キャラバンの旅は続く。
大規模な襲撃を生き残った俺達は、キャラバンを再編成して再び移動を始める。
そして、中継地点の次の町へとつくことができたのだった。
「勇者様、そろそろ食事にしましょう」
「ああ」
ルナリアの声に頷き、俺は立ち上がる。
ここは中継地点の宿屋。馬車は宿の脇に停めてある。
食堂にいくと、既に他の冒険者達が食事を始めていた。
俺達が席に着くと同時に、隣から声がかけられた。
「よう! すまん席なくてな、隣いいか?」
「ああ、ガザルか。どうぞどうぞ」
俺が頷くと男はどかりと座った。
戦士風の男の名前はガザルという。カリーム氏のキャラバンに雇われた護衛の1人だ。
見た目どおり剣士で、今は臨時で他の奴とパーティを組んでいるが、普段は一人で冒険者をやっていると言っていた。
「なあ、お前等あの時、人間っぽいやつと話してたよな? モンスターの襲撃と関係あるのか? あいつらは何者なんだ?」
「……ああ」
そのことか。俺は疲れたように息を吐き出した。
「俺も詳しくは知らない。ただあの襲撃者は、魔王軍幹部の吸血鬼だって名乗ってたよ」
俺が勇者だということは明かさない。面倒事はごめんだ。
「魔族がなんで町を襲撃するんだ?」
「さあ……そういう習性なんじゃないのか?」
俺の適当な答えに、ガザルはうんざりしたように首を振った。
「なんだよそりゃ。やれやれ、大人しかった魔王とやらがなんで急に動き出したんだか」
「そうなのか?」
魔王は大人しいのか。まあ、これまで通った町や村でも、それっぽい話は聞かなかったからな。
「ああ、今までは俺達も大規模な戦争なんて意識はなかったからな……それが急に襲撃なんてされたらたまったもんじゃねえ」
「そうだな」
「さっき話を聞いて回ったがよ、あっちこっちで同じような被害がで始めてるらしいぜ」
魔王軍全体が急激に活発に動いたのか。結局なんで人間の町が襲撃されるのかって疑問に繋がるわけだけど。
「1人減ってるな。……もしかして、パーティーに被害があったのか?」
「……ああ。仲間が1人、死んだよ」
「そうか」
俺は少し空気が重くなってしまったのを感じた。エイダちゃんの亡骸、傷まないうちにちゃんと埋葬しないと。
「お前等は、仲間が死んでないみたいで良かったな」
ガザルにそう言うと、「そうだな」と言って彼は届いた食事にがっつきはじめた。
「貴方様、そろそろ行きましょう。教会の準備がありますから」
ルナリアに促され、俺は立ち上がる。
「それじゃあ俺達は行くわ。じゃあな」
「ああ、そうだな。また明日」
いつもの通り、明日の早朝には出発だ。用事は早めに済まさなければ。
ガザルは寂しげに笑っていた。彼にも色々あるのかもしれない。
俺は教会への道中、星空を見上げた。
光源は小さな油灯だけ。夜空には月や星の輝きが瞬く。
綺麗ではあるがそれだけだった。
「勇者様、あの」
「ルナリア……何?」
俺が振り向くと、彼女は顔を伏せる。
「……ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ?」
「だって……」
ルナリアは悲しそうな顔をした。
俺は頭をかくと、彼女の肩を叩いた。
「あうっ」
ルナリアは可愛らしい悲鳴を上げて、上目遣いに非難の視線を向けてくる。俺はそんな視線に気づかない振りをして、彼女に訊ねた。
「なあ、改めて確認するけど。死者蘇生は……ないんだよな」
「はい。死後、魂は神の御許に召され、浄化されます。二度と甦りません」
「そう、なのか?」
俺は、星空を見上げながら息を吐いた。
地球でもそうだけど、死後の世界なんて誰にもわからない。
ルナリアは博識だが、この世界が天動説か地動説か、それすら曖昧な知識だ。確信は得られない。
死者蘇生の魔法だって、神話の中には存在しているとルナリアは言っていた。
なにより、俺は知っている。
「世界樹の葉」
ドラクエ世界における、死者蘇生アイテム。それは、死者の魂を肉体に呼び戻すというアイテム。
ルナリアは驚いたように俺を見た。
「世界樹……この世のどこかにあるとされる、世界を支える柱の大樹ですか。その葉には輪廻の理すら覆す力を秘める……神話には出てきますが、よくご存知ですね」
「ルナリアも知ってたんだな。この世界じゃ有名なのか?」
ルナリアは首を振る。
「いいえ……私も、世界樹という名前だけ知っているだけです。ですが、多くの神学者が調査しても見つけられていません。実在しないと言われています」
「実在するよ」
俺がそう言うと、ルナリアは目を見開いた。
「……え?」
「いや、だから実在するんだって」
俺の言葉に、彼女は動揺したように首を振る。
「そ、そんなはずありません! あれは伝説の……実在なんてするわけがありません!」
俺はその剣幕に驚く。
「お、落ち着けよルナリア」
この世界は原作ゲームと色々違うけど、アイテムについてはほぼ完全に共通だった。
確かに確信はない。だが、世界樹の葉は……あるのかもしれない。
「ですが、でも……確かに勇者様がおっしゃるのなら、あるのかもしれないですけど……」
ルナリアは顎に手を当てて考え込む。
「勇者様はこれまで、未来が見えているかのような予言めいた発言を度々してきました。それがどんな秘密かは聞きません。しかし、その予言に世界樹があるというのなら……私は否定できません」
「…………。」
ルナリアはそれから、改めて俺に問う。
「勇者様、世界樹はどこにあるのですか?」
俺は少し考えてから世界地図を広げた。
オイルランプの光量が小さすぎて、かなり見にくい。俺達は顔を寄せ合って地図を確認する。
「ここだ。この大陸の遥かに東、大森林の奥地に世界樹はある」
「遠いですね……ここは完全に未開未踏の地とされています。踏破するとしても、これまでの街道を利用した旅とは比べ物にならない困難となるでしょう」
「そうだな。なあ、仮に世界樹の葉があったとして、死体が腐っていては蘇生は不可能だと思うか?」
「それは……」
ルナリアは言いよどむ。
曰く。死者蘇生の術は、死した肉体を蘇らせるわけではない。その魂をその器に戻すという魔法らしい。
そして、肉体が損傷していた場合、魂もまた汚れてしまい……輪廻にすら戻れず完全消滅してしまうかもしれないと彼女は言った。
「私の断片的な知識ですが……死者蘇生の術は、遺体が腐敗していれば効果が得られない可能性が高いです」
「そうか」
まあ、なんでもありなら、それこそ原作勇者はオルテガを生き返らせているはずだからな……