10分後、戦いは終わった。
冒険者も、商人も、雑役も、誰もがボロボロだった。
馬車は何台も破壊され、人間とモンスターの死体が幾つも転がっている。俺は満身創痍だったが、それでも何とか生き残ることはできた。
「勇者様……大丈夫ですか?」
ルナリアが心配そうに声をかけてくる。
「ああ、なんとかな」
「……無茶をしたんですね」
ルナリアは責めるような口調ではなく、ただただ心配している様子だった。
「まあ……仕方ないだろ。俺が戦わなきゃ誰も守れなかったし」
「……そうですね」
ルナリアは悲しげに見渡した。目測だけど、半分くらいは死んだんじゃないだろうか。
200人のキャラバンだから、およそ100人か。
「テメー等ぼうっとしてんじゃねえ! 生存者の確認だ! それが終われば積荷を無事な馬車に移して出発する! 休憩なんてとらねーぞ!」
「そ、そんな、それは無茶ですぜカリームの旦那っ」
「馬鹿野郎! あれがモンスターの全部なわけねーだろ! ここらは危険地帯になっちまったんだよ! すぐに逃げるぞ!」
商人が何人か馬車から降りて、倒れた人を確認して回る。
「ルナリア、俺達も」
「そうですね……怪我人がいれば治すのが僧侶の役割です。役割を果たしましょう」
俺は死体の間を歩く。確認するのは倒れている人間だが、モンスターの死体も同時進行で死んだふりをしていないかチェックしていく。
モンスターの死に顔はどれも穏やかだった。
彼らはどうやって魔族に操られているのか。適切な例えかわからないが、催眠術のようなもので動かされているとするとそれはそれで哀れなのかもしれない。
「……ごめんな」
俺の戦いなんて意味がないのかもしれない。それでも俺は、守りたいもののために戦わねばならない。
勇者なんてなる気はないけど、やりたいことはやり通す。
「勇者様、あれ」
震えた声でルナリアが指差す。
その指の先にあったのは……
「え、エイダちゃん?」
俺達が乗っていた馬車、それが叩き潰された光景だった。
エイダちゃんは死んでいた。
一目見れば明らかだった。たぶん馬車ごとあの巨大ゴリラに潰されたんだろう。
潰れた馬車の残骸の隙間から、彼の手が飛び出していた。
それでもすぐに助け出そうとする俺に、ルナリアが否定する。
ルナリアは教会の娘だ。怪我人の治療にも慣れている。
腕から脈をとり、心の臓が止まっていると断言した。
「今は……今は、もっと助かる可能性が高い人を捜索しましょう」
「あ、ああ、そう……だな」
そうして、俺達がエイダちゃんの亡骸を掘り出したのはそれなりに時間がたってからだった。
やや原型を失っている彼の死体。
それを見て彼の死を実感したのか、ルナリアは声を震わせた。
「ごめんなさい、私が油断したせいで……ああ……」
ルナリアはその場に崩れ落ちて、嗚咽を漏らす。
俺は心が冷えていくのを感じていた。
なんでだ? 俺はエイダちゃんと約束をしたじゃないか。一緒に魔王を倒すって。
それなのにどうして、もう何もかも手遅れなんだ?
「……テメー等何やってんだ」
立ちつくす俺達にカリームが呆れ顔で近づいてきた。
「言ったはずだ、さっさと片付けてずらかるってな。死体はここに置いていくぞ」
「……わかった。あ、いや……」
俺は頷き、ふと思い付く。
エイダちゃんはかなり華奢な子だ。肩幅も小さい。
俺は魔法の袋を大きく開き、エイダちゃんの身体を押し込んだ。
「ちょ、何をしているのですか?」
「生きた生物は入らないけど干し肉は入るんだ、死体だって入るだろ」
ぐいぐいと突っ込んでいくと、なんとかエイダちゃんの身体は袋の中に消えていった。
「その……いえ、なんでもありません」
ルナリアは口淀み、しかし何も言わなかった。
「カリーム氏の言う通りだ。今はやるべきことをやろう」
「はい」
俺達は荷物を残った馬車に運び込む。
袋の中は無限に近い容量があるが、時間は経過する。
町についたら、ちゃんと弔わないと腐っちまうな……
「ごめん……」
モンスターに対しても、仲間に対しても、謝ってばっかりだ。
俺のせいだ……