俺はルナリアを宿の部屋に連れ込んだ。
この言い方だといかがわしいな。別に変な意図はない、これからの相談をしたかったのだ。
俺の実家は戻らないと決意しているし、ルナリアの実家である教会は街の反対側でアクセスが悪い。
そもそも彼女も家を出る身ということで、今日から宿に泊まることになっている。
ということで、このアリアハンの一画にある普通の宿屋が、俺達の当分の拠点と定められた。
荷物を漁り、幾つかの道具をルナリアに手渡す。
「とりあえず、これ。王様に貰った装備だからルナリアも使って」
「はい。お借りしま……」
俺から受け取った棍棒と旅人の服を見て、ルナリアは愕然とした。
気持ちはとても解る。到底国家が勇者に与える装備じゃない。
「あの……私は何かしらいじめを受けているのでしょうか?」
「違う。ただこの国が貧乏で、俺が貧乏ってだけの話だ」
「私の実家に、金銭支援を申し込んだほうが宜しいでしょうか……?」
「やめてくれ。俺が情けないし、この周辺ではこの程度の装備で充分ってのも事実だ」
多少頑丈な服に、丈夫そうな木の棒。
ファンタジー世界というか日本でも普通に揃えられそうな、実に貧弱な装備だ。
「その法衣って装備なのか? 脱いだら僧侶的にルール違反だったりするのか?」
「ルール違反ということはありませんが、基本的にこれを着ることを推奨されています。ただ、この下の服装は自由なので、防具を身に着けたりするのには支障はありません」
ちなみに彼女が着ている法衣は、いわゆるドラクエ3の僧侶が設定画で着ている、おにぎらずみたいな一枚布で出来た物ではない。
ローマ法王が着ている白を基調とした服をいくらか現実的に地味にした、といった感じの装いだ。
前面からエプロンのようにかけて紐で縛る構造らしく、なんなら鎧の上からでも着れそうなフリーサイズっぷりだ。
「なるほど、冒険に出る僧侶の為に、色々融通が効く構造になってるんだな」
「はい。今後私が他の防具を身に付けるとしても、基本的に表向きはこの服で居続けることでしょう」
彼女が法衣を少しめくってみせると、その下には普通にブラウスを着ていた。「布の服」ってところか。
……ただ、彼女はちょっと迂闊だと思う。
スタイルのいい女性がエプロンのように巻くタイプの服を着ると、やたらと身体の起伏が目立ってしまう。
うーん、目の保養。
保養にはなるけど、目のやり場に困る。
「どうかされましたか?」
「い、いや、なんでもない。それで今後についてだけど……まずは外に出て、モンスターと戦ってみたいと思ってる」
「そうですね。恥ずかしながら、私は戦闘経験はありません。是非ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いいたします」
「恥じることではない。俺だって戦った経験はない」
「えっ?」
ルナリアは驚いていた。
当然だ、勇者として育てられた少年が戦いの経験がないなどありえない。
だが忘れてはいけない。
英雄の息子、サラブレッドであるドラクエ3の主人公。
ただの漁師の息子であるドラクエ7の主人公。
こいつら、戦闘能力がどんぐりの背くらべである。
ドラゴンクエスト3の主人公、設定の割に妙に弱いのだ。
「いきなりダンジョンに突撃なんてしない。アリアハン周辺をうろちょろしたいと思う」
「はい。それでいいと思います」
俺達は最初の目標を定めた。
目指すは海。アリアハンを南に進み、海を拝んでやろうという計画だ。
勇者の旅立ちとしてはあまりにしょぼい目標だが、2人揃って初めての旅というならば遠足レベルで感触を確かめるべきであろう。
「それじゃあ買い出しに行くか。慣れてきたら分担するかもだけど、最初は一緒に行こう」
「はい。参りましょう」
俺達は買い物に出発した。