人間では果たせぬあらゆる願いが叶うのだ」

 

 ルナリアの肩が揺れた。

 この子、知恵って部分に食指が動いてたぞ。

 元が知識欲を満たす為に旅に出た子だ。欲望というより手段として、永遠の命とかって魅力的だよな彼女にとって。

 

「こ、雇用条件は?」

 

「ルナリアさーん? 前向きにならないでくださーい?」

 

 ルナリアは旅に出た甲斐があった、とでも言いたげに瞳をキラキラさせていた。

 

「こ、雇用条件?」

 

 むしろ困惑するのは吸血鬼娘のほうだった。

 勧誘しておいて、乗ってくるとは思っていなかったらしい。

 

「給与面と待遇について掘り下げたいのです」

 

 吸血鬼はルナリアの言葉に眉をひそめ、少し考えた後口を開く。

 

「魔王軍に給与はない。ただ、モンスターの分布などといった直接的な命令権が与えられるのだ」

 

 ……吸血鬼が魔王軍の内部情報を漏らし始めた。

 なんかバカバカしい話の流れだけど、これって人類にとって最重要の情報なんじゃなかろうか。

 

「その権限をもって自分で成果を捻出しろと?」

 

「その通りだ。いわば我々魔族は管理職、能動的に動けぬ者など不要」

 

 つまりたとえばルナリアが知識を求めるのなら、支配下のモンスターを動かして図書館を制圧しろというわけか。

 かなり自主性が求められる立場のようだ。営業指針まで決定しなければならないというのは中間管理職というより、むしろ子会社のようなものかもしれない。

 ルナリアが「どうしましょう?」みたいな目を向けてくる。俺に訊くな。

 

「ひいっ! こ、こんな場所にいられるか! 俺は逃げさせてもらう!」

 

 俺はルナリアにアイコンタクトしつつ、小物ムーブ全開でその場を離脱した。

 こそこそと吸血鬼少女の後ろに回り込み、ブーメランを構える。

 ルナリアは俺の意図を汲んで、長々と話を長引かせていた。

 

「貴様の死因は勇者を見誤ったことだ―――くらえ、聖剣エクスカリバー!」

 

 俺はブーメランを投げた。

 

「あうっ」

 

 ブーメランは吸血鬼少女の後頭部にヒット。

 

「……愚か者が」

 

 吸血鬼少女は小さく呟いた。

 俺は彼女の全身がぶわっと広がったように錯覚した。なんというか、オーラのようなものが見える……気がした。

 

「俗物め……よほど死にたいと見える……!」

 

 吸血鬼はギロリと俺を睨みつける。

 やばい、怒らせちまった!

 

「ち、違うんです! これは事故です!」

 

 俺は弁明を始める。

 

「わざとじゃないんです! ほら、ウケ狙いです!」

 

「聖女に敵対されるならまだ理解できるが……貴様のような小物に愚弄されて黙っていられるか! もうよい、今この場で皆殺しにしてやるわ!」

 

 俺の目の前まで降りてきた吸血鬼少女。見た目はちびっこなのに、その威圧感はこれまで敵対したあらゆるモンスターより強大だ。

 

「覚えておけ凡夫。我が名はキューレ、魔王軍が大魔族の1人で」

 

「えいっ」

 

 ルナリアがこっそりとキューレの背後に近づき、復活の杖で彼女の後頭部をぶん殴った。

 

「あぐっ!?」

 

 復活の杖は入手時期の割に弱い武器らしいが、それでも現時点ではデタラメな攻撃力を有するアイテムだ。

 僧侶のルナリアの腕力でもそれなりに痛かったらしく、キューレはバランスを崩して顔面から地面に突っ伏した。

 どうでもいいけど、背中を近くから見て初めて気付いた。

 ドレスの背中が大きく開いていて、コウモリのような翼が直接生えているみたいだ。

 コウモリの翼って哺乳類の腕が進化したもののはずだけど、つまり吸血鬼は4本腕なのか?

 

「……聖女よ」

 

 キューレは頭を押さえながらルナリアを睨む。

 

「はい、なんですか?」

 

 ルナリアは真顔で首を傾げる。天然かこの子。

 

「いや……いい……」

 

 キューレも言い返す気力を失ったようで、倒れたままため息をこぼすのであった。

 

「くらえっ!」

 

 よそ見しているキューレに俺は再びブーメランを投げる。

 しかし、さすがに3度目はなかったのかキューレはひらりと空に逃げてしまった。

 

「そうなんども食らうか! ええい、小賢しい!」

 

 キューレが上空から杖を振り下ろす。すると地面が割れ、炎が噴き出す。

 

「うわっ」

 

 俺は慌ててその場から離れる。

 

「わっはっは! 愚か者め、我が灼熱の炎からは逃れられぬ!」

 

 キューレの勝ち誇った高笑いが響く。

 

「聖女様、こうなっては仕方がありません。残念ですが、戦いましょう」

 

「その演技、まだ続けるんですか?」

 

「やれることはやっとこうぜ」

 

 俺はもう一度ブーメランをキューレに向かって投げる。

 

「愚かな! そんな武器など」

 

 キューレは杖でブーメランを弾き返した。

 だがその一瞬の間にルナリアは体勢を低くして、接近していた。

 そのまま飛び上がり、彼女はキューレに蹴りを入れる。

 この聖女様、どんどんフィジカルファイターになってやがる。

 

「ぐうっ!?  おのれ!」

 

 キューレが杖を振り回すが、ルナリアはあっさり避けると背後に回った。

 そして肩甲骨の下あたりに手刀を入れる。

 魔法覚える前にステータス上げたから武道家みたいになってる……

 

「ぐぼあ!?」

 

 キューレは痛みに目を見開き、口から唾液をこぼした。そして力が抜けたように地面に落ちる。

 

「他愛ない。なんだ、もう終わりか?」

 

 俺はブーメランをキャッチすると、まだ悶え苦しんでいる吸血鬼少女を見下ろした。

 

「くう……貴様の力じゃないだろ……」

 

 恨めしげに見上げるキューレに、やりにくさを感じる。

 これだから美少女ってのは人生得なんだ。

 俺は提案した。

 

「なあ、もうやめない?」

 

「……なに?」

 

「俺、見ての通りただの冒険者。モンスター相手ならともかく、言葉が通じる相手に殺し合いなんてしたくないんだ」

 

 俺が言うと、キューレは軽蔑するような視線を向けてきた。

 

「この期に及んで同情か? 見下げ果てた男だ」

 

 キューレは心底見下した様子で俺を睨む。

 

「戦争というのはな、出来れば行わないほうがいいのだ」

 

 まさかの、魔王軍幹部からの平和主義な発言だった。

 

「割りに合わない。リスクが高い。損失も大きい。戦争など、やらなくて済むならやらないほうがいい」

 

「魔族にもそれ相応の事情がある、って話か?」

 

「そうだ……我々は戦争をせねばならないほどに、追い詰められているのだ……!」

 

 キューレは悲壮な表情を浮かべる。

 

「……そうか」

 

 俺はしばし黙考して、現時点での交渉を諦めた。

 本当に彼らはあらゆる施策を行い、その上で失敗したのだろう。

 物語のように、人間側と協力して問題解決を目指す?

 それは不可能だ。魔王軍とてこうして会話ができるなら、外交による解決を考えなかったはずがない。

 蜘蛛の糸を辿るような平和的解決も困難、そう考えたからこその人間界への侵攻なのだろう。

 

「もういい。名もなき遊び人に語ることなどない」

 

 キューレが空に腕を掲げる。

 

「来い、我が眷属よ―――!」

 

 キューレが叫ぶと、彼女の背後より無数の影が飛び出してきた。

 モンスターだ。それも、大量の。

 スライムのような雑魚もいるが、巨大なゴリラや甲冑の騎士といった見るからに強そうなモンスターが大半だ。

 恐らくは今まで彼女が配下にしていたモンスター達だろう。

 

「……蹂躙しろ」

 

 ただ一言キューレが命令を下すと、モンスター達が一斉に馬車へ向かう。

 

「やばっ」

 

 俺達が時間稼ぎをしている間に馬車はだいぶ離れていたが、それでもモンスターの足の方がずっと速い。

 

「キューレ! 交渉しよう!」

 

「するかボケ!」

 

 多勢に無勢、どう考えても馬車を守りきれない。

 モンスターを統括しているであろうキューレと交渉を持ちかけるも、にべもなく断られてしまった。

 

「我々は敵対しているのだぞ! 甘えるな!」

 

 キューレが叫ぶ。

 

「そう、だよな……」

 

 俺は言いながら、馬車へ戻ろうと足を向けた。

 

「俺は戦うぞ。文句ないだろ」

 

「ああ、好きにしろ。我々は戦争をしているのだ、存分に殺して構わん」

 

「そうじゃない」

 

 俺はキューレに向き直る。

 

「……なに?」

 

 キューレは訝しげな声を上げる。

 

「戦いたいなんて思ったことはない。いつだって、俺は守りたいんだ」

 

 俺はブーメランを構えると、モンスターの群れに向かって走り出した。

 

「まさか……貴様、勇者……」

 

 キューレの呟きが背後から聞こえたような気がしたが、俺は気にせずモンスターの群れに突っ込んだ。

 

 

 

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